背景
- SLEの病態はわかっていないことも多い
- 1999年にブレークスルーが起き、B細胞のsurvival factorであるTNF ligand super family member 13B (=B cellactivating factor of the TNF family [BAFF], Blymphocyte stimulator [BLyS], zTNF4, THANK, TALL1) が発見された
- これは自己免疫において重要であり、特にSLEの病態に関与していると考えられた
- 2011年に、BAFFに対するモノクローナル抗体であるbelimumab(ベリムマブ)がランダム化臨床試験でSLEの一部の患者に有効であることを示し、SLEに対する最初に承認された標的治療である
- また、BAFFに対する治療の有効性から、SLEの病態にT細胞のみが関与していることではないことが示された
- 臨床試験とそのpost hoc解析で、SLEでベリムマブによって治療された患者のデータから、BAFFと、それに関連するサイトカインであるTNF ligand superfamily member 13 (=a proliferation-inducing ligand [APRIL] )の情報が得られた
- これらの情報からは、ベリムマブの治療効果は、B細胞除去によるもの以外の機序であることが示唆された
- また、SLEの一部の患者において、BAFFとAPRILの異常が認められることが示唆された
- BAFF/APRIL system は、B細胞におけるinnate activationに関与している
- 今回のreviewでは、BAFF/APRIL systemとSLEの新しい知見を述べていく
the BAFF/APRIL system(Figure1)
- このシステムには、2つのリガンド(BAFF, APRIL)、以下の3つの受容体が関与している
- BAFF receptor[BAFF-R] (= BLyS receptor 3 [BR3] )
- 未熟B細胞の生存、成熟
- TNF receptor superfamily member 17 (=Bcell maturation antigen [BCMA])
- plasma cellの生存
- TNF receptor superfamily member 13B (=transmembrane activator and cyclophilin ligand interactor [TACI] )
- T細胞非依存性の、type1 or type2抗原に対するB細胞の反応
- B細胞分画へのnegative regulation
- B細胞のクラススイッチ
- BAFF, APRILに関して
- BCMAとTACIはBAFFとAPRILの両者が結合するが、BAFF-RにはBAFFのみ結合する
- 以下の細胞から産生される
- 骨髄系細胞(マクロファージ、好中球、DCs)
- 放射線抵抗性の間葉系細胞
- リンパ系細胞(B細胞、活性化T細胞)
- TLR-9活性化plasmacytoid DCs
- IL-2活性化NK細胞
- 2型膜貫通タンパク質である
- BAFFは、furin protease site から分離して、可溶性サイトカインにも加工される
- APRILは主に可溶性サイトカインである
- 悪性B細胞性リンパ腫から同定されたAPRIL-δ isoform、APRILとTNF ligand superfamily member 12 (=TNF related weak inducer of apoptosis [TWEAK])のハイブリッドであるTWE-PRILの2つは例外で、膜に結合している
- BAFFの膜結合部位は3量体である(Figure1, 2)
- BAFF3量体が20個集合し、BAFF 60-merを形成することができる。
- また、APRILとBAFFが集合し、BAFF-APRIL heterotrimerを形成することもできる。
- recombinant BAFF-APRIL heterotrimerは活性体であるが、BAFF もしくは APRILのhomotrimerよりは活性が弱い
- このheterotrimerは、その構成によって、BAFFを標的にした治療に対する感受性が異なるかもしれない
- furin protease が作用する部位に変異のあるBAFFを発現させたマウスは、BAFF欠損マウスと同様の表現型を示した
- しかしながら、上記のfurin protease site 変異のBAFFマウスから採取したB細胞に可溶性BAFFを投与すると、BAFF欠損マウスのB細胞に可溶性B細胞を加えた時よりも、よりwild typeに近くなった
- これらより、BAFF-mediated B細胞の成熟には2つのステップがあることが示唆される
- 可溶性BAFFは、BAFF-Rを介してB細胞の生存を促進する
- B細胞の表現型は、膜に結合しているBAFFからのシグナルによって(おそらくTACIの活性化)、調整される
