このブログを検索

2018年2月28日水曜日

大血管炎における、FDG-PETのimaging biomarkerとしての有用性:再燃を予測できるかもしれないが、疾患活動性のモニタリングには不適切


ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 70, No. 3, March 2018, pp 439
449 DOI 10.1002/art.40379


背景

  • Positron emission tomography (PET)は、18F-fluorodeoxyglucose (FDG)の取り込みを見ることで、腫瘍性疾患の診断や治療効果判定に使用するmolecular imagingである
    • マクロファージを含む炎症性細胞も、解糖系が亢進しており、FDGの取り込みは腫瘍細胞と同様に亢進しているので、炎症性組織の評価にも有用であると考えられているが、まだその点に関しては議論されているところである
  • GCAとTAKは、大動脈とその第1分枝に病変を有する大血管炎である
    • 大血管炎の疾患活動性評価は未だ難しく、有効なモニタリングや治療の確立への障害となっている
    • 臨床的に寛解をある程度維持していても、炎症性マーカーは正常であっても、新規の血管病変が出現することもあり、実際に臨床的寛解の状態で側頭動脈を生検すると活動性の血管炎を認めたという報告もある
    • 血管造影が評価にしばしば推奨されるが、大血管を評価するためのガイドラインは存在せず、血管のダメージが生じる前に血管の炎症を評価するには血管造影では感度が低いのも事実である
    • FDG-PETは、大血管に浸潤している白血球の代謝活性を評価するので、血管造影よりも血管の炎症をモニターするのに感度が高いのではと報告されている
  • いくつかの既報でも、molecular imagingによる大血管のモニタリングが試みられているが、FDG-PETの有用性はまだわかっていない
    • 多くの研究では、FDG-PETによって大血管の炎症を発見することができたが、それはretrospectiveな研究であり、大血管に類似する疾患ではなく健常人や悪性腫瘍患者をコントロールとしている
    • また、多くの研究では、大血管炎発症時点でのFDG-PETに焦点をおいており、その後、疾患活動性の評価や再燃を予測できるかについては、報告が限られている
  • そのため、今回の研究では、大血管炎に対するFDG-PETの有用性を、prospectiveに、大血管炎のコホートを利用して、主に大血管炎に類似する様々な患者をコントロールに設定し、時系列で評価することを目的とした

方法
  • prospective、観察研究、the National Institutes of Health (NIH) in Bethesda, MD (ClinicalTrials.gov identifier: NCT02257866)のコホートを使用
  • 対象
    • 5歳以上
    • TAKのACR 1990の分類を満たす、もしくはGCAのACR 1990を満たす
    • 様々な病期の患者を含む
  • コントロール
    • NIHに、大血管炎の可能性があると紹介されたが、大血管炎ではなかった患者群
      • 他の全身性炎症性疾患(結節性多発動脈炎など)や非炎症性疾患(線維筋性異形成など)が含まれている
    • 脂質異常症を有する患者群
      • 脂質異常症群は、動脈硬化性疾患においてスタチンがimagingに与える影響について調べている別の臨床試験(ClinicalTrials.gov identifier: NCT01212900) の対象群の一部であり、55才以上でスタチンが必要な患者
      • 脂質異常症の患者群が選ばれたのは、動脈硬化性疾患が画像的に大血管炎に類似することが知られているからである
    • 健常人
  • 6ヶ月ごとに診察、画像評価を行なった
    • 慢性的な倦怠感、急性期炎症性蛋白の増加は、他の血管炎の臨床症状を伴わない場合には、活動性があるとは判断しなかった
  • 定義
    • 寛解
      • 血管炎を示唆する臨床的症状が全くない
    • 再発
      • 寛解を達成した後に、PSL ≧ 10mg/day までの増量 or 免疫抑制剤の追加を有するまでの臨床的活動性が出現した。
      • 再発を評価する医師には、画像評価の結果は盲検している
  • FDG-PET imaging protocol
    • 撮影前には炭水化物を含む食べ物は制限
    • 18才以上は体幹を撮影
    • 注射2時間後にCTで撮影
      • 放射線被曝を最小限にするために、18才未満はwhole-body FDG- PETmagnetic resonance imaging (MRI) を撮影した
    • 成人は、18F-FDG (10 mCi)と用量を固定し、小児患者は体重に合わせて投与した(0.1 mCi/kg). 

