ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 70, No. 2, February 2018, pp 277–286
Vol. 70, No. 2, February 2018, pp 277–286
背景
- NPSLEには、ACR1999の定義では19種類の神経精神症状がある
- それらの症状はNPSLEに特異的ではなく、評価が難しいため、頻度は報告によって 10~90% と異なる
- そして、NPSLEに適したバイオマーカーがない
- 診断には、診察、MRI、脳波、神経伝導検査、腰椎穿刺が用いられる
- 剖検にてNPSLE患者の脳の病理組織を調べた報告は少ないが、それらによれば、出血、皮質・皮質下の萎縮、微小梗塞、脱髄など病理組織は多様である
- 既報では、巣症状やびまん性の精神神経症状は、自己抗体(抗ribosomal P protein抗体、リン脂質抗体、抗Sm抗体)、補体、免疫複合体が原因かもしれないと報告されている
- これまで、SLE or NPSLEの患者には、100種類以上の自己抗体が発見されている
- NPSLEに特異的な抗体を発見することで、診断や治療、病態の理解に繋がる
- 以前、筆者らのグループでは、DWEYSアミノ酸配列(N-methyl-D-aspartate [NMDA]受容体の GluN2A/GluN2B サブユニットの細胞外領域)に対する抗体(=IgG 抗DWEYS抗体)が、excitotoxicityによって海馬ニューロンのアポトーシスを誘導し、認知機能が低下することをマウスモデルで示した
- SLE患者のIgG 抗DWEYS抗体は、ds-DNAと交差反応を示す
- 健常人よりもNPSLE患者において、IgG 抗DWEYS抗体が陽性となることが多く、空間認知機能低下と関連することが報告されている
- これまで、IgG 抗DWEYS抗体が、NPSLE患者において脱髄病変を起こすかどうかはわかっておらず、neuromyelitis optica spectrum disorder (NMOSD)など他の神経疾患でも陽性となるかもわかっていない
- NMOSD
- 若年女性に好発する中枢神経疾患
- アストロサイトのAQP-4に対する抗体が陽性となり、アストロサイトが障害される
- 脱髄を生じるNPSLEと特徴がoverlapする部分があり、一部のNMOSD患者はSLEを合併し、逆に一部のSLE患者はNMOSDを合併する
- myelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) のconformation-dependent epitopes を認識する抗体が、IgG 抗AQP-4抗体陰性である一部のNMOSD患者において陽性となる
- NMOSD患者では、AQP-4が多く発現している部位(脳、視神経、脊髄)が病変となる
- 脱髄(特に視神経炎や脊髄炎)による症状は、NPSLEでも認めうる
- 脱髄病変はSLE疾患活動性と関連するが、NPSLEとNMOSDを鑑別することは難しい
- NMOSDを合併したSLE患者(またはSLEを合併したNMOSD患者)の症例報告では、脱髄病変がいずれによるものなのか(両者によるものかもしれないが)判断が難しい
- IgG 抗ds-DNA抗体とIgG ANA は、NMOSDでも認めうる
- 頻度や病態への関与はわかっていない
- IgG 抗ds-DNA抗体がNMOSD患者においてNMDA受容体と交差反応を示すのか、NMOSD患者でしばしば認められる認知機能低下と関連があるかどうか、はわかっていない
- 今回の研究では、NPSLE(特に脱髄病変を有するNPSLE or NMOSDを合併しているNPSLE)における自己抗体のレパートリーを調べること、両疾患での脳へ作用する全ての自己抗体(IgG anti-brain antibodies)の頻度を調べることを目的とした
- また、NMOSD患者において、IgG 抗ds-DNA抗体、IgG ANA、IgG 抗DWEYS抗体の頻度を調べた
方法
- 対象
- NMOSD患者(n=33)
- the Clinic of Neurology, Clinical Center of Serbia in Belgrade (n = 31)とthe Northwell Health System in New York (n =2) のNMOSD患者
