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2018年3月24日土曜日

ミトコンドリアの遺伝子variationと痛風の関連:Polynesian peopleの研究より


Gosling AL, et al. Ann Rheum Dis 2018;77:571–578. doi:10.1136/annrheumdis-2017-212416


背景
  • 痛風は、Māori and Pacific (Polynesian)に多く、重症度も高く、若年で発症する傾向にある
    • 腎臓と腸管で尿酸を分泌するトランスポーターに関わる遺伝子変異が、Polynesianに存在することが報告されている
  • 高尿酸血症は、痛風発症には必要であるものの、高尿酸血症の全員が痛風になるわけではないため、尿酸結晶(MSU)を形成し急性炎症反応が生じるには、他の要素も必要だと考えられる
  • 痛風の炎症反応の初期には、複合体であるNLRP3 inflammasomeが活性化され、IL-1βが産生される
    • NLRP3 inflammasomeの構成物質の遺伝子変異は、痛風に関連していることが報告されている
  • ミトコンドリアは、NLRP3 を介した炎症反応に関連している
    • 興味深いことに、PPARGC1B gene のmissense 変異が痛風と関連しており、PPARGC1B geneの発現はMSUによって刺激される
    • PPARGC1B geneは、ミトコンドリアの生合成を維持するPPARγを活性化するPGC1βをコードしている
  • ミトコンドリアは、自身に、環状の16.5kBのゲノムを有している
    • そのゲノムは、oxidative phosphorylationの13サブユニットと24 RNA components(2rRNAsと22tRNAs)をコードしている
    • mtDNAは、様々な疾患と関連していることが報告されている
    • それぞれのミトコンドリアは、mtDNAを2-10コピー有しており、核酸構造であるミトコンドリアマトリックスの内膜に均等な間隔で存在している
    • mtDNAは代謝疾患と関連しており、SNP variantsが2型糖尿病と関連していることが報告されている
      • 2型糖尿病と痛風はしばしば共存しており、両者ともNLRP3を介した炎症反応が関与しているため、ミトコンドリアの遺伝子変異が痛風発症に関与している可能性があると考えられた
      • そのため、今回は、ミトコンドリアの変異・機能不全が痛風のリスク因子であるという仮説のもと、ミトコンドリア遺伝子変異とミトコンドリアのcopy numberの、痛風との関連を、Polynesianを対象に調べた

方法
  • 対象
    • ニュージーランドにて2006-2013年の期間に痛風と代謝性疾患の研究目的でリクルートされたPolynesianのコホート使用して解析
    • 痛風のACR基準を満たす
  • 再燃の回数は質問形式で調査
  • 437人のPolynesian(男性:432人、女性:5人)のmitochondrial genome sequencingを実施
    • 全例、母方の祖母はPolynesian
    • Mitochondrial DNA copy number variationは、3つの独立した検体で調べた
    • 代謝関連のcharacteristics(table1)



結果

haplogroupsとSNPsの、痛風との関連
  • 35種類のmitochondrial haplogroups が同定された(table2)
    • ミトコンドリア遺伝子の多様性はわずかであり、ほぼ大半(95.7%)がB4a1aとそのsublineagesに属していた

    • この中で、最も頻度の多かった3つのB4a1a1-derived haplogroups(table3)と、頻度 > 0.10であるマイナーアレルを有するSNPs(table4)は、痛風との関連が示されなかった




Heteroplasmyと痛風の関連
  • whole mitochondrial genome datasetの中のHeteroplasmy について調べたところ、16179-16183領域のheteroplasmic variants が痛風と関連した(table5, figure1)
    • これらの変異は、poly-cytosine tractの一部を形成する、16189Cの変異であるB-macrohaplogroup の近くに存在しているため、この領域のいくつかのB-haplogroup特異的な変異の結果であると仮説を立てた
      • B4a1a-derived lineageのみで調べたところ、16181のdeletionのみ、痛風とheteroplasmic variantsの関連が有意だった
  • 16189C alternate alleleを有するHeteroplasmyと関連する3つの主なハプロタイプを特定した
    • 16180の2bp deletion(16182と16183のreference A allelesとともに同時に存在する)
    • 16180の1bp deletion(16183Cと連鎖不均衡)
    • 16180にdeletionが存在しない(16181-16183のalternate C allelesと連鎖不均衡)