  • 読影は2人の核医学専門医が、臨床データ盲検の元、それぞれ独立に評価した
    • 大動脈の4つの部位(上行大動脈、大動脈弓部、下行大動脈、腹部大動脈)+主要な11分枝(腕頭動脈、頸動脈、鎖骨下動脈、腋窩動脈、腸骨動脈、大腿動脈)において、FDGの取り込みを以下のスコアで定量的に評価し、summary score( = PETVAS)を計算した
      • 取り込みなし:0
      • 感動以下の取り込み:1
      • 肝臓と同様の取り込み:2
      • 肝臓以上の取り込み:3


結果
  • 2014/9-2017/2の期間に、115人の患者がリクルートされた(table1)
    • 大血管炎:56症例
      • GCA:30
      • TAK:26
    • コントロール:59症例
      • 脂質異常症:35
      • 大血管炎類似疾患:17
      • 健常人:7

  • 大血管炎の患者群のより詳細な情報(supple. table2)


  • 臨床的に活動性があると判断された大血管炎の臨床所見

  • 大血管炎に類似する疾患を有する患者群の内訳

  • FDG-PETの有用性(table1)
    • 2人の読影医の結果は十分に一致していた
      • κ = 0.84, 95% confidence interval [95% CI] 0.75, 0.94
    • 大血管炎の患者のうち、68%(75/111人)は、FDG-PETにて活動性の血管炎の所見を認めた
      • コントロール群で、FDG-PETにて活動性の血管炎の所見を認めたのは、17%(10/59人)のみだった
  • 臨床的所見による活動性と、画像所見による活動性の結果をcombineした結果(table2)
    • FDG-PET(臨床的所見により活動性のある血管炎と、コントロール群を区別するための有用性)
      • 感度:85% [95%CI 69-94]
      • 特異度:83% [95% 71-91]
    • しかしながら、臨床的に寛解である大血管炎を、臨床的に活動性のある血管炎と区別するには、FDG-PETはあまり有用でなかった
      • 特異度:42% [95% 31-55]

  • なお、代表的なPET所見は下の通り
    • 25才女性、高安動脈炎
    • 罹病期間:31ヶ月
    • 弓部拡張により大動脈弁置換を必要とした
    • この撮影を行なった時点で、CYC+PSL 30mg/day で治療しているものの、臨床的活動性あり(浮遊感、頭痛、視力障害、最近の脳梗塞、頚部痛、倦怠感、急性期炎症反応蛋白増加)
    • PETでは、FDG取り込み亢進が大血管全体に認められ、PETVAS = 24
    • この後、IFX, MTXで治療し、PSLは漸減していったところ、臨床的活動性は安定し、6ヶ月後のフォローではFDG取り込みが低下した


    • 74才女性、生検で証明されたGCA
    • 罹病期間:10年間、両側失明あり
    • 血管造影では、大動脈や主要分枝の病変認めず
    • この画像を撮影した時点では、臨床的には寛解していたが、PETではわずかなFDFG取り込みを大血管に認めており、PETVAS = 14
    • 読影医は、2人とも"活動性血管炎なし"で一致



    • 66才女性、スタチンを要する脂質異常症
    • PETでは大血管全体にFDG取り込みが亢進している(特に上行大動脈、弓部、左鎖骨下動脈の近位、腋窩動脈)、PETVAS = 21
    • 読影医は、2人とも"活動性血管炎あり"で一致



    • 76才女性、生検で証明されたGCA
    • 罹病期間:17ヶ月
    • 撮影時点では、臨床的には寛解していた(PSL 4mg/day, ESR 15mm/hr, CRP 0.95mg/dL)
    • 血管造影では、狭窄病変・動脈瘤・動脈閉塞なし
    • PETでは、大血管全体にFDG取り込み亢進あり、PETVAS = 27
    • 読影医は、2人とも"活動性血管炎あり"で一致
    • これを撮影した4ヶ月後に、再燃した(倦怠感、CRP増加、関節痛によりPSL増量+MTX開始)


