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2017年11月19日日曜日

2016 ACR-EULARシェーグレン症候群分類基準の特性について(日本人の解析より)


Tsuboi H, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1980–1985. 

背景

  • シェーグレン症候群は、主に唾液腺や涙腺などの外分泌腺を侵し、しばしば腎臓や肺の間質、神経系、血液、筋骨格系などの腺外症状を引き起こす自己免疫疾患である
  • リンパ球が外分泌臓器に浸潤し、ドライマウス・ドライアイや様々な腺外症状を生じる
    • 他の自己免疫疾患に関連しないprimary SjSと、関連するsecondary SjSに分けられる
  • 日本には、厚生労働省が提案した診断基準がある。以下のものを含む3つが、ここ3年間では診断 or 分類の際に使用されてきた。
    • the American-European Consensus Group classifiCation criteria for SS (AECG) (2002) 
    • the Sjögrens International Collaborative Clinical Alliance (SICCA) が提唱しているthe 2012 ACR classification criteria for SS
  • 筆者らは、694人の日本人SjS患者を解析し、臨床医の診断をgold standardとしてそれぞれの基準の特性を調べたところ、日本人SjSにおいては厚生労働省基準がもっとも優れていた
    • 日本厚生労働省基準:感度 79.6%、特異度 90.4%
    • AECG:感度 78.6%、特異度 90.4%
    • ACR:感度 77.5%、特異度 83.5%
  • 2016年に新しいSjSの分類基準がACR-EULARから出された(Shiboski CH, et alAnn Rheum Dis 2017;76:916.)
    • これは、上記SICCAとEULARのSjS task forceが合同となり、国際的な共通の分類基準を作るために、SS Criteria Working Group を結成し作成したものである 

各項目の重み付けの結果


    • 組み入れ基準を満たし、除外基準に該当せず、スコア4点以上を分類
      • 口唇唾液腺生検でリンパ球性唾液腺炎の所見を示し、フォーカススコア(FS) ≧ 1フォーカス/4㎜^23点
      • 抗SS-A/Ro抗体陽性:3点
      • 少なくとも片眼で眼球染色スコア ≧ 5点(もしくはvan Bijsterveldスコア ≧ 4点):1点
      • 少なくとも片眼でシルマーテスト ≦ 5㎜/5分:1点
      • 無刺激唾液分泌試験 ≦ 0.1ml/分:1点

組み入れ基準
眼球もしくは口腔乾燥症状を示す、次の項目のうち一つ以上が該当する
  • 3か月以上毎日持続し困っている眼乾燥症状
  • 眼に砂や砂利が入ったような感じが反復して起こる
  • 人口涙液点眼を1日3回以上使用する
  • 3か月以上毎日口渇を感じる
  • 乾いた食べ物を飲み込むのに飲み物が必要になりことがよくあるがある、もしくはもしくはESSDAI質問票で1つ以上の領域が陽性でシェーグレン症候群が疑れる

除外基準
  • 頭頸部の放射線治療の既往
  • PCRで確定した活動性のC型肝炎
  • AIDS
  • サルコイドーシス
  • アミロイドーシス
  • 移植片対宿主病
  • IgG4関連疾患


  • 上記4つの基準は項目、作成された目的が異なる
    • 厚生労働省基準は診断するため、他の3つは研究のための分類基準である
  • 今回の研究では、新しい2016ACR-EULAR分類基準を他の3つと比較した



方法
  • 解析対象の499人(38人男性、461人女性)
    • primary SjSと診断 or primary SjS疑い患者
    • 病理、眼、口、自己抗体について全て評価されている
    • 日本の10施設
  • OSSは日本ではあまりやられていなかったので、Rose Bengal test, lissamine green test,  fluorescein staining testにてVan Bijsterveld Score ≥4 であればACR-EULARのOSSを満たし、Van Bijsterveld Score ≥3であればACRのOSSを満たすとした

  • 無刺激唾液分泌試験はあまり日本ではやられていなかったので、無刺激唾液分泌試験 ≦ 0.1ml/min or ガムテスト ≦ 10ml/min or Saxon test ≦ 2g/2minで、ACR-EULARとAECGにおける唾液分泌量低下を満たすとした
  • gold standardは臨床医の診断とした


結果
  • 499人のうち、(gold standardである臨床医の診断のもとで)pSSと診断されたのは302人で、pSSでない(non-pSS)と診断されたのは197人だった
  • 各診断基準の感度、特異度は以下の通り(table2)であり、ACR-EULARの基準は有意に感度が高く、特異度は低かった(table3)
    • ACR-EULAR感度 95.4%, 特異度 72.1%
    • 厚生労働省基準:感度 82.1%, 特異度 90.9%
    • AECG:感度 89.4%, 特異度 84.3%
    • ACR:感度 79.1%, 特異度 84.8%
  • 無刺激唾液分泌試験をおこなった患者に限った場合は下段のsubanalysis
    • ACR-EULAR:感度 94.1%, 特異度 76.7%
    • 厚生労働省基準:感度 74.9%, 特異度 90.6%
    • AECG:感度 85.7%, 特異度 86.1%
    • ACR:感度 79.8%, 特異度 81.1%