mitochondrial DNA copy number と痛風の関連
  • whole genome sequence と urate locus resequence data setsのin silico解析では、mtDNA copy number の減少と痛風発症が関連していた
    • mtDNA copy number が 10 copies 増加するごとに、痛風の罹患しやすさは、non-overlapping whole genomeでは13%低下 (OR 0.87, P=0.003) 、urate locus resequenceでは9%低下 (OR 0.91, P=3.3×10–4) data setsした(table6)
  • mtDNA copy number が、ミトコンドリアの機能不全によるNLRP3 inflammasome活性化(特に高尿酸血症の状況下での痛風発症)に関連していると仮説をたてた
    • そこで、高尿酸血症のコントロールを使用して調べたところ、有意差は維持していた(OR=0.89, P=0.007and OR=0.90, P=0.002, respectively) (table6)
  • この結果を確かめるために、1159人の別のPolynesianの検体でqPCRで調べた
    • 全体では有意差なかったが、高尿酸血症のコントロールと比較すると痛風の発症と有意に関連した(OR=0.76, P=0.03)(table6)





    mtDNA copy number と痛風"再燃頻度"との関連
    • 3つの患者群で調べたところ、上記の痛風発症のリスクとは逆の結果で、mtDNA copy number の増加が、1年間における痛風発作の再燃回数増加と強く関連していた
      • the urate locus resequence dataでは、mtDNAが100 copies増加することに、1年間における痛風発作の再燃が0.3回増加した(P=7.1×10–7
      • the qPCR data setでは、negative ΔCtが1 unit増加するごとに、1年間における痛風発作の再燃が0.08回増加した(P=1.2×10–4