- ヒトのBAFFは、2つのN-グリコシル化されうる部位を有した285個のアミノ酸から構成される
- いくつかのELISAでは、グリコシル化されていないBAFFのみに反応するが、他のELISAではグリコシル化されたものとされていないものの両者に反応するため、血中BAFF濃度と疾患の活動性が報告によって一致していないのはBAFFのグリコシル化に関する状態が関わっていると考えられる
- BAFFのsplice variantsであるΔBAFFは、SLEの病態に重要な役割を担っている
- マウスのΔBAFFは、不活性のheterodimerを通常のBAFFと形成することにより、BAFFの活性を下げている
- BAFF-φは、ヒトでは機能を有していないisoformである
- BAFFを標的にした治療の有効性がそれぞれのケースで異なるのは、上記のようにいくつか存在する機能の異なるBAFF isoformや、グリコシル化 variantsに対する結合能や中和する能力がそれぞれによって異なるからかもしれない
the BAFF/APRIL system in SLE
- BAFFは、B細胞の成熟と生存に必要である
- BAFFを欠損したマウスは成熟したB細胞が欠損し、免疫不全になる
- BAFFを過剰産生したマウスでは、成熟B細胞と自己反応性を含む抗体が増加し、SLEに類似した自己免疫疾患を発症する
- このマウスにBAFF阻害薬を投与すると症状が改善することから、SLE患者に対するBAFFを標的にした治療は有効であることが支持される
- APRILは、クラススイッチやplasma cellの生存に重要である
- APRILを過剰発現したマウスでは、SLEのような症状ではなく、B1 B細胞の腫瘍を発症する
- lupus-proneマウス(NZB/W F1 mice)に対する、選択的なAPRIL阻害は、発症を遅らせることができた
- Jacobらは、NZM.April–/–(NZM.Tnfsf13–/– ) miceを使用し、APRILは、SLEの発症に必須ではないことを示した
- NZM.Baff –/–April–/– (NZM. Tnfsf13b–/–Tnfsf13–/–) は、NZM.Baff –/ (NZM. Tnfsf13–/–) よりも、骨髄のplasma cellが減少し自己抗体も少なかったが、いずれのマウスも軽症の腎病変を有していた
- この結果から、BAFFとAPRILの両方を阻害すると、リスクよりも毒性の方が大きいと考えられる
- 実際に、phase2/3臨床試験にて、BAFF, APRIL, BAFF-APRIL heterodimerを中和するchimeric recombinant fusion protein atacicept (combining TACI with an immunoglobulin constant region) を活動性のSLE腎病変に投与すると、IgGが大きく低下し感染症のリスクが増加し、中止となった
ベリムマブ
- ヒトの可溶性BAFF(膜結合型ではない)を標的にした、完全ヒト型recombinant monoclonal IgG1 λ antibody
- B細胞生存を障害する
- SLE通常治療にベリムマブを加えたphase3、2施設、二重盲検、ランダム化プラセボ比較試験にて、1684人を対象とし、76週間観察した
- いくつかの疾患活動性スコア(SLEDAI, BILAG, SRI)で評価ところ、SRI, 健康関連QOLがプラセボと比較して優れており、安全性も問題なかった
- そして、SELENA-SLEDAIにて高疾患活動性の患者では、自己抗体の低下と補体の正常化にも関連していた
- また、post hoc解析にて、baselineにて抗ds-DNA抗体高値、低補体血症の場合に、ベリムマブの反応性が優れていた
- さらに、末梢血に循環しているnaive B細胞、活性化B細胞、plasma cellを減少させた。しかしながら、末梢血中のmemory B細胞 or T細胞は変わらなかった。
- 以前に注射した肺炎球菌、破傷風、インフルエンザワクチンの抗体価には、治療1年後の時点では影響していなかった。
- すなわち、memory B細胞は維持されていたということである
BAFF and APRIL as biomarkers of SLE
- 健常人と比較して、SLEやSjS、RAなどの自己免疫疾患では、BAFFとAPRILの血中濃度は高くなっている
- BAFFとAPRILの血中濃度が、バイオマーカーとして利用できるかに関しては、しばらく議論されてきたが、疾患活動性と相関するかに関しては、報告によって異なる
- Petriらは、多変量解析にて、baselineの血中BAFF濃度 ≧ 2ng/ml であることが、通常の治療(PSL, HCQ, MTX, MMF, AZA)を受けていると中等症〜重症のSLE再燃を起こす予測因子であることを報告した
- これは、RTX治療後のBILAG indexによる疾患活動性と、血中BAFF濃度が相関することによる報告からも支持される
