Kim MY, et al. Ann Rheum Dis 2018;77:549–555. doi:10.1136/annrheumdis-2017-212224
背景
- SLE ± APSの妊婦は、妊娠中の有害事象(APOs)のリスク(子癇、胎児死亡、胎児発育障害など)が増加する
- APOsを予測するリスク因子の同定について研究がすすめられてきている
- マウスの研究では、炎症、特に補体活性化と好中球の誘導が、胎盤不全、胎児死亡、胎児発育障害に重要であることがわかった
- 補体活性化が、白血球の浸潤を促進し、TNF-α や、血管成長阻害因子であるsoluble fms-like tyrosine kinase-1 (sFlt1)の産生を誘導する
- 補体の活性化は、classical, alternative, lectin pathwaysの3つがある
- これらの経路は、C3を介して、以下の共通のエフェクターを誘導する
- anaphylatoxins
- opsonins
- the membrane attack complex
- classical, alternativeの経路に関わる物質(factor B, C4, C3, C5) を欠損したマウスでは、aPLによる胎児の障害に対して抵抗性を獲得するため、この両者の経路が重要であることが示唆されている
(原発性免疫不全症候群情報サイトより引用)
- ヒトにおける研究でも、aPLによる妊娠合併症における補体の役割は、上記を支持している
- classical pathway 活性化のマーカーであるC4dが、SLE ± APSの妊婦の胎盤に認められる
- 原発性APSについての2つの研究では、軽度の低補体血症が認められることを報告している
- SLE ± APSの妊婦が子癇を発症するリスクとして、補体制御蛋白のvariantsが報告されている
- 自己免疫疾患を有さない妊婦のprospective studyにおいて、子癇の発症と、alternative pathwayの活性化によって産生されるBbの増加が、強く関連していることが報告されている
- 今回は、SLE ± APSの妊婦において、妊娠第2半期前における血清の補体活性化の変動が、APOsと関連するか調べた(PROMISSE Studyのデータを使用)
方法
- PROMISSE Study
- Predictors of pRegnancy Outcome: bioMarkers In antiphospholipid antibody Syndrome and Systemic Lupus Erythematosus
- 大規模、多施設、多人種、prospective
- 妊娠した時点では軽症〜中等症の疾患活動性であるSLE ± aPLの女性における、APOを予測する臨床所見・検査所見について調べた研究
- 2003/9 - 2013/8 に、妊娠12週以内の症例をリクルート
- コントロールとして、健常人を人種でマッチさせてリクルート
- 除外規定:APOsと関連する他の因子を有している症例
- PSL > 20mg/day
- 尿蛋白 1g/gCr
- sCr > 1.2mg/dl
- 糖尿病あり
- BP > 140/90 mmHg
- APOsの定義
- 妊娠12週後以降の胎児死亡
- 染色体異常、解剖学的異常、感染症を除く
- 発育不全もしくは胎盤不全によって、退院前に生じた新生児死亡
- 妊娠高血圧、子癇、胎盤不全による36週間以内の早産
- small-for gestational-age (SGA) neonate (<5th percentile)
結果
- 770人の妊婦(SLE ± aPL)をスクリニーングし、487人を解析
- 内訳
- SLE:326人(66.9%)
- SLE + sPL:60人(12.3%)
- aPL:101人(20.7%)
- APOsがあった症例:100人(20.5%)
- 妊娠12週後以降の胎児死亡
- 27人(5.5%)
- 発育不全もしくは胎盤不全によって、退院前に生じた新生児死亡
- 5人(1.0%)
- 妊娠高血圧、子癇、胎盤不全による36週間以内の早産
- 49人(10.1%)
- small-for gestational-age (SGA) neonate (<5th percentile)
- 47人(9.7%)
- コントロール(健常人):204人
- APOsがあった症例:7人(3.4%)
- baseline characteristics(table1)
- SLE ± aPLを有する女性のうち、以下の項目が有意にAPOsと関連した
- aPL陽性、LAC陽性
- 血圧高値
- BMI高値
- 血栓症の既往
- ヘパリンや降圧薬での治療歴
- 以下の項目は有意差なし
- 人種
- 年齢
- 出産歴
- ループス腎炎、タンパク尿の既往
- アスピリン、ステロイドの使用歴
- 喫煙歴
- BbとsC5b-9に注目
- SLE ± aPLの患者群でAPOsがあった症例では、妊娠12−15週という早期の段階から、BbとsC5b-9の有意な増加を認めた
- SLE ± aPLの患者群でAPOsがない症例でも、健常人と比較すると増加していた
- 全ての群で、妊娠経過に伴い低下していったが、低下の割合は健常人と比較して緩やかだった
- なお、SLE ± aPLの患者群のBbとsC5b-9は、有意に相関していた
- 12-15週
- 0.49 (P<0.001)
- 36-39週
- 0.68 (P<0.001)
- 血管新生因子(sFlt1, PIGF)との関連