  • 各症例において、各基準を満たすか満たさないかを示したのがtable4
    • pSS症例(288人)も、non-pSS(55人)も、各基準のうち、ACR-EULARが満たす患者が最も多かった
    • pSSと診断された症例のうち、72.8%(220/302人)は4つ全ての基準を満たし、いずれの基準も満たさなかったのは11症例のみだった
    • non-pSSの場合は、いずれも満たさない割合が68.5%(135/197人)と多かく、全て満たしたのは8症例のみだった
    • ACR-EULAR基準以外の3つを全て満たすが、ACR-EULAR基準を満たさない症例はpSS診断症例・non-pSS症例のいずれにもいなかった


  • pSS症例302人のうち8人、non-pSS症例197人のうち11人は、ACR-EULARのみ満たした。この計19症例は、ACR-EULARが他の診断基準と合致していないという症例である。
    • pSS症例8人で、ACR-EULARのどの項目を満たしたか調べてみると、FS陽性(62.5%, 5/8症例)or SS-A抗体陽性(37.5%, 3/8症例)かつ唾液分泌量低下(87.5%, 7/8症例)or 涙液分泌量低下(12.5%, 1/8症例)にて4点となっていた(figure1A)
    • non-pSS症例も同様の組み合わせで4点となっていた(figure1B)

まとめ
  • 新しいACR-EULAR基準は、他の3つの基準と比較すると、臨床医の診断をgold standardとした場合、感度が高く、特異度が低かった
  • 診断・除外する際に、ACR-EULAR基準と、そのほかの3つの基準が全て一致する割合も低かった
    • Shiboskiらからの報告では、ACR-EULAR基準は感度 96%、特異度 95%と高く、他の基準との一致度も高かった(AECG基準とのκ coefficient:0.91、 ACR基準とのκ coefficient:0.82)
  • 今回の結果と既報の結果が異なった原因は、ACR-EULARのみ満たした上記19症例が示している
    • 特異度が低かったことに関しては、non-pSS症例の11症例の解析で検討できる
    • 方法で述べたように、今回の試験では唾液分泌量低下の評価において、無刺激唾液分泌試験をやっていない症例が多く(166/499症例で未施行)、無刺激唾液分泌試験 ≦ 0.1ml/min or ガムテスト ≦ 10ml/min or Saxon test ≦ 2g/2minで、ACR-EULARとAECGにおける唾液分泌量低下を満たすとしたことが、特異度の低下と関係しているのだろう。
      • 実際に、この19症例に含まれるnon-pSSの6/11症例は、唾液分泌量低下をガムテスト ≦ 10ml/min or Saxon test ≦ 2g/2minで定義していた。
      • そして、無刺激唾液分泌試験をおこなった患者群のみで解析したtable2のsubanalysisのほうが、全体での解析よりもACR-EULAR分類基準の特異度が高かった(76.7% vs. 72.1%)
    • 感度が高かったことに関しては、pSS症例の8症例の解析で検討できる
      • これら8症例では、FS陽性(62.5%, 5/8症例)or SS-A抗体陽性(37.5%, 3/8症例)かつ唾液分泌量低下(87.5%, 7/8症例)or 涙液分泌量低下(12.5%, 1/8症例)にて4点となっていた
  • 臨床試験にACR-EULAR基準を用いる場合には、特異度が低いため、non-pSS症例がある程度紛れてしまうことを念頭においておく必要があるだろう
  • limitation
    • gold standardが臨床医の診断としており、曖昧な部分がある
    • 涙腺病変と唾液腺病変の評価方法が施設によって異なっていた
  • これらlimitationを考慮すると、より優れた診断基準が必要である
    • 厚生労働省の基準は、pSSとsSSともに特異度が優れているが、唾液腺造影・唾液腺シンチ・ガム試験・サクソンテストはACR-EULAR基準・ACR基準のいずれにも含まれていない項目であり、眼の染色スコアのカットオフも他の基準と異なり(下記)、さらなるvalidationが必要である
      • 厚生労働省基準:Van Bijsterveld Score ≥3
      • the ACR-EULAR :Van Bijsterveld Score ≥4 or OSS ≥5
      • AECG:Van Bijsterveld Score ≥4
      • ACR criteria:OSS ≥3

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