- しかしながら、SLEDAI-2Kによる疾患活動性と、血中BAFF濃度が相関しないSLE患者群もいることも報告されている
- ベリムマブによるphase3試験にて、baselineの血中BAFF濃度は、BAFF標的治療群とコントロール群の何でもoutcomeの予測因子とはならなかった
- これらの報告による違いは、BAFFの解析手法、疾患活動性の評価方法、対象患者群の違いによるものと考えられる
- しかしながら、血中BAFF or APRIL濃度自体は、組織における活性化したものが含まれておらず、正確にtotal BAFF or APRIL産生を反映しているわけではないだろう
- 腎病変がある場合には、サイトカインなので、尿から排泄される量が減るかもしれず、尿中のサイトカイン量も測定すべきである
- これまでの報告で、疾患活動性が高い SLE患者においてベリムマブが有効だったため、このベリムマブが有効なSLE患者群はBAFF, APRIL発現量に関係している可能性が高いため、疾患活動性とこれらのサイトカインの関係を正確に調べる必要がある
SLE clinical subsets
- サイトカインの測定を、全ての臓器病変を組み合わせた複合評価スコアではなく、一部のSLE患者群に絞って測定することを試みている研究もある
- BAFF, APRILを、腎臓病変、中枢神経病変を有するSLE患者で測定したところ、BAFFは腎臓病変を有する患者群で増加、APRILは中枢神経病変を有する患者群で、低下していた
- これはマウスでの、臓器病変によって異なる経路が関与しているという結果からも支持される
- これが正しければ、それぞれ異なる臓器病変を呈するSLE患者群全体に適したgeneralなバイオマーカーは存在しないということになる
- 逆に、それぞれの症例のphenotypeに合わせて標的治療を決定するといいかもしれない
- 腎臓病変と中枢神経病変の場合にはBAFFが増加しているので、これらの患者ではベリムマブが有効かもしれない
- ベリムマブのphase3では重症中枢神経病変と腎病変の患者が除外されているが、post hoc解析では腎病変を有するSLE患者において有効だった
- また、他の報告でも、baselineで腎病変を有していないSLEでは、有する患者に比べてベリムマブの有効性が劣ることも報告されている
- BAFF, APRILの正確な測定方法と、SLEの中でもそれぞれ異なるmanifestationを呈する患者群に分けて治療反応性を評価することが必要である
Ethnicity and polymorphisms
- SLEは、人種間で有病率や特徴が異なる
- アジア人、黒人は白人より重症化しやすい
- 既報では、アジア人において有意にBAFF, APRILが高いということはなかったが、アフリカ系アメリカ人では白人系アメリカ人よりもBAFFが高かかった。しかしながら、これは多変量解析をすると有意差が消失した。
- 一方で、白人系アメリカ人では、SLEDAIとBAFF濃度が相関していたが、アフリカ系アメリカ人では相関していなかった
- また、single nucleotide polymorphisms (SNPs)に焦点を当てたBAFF, APRILの測定が将来的に行われるだろう
- ヒトのBAFF遺伝子であるTNFSF13B のpromoter, coding, untranslated regions に、いくつかのSNPsが特定されている
- エジプトのSLE患者において、promor領域の871C>T、2701T>A SNPsが疾患感受性として報告されたが、症状との関連は有意でなかった
- 871T alleleを有する健常人のmonocyteでは、BAFF mRNAが、871T alleleを有さない健常人のmonocyteと比較して増加していた
- ヒトのAPRIL遺伝子であるTNFSF13 のSNPsも特定されている
- 日本人において、Gly67Argが疾患感受性として報告されている
- このSNPsは、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニックでも疾患感受性として報告されている
- さらに、日本人において、c.199Ac.287G (67Arg-96Ser) SNP がprotectiveに作用し、c.199Gc.287A (67Gly-96Asn) が疾患感受性として作用すると報告されている
BAFF and APRIL receptors in SLE
- lupus-prone BCMA 欠損マウス (MRL-Faslpr/J.Tnfrsf17–/– , Nba2.Tnfrsf17–/– mice) におけるSLE増悪を見ると、BCMAはSLE発症に対して直接的 or 間接的にnegativeに作用していると考えられる
- これらのマウスでは、異常なBAFF or APRILのシグナルが、TACI or BAFF-Rを介して生じていると考えられる