- Bb・sC5b-9と、sFlt1・PIGF・sFlt1/PlGFとの関連を調べたところ、中等度の関連が見られた(0.25は超えない程度)
- sFlt1/PlGFによって調整した後も、BbとAPOs・sC5b-9とAPOsの関連は有意だった
- 多変量解析(table2)
- SLE ± aPLの患者群
- 交絡因子(table2のvariable)で調整後も、12-15週におけるBb、sC5b-9は、有意にAPOsと関連していた
- Bb
- ORadj=1.41 per SD increase; 95%CI 1.06 to 1.89; P=0.019
- sC5b-9
- ORadj=1.37 per SD increase; 95% CI 1.05 to 1.80; P=0.022
- 健常人
- 12-15週におけるBbは、有意にAPOsと関連していた
- Bb: 0.91 vs 0.71μg/mL
- P=0.03
- sC5b-9は有意差なし
- 241.5 vs 226.5ng/mL , p=0.66
- 他の補体因子について
- C5a, C4d, iC3bは、APOsとの関連は有意でなかった
- C3aは、bivariate avalysisでは有意だったものの、多変量解析にすると有意でなかった
- 一方で、Bbは有意のままだった
まとめ
- SLE ± aPLの妊婦において、Bb・sC5b-9の増加とAPOsは有意に関連した
- これは、補体活性化(特にalternative pathway)と胎盤不全の関連によって、妊娠合併症を引き起こすという考えを支持している
- 特にaPL陽性患者において、alternative pathway活性化とAPOsの関連が強かった
- これは、マウスの実験において、factor Bを欠損したマウスが、aPLによる胎児発育不全・胎児死亡に対して抵抗性を有していたことと一致する
- SLEとaPLの病態では自己抗体の関与が重要であるが、classical pathwayの構成要素よりも、alternative pathway fragmentであるBbが、APOsとの関連が最も強かった
- Bb・sC5b-9の相関関係が有意であることが、alternative pathwayが補体活性化の主要経路であることを示唆している
- classical pathwayの活性化は、抗体の親和性とサブクラスに依存しているが、aPLはIgG2が多く、このタイプはclassical pathwayの活性化に対しては弱い
- classical pathway以外を活性化する抗体が沈着することで、membrane-bound complement regulatorを阻害し、持続的なalternative pathwayの活性化を誘導する
- さらに、好中球由来 or 血小板由来のプロテアーゼによる補体因子の分解によって、classical pathwayはbypassされることになる
- 正常妊娠では、胎盤は、母体ー胎児の境界部位で、補体を介した免疫による攻撃を受ける
- その際、trophoblast cellsから産生される阻害因子によって、補体の活性化はうまくコントロールされている
- しかしながら、aPL ± SLEの患者では、制御因子を上回るほどの過剰な補体活性化が末梢血中と胎盤において生じており、それによって胎児がリスクに晒される
- 浸潤した白血球によって、血管新生阻害因子であるsFlt1が過剰に産生され、胎盤不全を生じる
- それによる絨毛間の循環不全が、妊娠が進むにつれて、trophoblastでの大量のsFlt1合成を刺激する
- これは補体による直接的な影響ではないため、補体因子とsFlt1の間の関連はそこまで強くなかったのはあまり驚くことではないかもしれない
- PROMISSE studyの患者は、疾患活動性が比較的落ち着いている患者を対象としているが、APOsがなかった患者も、baselineにおけるBbとsC5b-9が、健常人と比較して有意に高かった
- SLEとAPSの患者において、たとえ疾患活動性が落ち着いていても、長期間の補体活性化があると、胎盤不全と関連する白血球の誘導や血管新生阻害因子の増加を引き起こすかもしれない
- 興味深いことに、SLEPDAI scoresと、BbとsC5b-9は有意に相関していた
- 既報では、小規模な研究ではあるものの、BbとsC5b-9の増加が、SLE妊婦の疾患活動性と関連することは報告されている
- 補体の値は、合成(エストロゲンによって補体合成は刺激される)と消費の両者を反映している
- 今回の研究では妊娠早期における補体活性化による産物増加がAPOsと関連しており、以前に筆者らが報告したbaselineから第2半期にかけてのC3のより少ない増加がAPOsと関連したという結果も考慮すると、補体活性化は、APOsの結果というよりも、APOsを引き起こすものと言えるだろう
- classical pathway fragmentであるC4dの沈着が、SLE ± APS妊婦と子癇患者の胎盤と、子癇患者の腎臓において認められることから、sPLによる局所におけるclassical pathwayとlectin pathwayの活性化についてはより調べる必要がある
- 重要なことであるが、補体活性化の原因に関わらずalternative pathwayは活性化し、末梢血の補体 fragmentsは、胎盤における活性化の程度を反映していないかもしれないことを念頭において置く必要がある
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