- 以下のNMOSD診断基準(Neurology 2015;85:177–89.)を満たす
- 神経精神症状を有さないSLE患者(n=38)
- the Feinstein Institute for Medical Research (FIMR) in New York とthe Kitasato University School of Medicine in Japan (n = 1)のSLE患者
- ACR revised criteriaを満たす
- 活動性NPSLE, NPSLEの既往あり, その他CNS eventsのあったSLE患者は除外
- NPSLE患者(n=108)
- the Kitasato University School of Medicine (n = 60) と the Hokkaido University Graduate School of Medicine (n = 31) と the Clinic of Neurology, Clinical Center of Serbia (n = 17)のNPSLE患者
- NPSLEのACR1999基準を満たす
- 脱髄病変はMRIによって同定
- healthy control(HC)(n=106)
- the FIMR (n = 7)とthe Clinic of Neurology, Clinical Center of Serbia (n = 23)とthe BioreclamationIVT bank (n = 76)からリクルート
①IgG 抗AQP-4抗体はNMOSDに特異的であり、脱髄病変を有するNPSLE患者の一部でも陽性となる
- SLE、NPSLE、NMOSD、HCにおけるIgG 抗AQP-4抗体を、live cell–based assay を用いて解析した(Figure1:脱髄病変を有するNPSLE患者の結果)
- 陽性率(table1)
- NMOSD:82%(27/33)
- NPSLE:3%(3/108)
- 脱髄病変(+)NPSLE:27%(3/11)
- 脱髄病変(ー)NPSLE:0%(0/97)
- 神経精神症状を有さないSLE患者:0%(0/38)
- HC:0%(0/106)
②血清IgG 抗MOG抗体は、IgG 抗AQP-4抗体(ー)NMOSDのみ陽性となり、NPSLEでは稀である
- SLE、NPSLE、NMOSD、HCにおけるIgG 抗MOG抗体を、live cell–based assay を用いて解析した(table2)
- 高力価(titier ≧ 80)IgG 抗MOG抗体陽性
- IgG 抗AQP-4抗体(ー)NMOSD:50%(3/6)
- 他のグループは陰性
- 低力価IgG 抗MOG抗体陽性
- 脱髄病変(+)NPSLE:18%(2/11)
- 脱髄病変(ー)NPSLE:1%(1/97)
- HC:5%(5/106)
③抗NMDA受容体(GluN2A/GluN2B)抗体は、SLEとNPSLEに特異的であり、 NPSLEにおける脱髄病変の有無には関係なし。NMOSDとHCでは稀だった。
- SLE、NPSLE、NMOSD、HCにおけるIgG 抗DWEYS抗体を、ELISA を用いて解析した
- SLEとNPSLEにて有意に高く、NMOSDとHCでは有意差なし(figure2A)
- NPSLEのなかで、脱髄病変の有無で有意差なし(figure2B)
- 陽性率(table3)
- NPSLE:55%(59/108)
- 脱髄病変(+)NPSLE:27%(3/11)
- 脱髄病変(ー)NPSLE:58%(56/97)
- 神経精神症状を有さないSLE患者:29%(11/38)
- HC:4%(4/106)
- NMOSD:12%(4/33)
④IgG anti-brain antibodiesの染色パターンは、SLE・NPSLEと、NMOSDで異なる
- SLE、NPSLE、NMOSD、HCにおける血清IgG anti-brain antibodiesを、PFA-fixed rodent brain sectionsを用いて、陽性率(table3)と染色パターン(figure3)を解析した
- 陽性率(table3)
- 脱髄病変(+)NPSLE:82%(9/11)
- 脱髄病変(ー)NPSLE:75%(72/97)
- 神経精神症状を有さないSLE患者:84%(32/38)
- NMOSD:61%(20/33)
- HC:13%(13/106)