- wild-typeと比較して、lupus-prone BCMA欠損マウスは、成熟したB細胞・plasma cellを二次リンパ組織に有しており、自己抗体やBAFFも血中に増加しており、腎臓への免疫複合体の沈着も増加している。また、BAFFを産生する細胞の数(DCsやマクロファージなど)も増加している
- BCMAシグナルは、この研究で使用したマウスモデル(MRL Faslpr/J, Tnfrsf17–/–, MRLFaslpr/J.Tnfrsf17–/– 、wild type mice)のsplenic DCsではBCMAが発現していないため、BAFF産生細胞のhomeostasisには間接的に作用しているのだろう
- Jacobらは、NZM lupus-proneマウスにおいて、BAFF-Rのみ欠損(もしくはBCMAのみ, TACIのみ欠損させたマウス)した場合ではB細胞は除去されたが、SLE発症を防ぐことができなかったので、BAFFが過剰発現したマウスとは異なり、NZM lupus-proneマウスではT細胞が病態に重要であることが示唆される
- The reticulon 4 receptor (=the Nogo66 receptor [NgR]) は、neutonやアストロサイトに発現しているBAFFの受容体であり、BAFFシグナルを介して、神経の成長に対してnegativeな作用を有する
- SLEの中枢神経病変において、NgRを介したBAFFシグナルが関与しているかはわかっていないが、中枢神経病変を有するSLE患者において、中枢神経病変のないSLE患者と比較してBAFFが増加しAPRILが低下していることは報告されている
- 多発性硬化症など他の中枢神経病変を有する自己免疫疾患では、アストロサイトからBAFF, APRILが産生されルことが報告されている
- SLE患者の髄液では、BAFF, APRILが増加しているので、アストロサイトなどによって局所的に産生されている or 全身性に産生されてBBBを通過しているということだろう
- NgRがSLEの中枢神経病変に関与しているか、APRILとNgRの関係はまだわかっていない
BAFF, TLR cross-talk and IFN signatures
- Type1 IFN(特にIFNα)はSLEの病態において重要だと考えられている
- 末梢血・罹患臓器のmonocyteにおいてIFNα induced genesの発現が増加している
- 血中IFNα濃度とIFNα induced genesの量は、SLEDAIによる疾患活動性と相関している
- IFNG遺伝子の発現もSLEで増加しており、IFN-γの血中濃度も増加している
- ウイルス感染症や細菌感染症では、plasmacytoid DCsがIFNα産生の主な部位である
- SSRNAと非メチル化CpG-rich DNAによるendosomal TLR7 & TLR9活性化によって、MyD88を介して、IFNα発現が増加する
- SLEでは、壊死 or アポトーシスした細胞のRNAたDNAなどの核酸と、抗体の免疫複合体が、FcγRⅡa受容体と結合し、plasmacytoid DCsの細胞内へ免疫複合体として移行し、endosomal TLRsを活性化して、IFNαを発現させる(Figure3)
- 既報では、以下が報告されている
- マウスのマクロファージにおいて、IFNαがBAFFの発現を増加させる
- ヒトのDCsでは、IFNαとIFNγがBAFFとAPRILの発現を増加させる
- ヒトのmonocyteでは、IFNαとIFNγがBAFFを増加させる
- SLE患者では、健常人と比較して、IFNγに対するmonocyteからのBAFF発現量増加がより大きい
- SLEに対する抗IFNα抗体の臨床試験にて、全血BAFF mRNA発現が低下していることが報告されている
- NZM lupus-prone マウスでは、抗IFNα抗体を投与すると、BAFFを欠損した状態では糸球体腎炎の発症が抑制された
- SLE患者において、血中IFNαの活性化と血中BAFF濃度は相関している
- さらに、BAFF transgenicマウスにて、TLR7 or TLR9とTACIの間にregulation feedbackがあることが報告されている
- これらから、BAFFとIFNαが密接に関係していることがわかる
Therapeutic innovation
- ベリムマブの他に、Tabalumab(完全ヒト型IgG4モノクローナル抗体であり、可溶性BAFFと膜結合BAFFの両者を中和する)、Blisibimod(融合ポリペプチド蛋白であり、可溶性BAFFと膜結合BAFFの両者を中和する)がある
- BAFF 60-merやtrimerがあるが、これらのformによる違いはヒトにおいては詳しく調べられていない
- 既述したように、薬剤の有効性がこれらformによって異なる可能性がある
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