Barbhaiya M, et al. Ann Rheum Dis 2018;77:196–202.
背景
- SLEはheterogeneousな疾患であり、自己抗体や臨床症状によっていくつかのサブタイプに分かれる
- 抗ds-DNA抗体について
- SLEに特異的な自己抗体
- lupus nephritisの病態に関与している
- 疾患活動性のバイオマーカーとしても利用されている
- 陽性の場合は、特に腎炎や血管炎の場合に、より疾患活動性の高い経過となるリスクが上がる
- SLEの病態には、遺伝要因と環境要因が関与している
- 既報では、喫煙がSLE発症のリスクと関連していたというものとそうでないというものがあり、一定していない
- 今回は、喫煙と、SLE発症リスク、ds-DNA抗体の有無によって層別化したSLEサブタイプとの関連について調べた
方法
- The Nurses’ Health Study (NHS)、Nurses’ Health Study II (NHSII) は女性看護師を前向きに組み入れたコホートである
- リスク因子、生活習慣、疾病に関する問診票をbaselineとその後2年おきに集めている
- 除外基準に沿ってスクリーニングされた上記コホートの対象者を解析
- SLEの診断は、自己申告、2人のリウマチ科医によるカルテレビューを行い、ACR1997 SLE分類基準を満たしたものとした
結果
- 年齢調整したbaseline characteristicsがtable1
- 喫煙者と非喫煙者において
- 年齢、人種、カロリー摂取量、BMI、生理・閉経に関する状態、閉経後のホルモン補充の有無、早発初経に関してはいずれの群も同等
- アルコール摂取量は喫煙者のほうが多い
- SLEに関する所見についてはtable2
- SLE全体、ds-DNA抗体陰性のSLEに関しては、喫煙はリスクとならなかった(table3)
- しかしながら、抗ds-DNA抗体(➕)SLEに関しては、現在の喫煙が、SLE発症のリスクとなった(年齢・性別で調整済)
- HR 1.77 (95% CI 1.09 - 2.88)
- アルコール摂取量で調整後:HR 1.91 (95% CI 1.17 - 3.12)
- pack-year[=(1日の喫煙本数/20本)×喫煙年数、すなわち「1日のタバコの箱数×年数」]で分けると、> 10 pack-years の場合に有意に抗ds-DNA抗体(➕)SLEの発症リスクが増加した(table4)
- HR 1.60 (95% CI 1.04 - 2.45)
- なお、1日における喫煙本数(15本以上 vs 0-15本)は関連しなかったが、喫煙期間が長い(20年以上)ことは抗ds-DNA抗体(➕)SLEの発症リスクが増加した
- past-smokerに関しては、禁煙5年以上経過すると、抗ds-DNA抗体(➕)SLEの発症リスクが消失した(figure1)
- 他のSLE関連自己抗体についても調べた(table5)
- 現在の喫煙は、以下のリスクを増加させた(past-smokerは有意差なし)
- dsDNA+/Sm+ SLE
- HR 1.87 (95% CI 1.14 - 3.06)
- dsDNA+/Sm+/Ro+/La+ SLE
- HR 1.84 (95% CI 1.15 - 2.93)
考察
- 現在の喫煙( > 10 pack-years, ≧ 20年間)が、dsDNA抗体陽性のSLE発症のリスクとなった
- SLE全体のリスクとはならなかった
- 5年以上禁煙するとリスクが消失した
- 他の自己免疫疾患では、喫煙は、RA、Graves'病、原発性胆汁性肝硬変と関連があることが知られている
- RAでも、seropositive RAは喫煙がリスクとなっているが、seronegative RAにおいては喫煙はリスクとならない
- しかしながら、RAでは、禁煙後20年間経ても発症リスクは消失しない点は異なる
- 喫煙がリスクとなる機序はわかっていない
- 仮説としては、タバコの毒性物質(タール、ニコチン、一酸化炭素、多環芳香族炭化水素、フリーラジカルなど)が酸化ストレスを生じさせ、蛋白やDNAにダメージを与え、遺伝子変異や遺伝子活性化を起こす。この遺伝子には免疫に関するものが含まれ、TNFαやIL-6などの炎症性サイトカインが産生される。
- また、喫煙は、B細胞とCD4陽性T細胞表面にあるCD95の発現を刺激し、アポトーシスした好中球がうまくクリアランスされなくなり、dsDNAに対する自己抗体が産生される
- タバコのダメージによって発生するROSは、免疫原性を有するDNAを形成させ、dsDNAに対する自己抗体産生が誘導される
- 喫煙に関連する多くの疾患は、遺伝的な背景があることが指摘されている様に、SLEでもおそらくそういった遺伝的な背景があると考えられている
- 既報では、the cytochrome P450 1A1 関連遺伝子であるrs4646903 と、glutathione S-transferase M1 deletion genotypesが、両者とも解毒経路に関連しており、喫煙者におけるSLE発症の大きなリスクとなることが指摘されている(OR 17.5 (95% CI 3.20 to 95.9))
- limitation
- カルテレビューで自己抗体statusを確認しているので、発症後に自己抗体が陽性となった場合は見過ごしている
- 25-55歳の女性を対象にしたコホートなので、早期発症SLEに関しては解析していない
- 90%以上が白人なので、他の人種ではわからない
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