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2018年3月6日火曜日

G6PDH欠損症患者でも、HCQは安全に使えそう

Arthritis Care & Research
Vol. 70, No. 3, March 2018, pp 481–485 DOI 10.1002/acr.23296


背景
  • HCQは、SLEなどの治療で頻用される
    • 作用機序はわかっていないが、有効性は明らかである
    • 2015 ACR RAガイドラインでは、HCQ開始にあたってG6PDHレベルの測定は推奨されていないが、添付文書ではG6PDH欠損患者では注意するように記載されている

    • この曖昧な注意喚起によって、G6PDH欠損が判明した患者においては投与がされなくなることで、HCQによる治療を受けられないことによる不利益が患者に生じる可能性があるので、正確なデータを示す必要がある
  • G6PDH患者と溶血の関連は、1920年代のマラリア患者に対するプリマキンの臨床試験で最初に報告された
    • 1950年代まで、G6PDHが酸化ストレスを緩和するのに重要な因子であることが判明した
    • すなわち、G6PDH欠損では酸化ストレスによって過剰なフリーラジカルが生じてそれによる赤血球の溶血が生じるということである

  • G6PDH欠損は、最も頻度の高い赤血球の酵素異常の1つである
    • 全世界において、3.3億人がG6PDH欠損症であり、有病率 4.9%である
    • G6PDH欠損症だと、主に感染症によって溶血が生じる。
      • 他にはそら豆、薬剤、なんらかの疾患も原因になりうる
    • 溶血の程度は、個人のG6PDH genotype, G6PDH欠損の程度にもよって異なり、場合によって致死的となったり、一過性であったりする
      • 2つのタイプが存在する
        • Mediterranean type
          • 重症となりやすい
          • ヨーロッパ、アジア、北インドに多い
        • African variant
          • 軽症となりやすい
          • アフリカ系に多い
    • 溶血が生じるタイミングは誘因によって異なり、数時間(そら豆)〜数日後(プリマキン)と幅がある
  • G6PDH酵素の遺伝子はX染色体に存在する
    • そのため、多くの欠損症患者は、男性である
  • G6PDH欠損症患者に対して抗マラリア薬を投与した場合の安全性は、多くはプリマキンに関するものであり、HCQに関する1つの小規模ケースシリーズのみで、大規模試験は存在しない
    • そのため、今回は、retrospectiveに、自己免疫疾患を有するアメリカのG6PDH欠損症患者に対して、HCQを投与した場合の溶血性貧血の発症率を調べた


方法
  • Duke Enterprise Data Unified Content Explorer (DEDUCE) という、1996年からの電子カルテを含む臨床データに関するサーチエンジンを使用して、患者を調べた
  • 対象
    • Duke Clinic Rheumatologyを受診し、HCQの投与を受けて、G6PDHを調べた患者
  • 貧血の定義
    • (男性)Hb < 13.7 g/dL、(女性)Hb < 12.0 g/dL
  • 溶血性貧血の定義
    • 貧血に伴い、以下の所見を1つ以上認める
      • 網状赤血球の増加 > 2.36%
      • LDH増加 > 200 U/L
      • ハプトグロビン < 30 mg/dL