    まとめ
    • 今回の研究は、mtDNA variationと痛風発症のリスクについて調べた最初の報告である
      • 頻度の多いPolynesianのmitochondrial variantsのいずれも、痛風との関連はなかった
      • しかしながら、対象者の96%が、B4a1a1-derived mitochondrial haplogroupsを有していた
        • 以前より、このPolynesianのhomogeneousは知られていたが、系統的な調査はされていなかった
        • これらのhaplogroupsが、Polynesianの痛風有病率の高さと関連していると考えられる
      • 今回、non-B4a1a1-derived lineagesに関しては十分に調べなかった
        • しかしながら、heteroplasmyと、mtDNA copy numberの減少が、痛風と関連することが今回示された
    • 痛風と関連があるheteroplasmyは、B macrohaplogroupを決定する重要なSNPsの1つである16189C variantと連鎖不均衡である
      • 16189C variantは、16184-16193のpoly-cytosine tractに影響している
      • homo-nucleotide tractsがポリメラーゼのslippageを生じさせるということは、最近わかってきている
      • 今回用いたサンプルのデータセットは、16189の C alleleの頻度は0.96だったため、16189C variantは痛風との関連の解析に含めなかった
        • しかしながら、16189C variantと16183C(heteroplasmic variantsの1つ)が高い相関関係にあった(Pearson’s correlation 0.81, P<2.2×10–16)ため、16189Cの存在はpoly-cytosine tractに直接的に影響し、それによってheteroplasmyにも影響しているのかもしれない
      • poly-cytosine tractに影響している16189C variantは、他の代謝性疾患にも関連していることが報告されている
      • heteroplasmic variantsが、翻訳の始点に近いHVR1のpoly-cytosine tractの長さを変化させる
        • これは、16189Cによって合成されたpoly-cytosine tractの違いがheteroplasmyの長さと関連しているという結果と一致している
        • poly-cytosine tractの延長によって、さらなるポリメラーゼのslippageが生じ、下流の機能に影響しているのかもしれない
        • 既報では、ミトコンドリアゲノムのpoly-cytosine tractの変化が悪性腫瘍と関連することが報告されている
      • もし翻訳が阻害されると、ミトコンドリアの生合成が障害され、不適切な自己炎症の抑制が障害されるのかもしれない
      • しかしながら、DNAのhomo-polymerを延長させるのは難しく、heteroplasmyと痛風の関連は、技術的なエラーの結果である可能性があることを注意しなくてはならない
    • 無症状の高尿酸血症の患者と比較して、痛風患者では、mtDNA copy numberの減少がみられたのは、MSU結晶±痛風の免疫学的反応が、mtDNA copy numberの減少が関連している可能性が示唆される
      • これに関連したいくつかのシナリオが考えられる
        • 1つは、疾患そのものがmtDNA copy numberの低下を起こし、mtDNA copy numberが疾患の指標となること
        • 2つ目は、mtDNA copy numberの低下が、ミトコンドリアの生合成やmitophagyを抑制した結果、疾患発症を生じさせる、ということ
        • 3つ目は、mtDNA copy numberの低下は、直接的には疾患と関連せず、他の交絡因子が存在すること(BMIなど)
    • mtDNA copy numberの増加は、痛風発作の再燃の増加と関連した
      • これは、上記とは相反する結果だった
        • アロプリノールなど治療による影響の可能性もあり、解釈が難しい
        • xanthine oxidaseを阻害することで、ROS産生が低下し、アロプリノールはミトコンドリアの機能を改善させる、ということが、痛風発作の回数とmtDNA copy numberの増加が関連した原因かもしれない
      • mtDNA copy numberは、痛風患者と健常人における、白血球のpopulationの違いを反映しているかもしれない
        • 炎症がある際には好中球は増加するものの、好中球のミトコンドリアは他の白血球と比較すると少ない
      • 疾患によって、ミトコンドリアの構造変化が生じている可能性もある
        • 2型糖尿病の患者では、健常人と比較して、数は同じであるものの、有意に小さく球形に変形していることが既報で報告されている
        • さらに、ミトコンドリアの内膜の構造異常が頸動脈に動脈硬化を有する患者で報告されている
        • mtDNAはこの内膜にアンカーされているため、これらの構造変化によってmtDNAが減少しているのかもしれない
        • 痛風では、この2型糖尿病のようなミトコンドリアの構造変化があるかどうかは調べられていない
    • mtDNA copy numberの低下は、ミトコンドリアの生合成、mitophagyの機能低下の結果生じている可能性もある
      • ミトコンドリアのautophagyを阻害すると、炎症が生じることが報告されている
        • PPARGC1B(ミトコンドリアの生合成に重要な蛋白をコードしている)のmissense variantが痛風と関連しており、このvariantがMSU-stimulated NLRP3活性化とIL-1β分泌を促進することが報告されている
          • PPARGC1B、PPARγ、AMPKの発現・活性の変化が、ミトコンドリアの機能不全と痛風に、systematicallyに関連している可能性がある
        • さらに、テロメアの機能不全とtelomerase reverse transcriptase (TERT)の欠損がミトコンドリアの障害と関連しているという報告が複数あり、テロメアの短縮が痛風と関連している可能性もある
          • TERT-欠損マウスでは、PPARGC1APPARGC1Bの発現が抑制されており、テロメアの短縮は、PPARGC1APPARGC1Bを介してmtDNA copy numberに影響しているのかもしれない
    • もし、ミトコントリアの減少が痛風発症と関連している場合には、 PPARγアゴニストであるピオグリタゾンが痛風の治療選択肢となるだろう
      • ピオグリタゾンは、有意に、mtDNA copy numberと、PPARGC1Aやmitochondrial transcription factor A (TFAM)などの生合成に関わる因子の発現を増加させる
      • ラットの痛風モデルでは、ピオグリタゾンによってサイトカインの発現が減少した。
      • さらに、HK-2 cell lineで、MSU結晶-induced NLRP3 inflammasome活性化とIL-1β産生を有意に減少させたという報告もある。
    • サマリー
      • mtDNA alleleのvariationと痛風の明らかな関連は認められなかった
      • しかしながら、heteroplasmyと、mtDNA copy numberの減少が、痛風と有意に関連した
      • 今後、mtDNA copy numberと痛風の因果関係を明らかにすることで、新規治療薬や診断方法が開発されるかもしれない

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