- NMOSDが、NPSLE・SLEと比較して陽性率が低いのは、1つはPFAによる固定でepitopeであるAQP-4の立体構造が変化したためと、2つ目は既報でも報告されていたようにマウスの脳組織を用いるとヒトの脳組織よりもIgG anti-brain antibodiesの感度と特異度が下がるためと考えられた
- 染色パターン(figure3)
- NPSLE, SLEのIgG anti-brain antibodiesでは、neuronal staining patternを示した
- NMOSDでは、主にvasculalture patternを示した(neuronal stainingを伴っている部分もあった)
- AQP4抗体が陽性のNPSLE(n=1)でも、vasculalture patternを示した
⑤IgG 抗ds-DNA抗体は、HC群と比較して、SLE, NPSLE, NMOSDにて増加を認めた
- SLE、NPSLE、NMOSD、HCにおけるIgG 抗ds-DNA抗体を、ELISAを用いて解析した
- 陽性率(table3)
- 神経精神症状を有さないSLE患者:53%(20/38)
- NPSLE:77%(83/108)
- 脱髄病変(+)NPSLE:55%(6/11)
- 脱髄病変(ー)NPSLE:79%(77/97)
- NMOSD:33%(11/33)
- HC:6%(6/106)
- NMOSDは、HCよりもIgG 抗ds-DNA抗体が高力価だった(figure2C)
- しかしながら、NPSLE患者と比較すると、NMOSD患者のほうが低かった
- NMOSD患者の多くがIgG 抗DWEYS抗体陰性だったため、SLE・NPSLE患者と異なり、NMOSD患者のIgG 抗ds-DNA抗体は GluN2A/GluN2B と交差反応をしていないと考えられた
- NPSLEの中で、脱髄病変の有無でIgG 抗ds-DNA抗体価は同様だった(figure2D)
- 脱髄病変(+)NPSLEとNMOSDの間も、IgG 抗ds-DNA抗体価は有意差なかった(figure2C & 2D)
まとめ
- NPSLE患者と、精神神経病変を有さないSLE患者の間では、血清IgG anti-brain antibodiesの陽性率と染色パターンに違いはなかった
- これは動物モデルを用いて、末梢血の脳に対する自己抗体では神経症状を起こさず、BBBをIgG anti-brain antibodiesを通過することが病態に重要であることを示した既報と同様だった
- SLEとNPSLEの多くでは、neuronal staining patternを示した
- 特に、海馬と皮質領域に発現している抗原に結合しており、この領域特異性がNPSLEにおける認知機能低下と関連していると考えられた
- NPSLE患者では、通常のSLE患者よりも、IgG 抗DWEYS抗体が陽性の頻度が高かったが、抗ds-DNA抗体-抗GluN2A/GluN2B抗体の交差反応がBBBを破壊している機序なのかはわからない
- 考えられる機序としては、血管内皮細胞に結合して活性化し、BBBを破綻させるというものである
- しかし、BBBを破綻させるには、サイトカインやケモカイン、補体活性化、抗内皮細胞抗体など他の要素も必要だろう
- NMOSDにおいて、抗ds-DNA抗体がどのように病態に関与しているかはわからない
- 脱髄病変を有するNPSLE患者の一部で、抗AQP4抗体と抗MOG抗体が陽性となった
- 脱髄病変を有するNPSLEでは、ルーチンで抗AQP4抗体・抗MOG抗体を測定すべきであり、抗AQP4抗体が陽性となった場合にはNMOSDの診断基準を満たすだろう
- IgG 抗AQP4抗体陰性の脱髄病変を有するNPSLEも血清IgG anti-brain antibodiesが陽性となったため、他の自己抗体が病態に関与しているものと考えられる
- IgG 抗DWEYS抗体は、脱髄病変のないNPSLEで58%陽性、脱髄病変のあるNPSLEで27%陽性のため、これとは異なる抗体が脱髄に関与 or 抗体非依存的な病態で脱髄を起こしていると考えられる
- 一方で、脱髄病変のないNPSLEでは、抗AQP4抗体は陽性とならなかった
- NMOSDにて、抗ds-DNA抗体はDWEYSと交差反応を示さなかったため、産生機序が異なるのだろう
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