結果
  • 275例のHCQ処方+G6PDH測定患者を調べた
  • 全体(table1)
    • 性別
      • 女性 84%
    • 人種
      • アフリカ系アメリカ人 46%
      • 白人 48%
    • 疾患
      • SLE 32%
      • RA 29%
      • 他の炎症性関節炎 14%
    • 貧血が少なくとも1回以上あり 69%
      • 溶血性 6%(16/275例)
  • G6PDH欠損症 
    • 11例 = 4%
    • 女性:9/11例
    • 全てアフリカ系アメリカ人
      • アフリカ系アメリカ人全体におけるG6PDH欠損症の頻度:(男性)11.7%, (女性)8.3%
    • 疾患
      • SLE:7/11例
      • RA:2/11例
      • その他の炎症性関節炎:1/11例
      • Behcet病:1/11例
    • 11例すべてで、経過中に貧血のエピソードあり
      • 溶血のエピソード:2/11例(18%)
        • 症例1
          • 28歳男性
          • 汎血球減少、急性腎障害、敗血症、溶血で入院し、SLEと判明(これまでHCQ内服の既往なし)
          • 退院時からHCQ内服開始し、この研究が行なわれるまで計50ヶ月間内服していたが、その間も貧血は持続していたものの、網状赤血球はSLE発症時点を除いて正常範囲で推移していた。それ以上の精査は行なわれなかった。
        • 症例2
          • 51歳女性
          • SLEとすでに診断されており、HCQ 600mg/日 を5年間内服していた(量が多いのは体重が多いためとのこと)
          • その後、網膜毒性のためHCQは中止
          • 中止6週間後に、SLE再燃(血小板減少、class Ⅳ+Ⅴ 腎炎)で入院
          • 中止8週間後に、精神症状、Cr増加、溶血を示唆する網状赤血球増加を伴う血小板減少・貧血の進行を認めた
          • 入院後にHCQ 600mg/日を再開後も、ハプトグロビン低下、LDH増加、破砕赤血球の出現は改善しなかった
          • ADAMTS13 は正常であり、これらの経過からHCQによる溶血性貧血ではなく、SLE活動性に伴う溶血性貧血と診断した
      • 上記2症例を除く、9症例の貧血患者について
        • 6症例では、貧血の際に、ハプトグロビン、LDHは一度も検査されていなかった
        • 3症例では、溶血を示唆する異常所見は認めなかった
      • 4/11症例では、G6PDH欠損と判明後にHCQは中止されていた
        • HCQ開始〜中止は、3ヶ月以内〜108ヶ月と幅あり


まとめ
  • 自己免疫疾患に対してHCQを使用しているアメリカの患者における、G6PDH欠損症の有病率と溶血性貧血の発症率を調べた試験では、最も大きいものである
    • 今回の単施設研究では、275人のうちの11例(4%)がG6PDH欠損症だった
      • その中で、溶血性貧血を発症した2例は、HCQを内服していない時期に発症しており、HCQによるものと思われる溶血性貧血を発症した人はいなかった
      • しかしながら、G6PDH欠損症である11例は全て経過中に貧血のエピソードがあったものの、6例はハプトグロビンとLDHを測定していない
    • 他のG6PDH正常の264例のうち、6%が溶血を発症したが、いずれもTTPもしくはSLEに伴う自己免疫性溶血だった
  • 今回のコホートでは、G6PDH欠損症患者は全てアフリカ系アメリカ人だった
    • そのため、遺伝子タイプは、軽症となりやすいAfrican variantと考えられる(アジア人に多いタイプとは異なるもの)
    • 他の遺伝子タイプに関しては、今回の試験ではわからない
  • 今回のコホートにおけるG6PDH欠損症の有病率は、アメリカの一般人口と同様だった
    • 既報では、人種により、G6PDH欠損症の有病率は異なる
      • アフリカ系アメリカ人の男性 12.2%
      • アフリカ系アメリカ人の女性 4.1%
      • アジア人の男性 4.3%
        • この既報では、白人女性のG6PDH欠損症患者はおらず、白人男性の有病率は 0.3%と低かった
  • 抗マラリア薬による溶血に関して
    • クロロキン(4-アミノキノリン)による溶血は少数例報告されているものの、いずれも溶血作用を有するクロラムフェニコールを併用されており、クロロキン単剤による溶血の報告は認めない
      • すなわち、クロロキン単剤であればG6PDH欠損症でも安全に使用できるものと考えられる
    • プリマキン(8-アミノキノリン)による溶血も報告はされているが、非常に稀である
    • そのため、重症化しうるMediterranean typeのG6PDH欠損症有病率が低い地域では、G6PDHを測定せずにHCQを処方しても安全であると考えられる
      • ※ちなみに、日本におけるG6PDH欠損症の有病率は、稀であり、0.1%未満と考えられているようです。

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