  • FDG-PETによる活動性と関連する臨床項目について、多変量解析を行なった(table3)
    • 以下の項目が有意差あり
      • 臨床的に疾患活動性あり
      • 罹病期間が短い
      • BMI低値
      • PSL投与量が少ない
    • 以下の項目は、有意差なし
      • 急性期炎症反応
      • 年齢
      • 性別
      • 血管炎の種類
      • 免疫抑制剤の使用の有無

  • PETVASによる定量的評価
    • 大血管炎の患者群は、コントロール群と比較し、上行大動脈・弓部・下行大動脈・腹部大動脈・頸動脈・鎖骨下動脈のscoreが有意に高かった(figure1A)
      • しかし、いずれの部位も、大血管炎群>コントロール群 の傾向がある

    • 血管炎の種類別
      • GCA > TAK:腹部大動脈、腋窩動脈、腸骨・大腿動脈
      • GCA ≒ TAK:胸部大動脈、頸動脈、鎖骨下動脈

    • 読影医が、"画像的に活動性血管炎あり"と評価したほうが、"画像的に活動性血管炎なし"と評価した場合よりも、PETVAS scoreは有意に高い(figure1B)
    • "画像的に活動性血管炎あり"と評価された大血管炎は、どのコントロール群よりも、有意にPETVAS scoreが高い(figure1C)

    • 臨床的に寛解と判断された大血管炎よりも、臨床的に活動性のある大血管炎のほうが、有意にPETVAS scoreが高い(figure1D)
    • 寛解の時点で比較すると、GCAのほうが、TAKよりもPETVAS scoreが有意に高い(※これに関しては年齢などによる交絡がありそう)

    • 臨床的に活動性のある大血管炎と、寛解の大血管炎を区別する、PETVASのROC曲線(figure1E)
      • カットオフ = 20
        • 感度:68% [95%CI 50-83]
        • 特異度:71% [95%CI 58-82]
  • 臨床的に活動性のある大血管炎と寛解の大血管炎で、それぞれPETVASと関連がある項目について(table4)
    • 臨床的に活動性のある大血管炎
      • 急性期炎症反応蛋白(ESR, CRP, Fib)とPETVASが中等度の相関あり(r=0.36 - 0.52)
      • PSLの用量は、PETVASと逆相関あり
    • 臨床的に寛解の大血管炎
      • 年齢は正の相関、BMIは負の相関あり

  • PETによる、大血管再燃の予測について
    • 39症例が寛解の時期にPETを撮影
      • そのうち8症例が再燃し、20をカットオフとすると、再燃例では有意にhigh PETVAS scoreの症例が多かった(figure2A)
        • PETVAS ≧ 20 vs < 20:55% versus 11% (= 0.03)


    • 上記39症例の中で、PETVAS ≧ 20 の患者と < 20 の患者の臨床的項目の違い
      • PETVAS ≧ 20 
        • 罹病期間が短い
        • GCAが多い
        • 高齢
        • 免疫抑制剤の併用割合が少ない
      • 急性期炎症反応蛋白は有意差なし
      • いずれの群も、撮影時には 平均PSL ≦ 5mg/day

    • Figure2B, Cが、high PETVAS scoreの代表的な2症例の画像
      • 生検を行なった片方の症例では、臨床的に寛解ではあったものの、側頭動脈を生検すると活動性の血管炎の所見を認めた(figure2D)(PETVAS=27)


まとめ
  • 臨床的に活動性のある大血管炎の症例の多くは、FDG-PETでも活動性のある所見を認めたが、臨床的に寛解と判断された症例の多くも、FDG-PETで活動性のある所見を認めた
    • 生検によって、全例、活動性があるか調べたわけではないので、臨床的寛解の状態において、血管壁の代謝活性が増加していることが、subclinicalな血管炎を反映しているのか、リモデリングを反映しているのか、低酸素を反映しているのか、動脈硬化を反映しているのか、これらの複合的な結果なのか、はわからない
    • 大血管炎の臨床的寛解状態の動物モデルによる実験では、FDG取り込み亢進は、動脈硬化性病変における組織学的なマクロファージの密度と関連しているものの、血管のリモデリングによって二次的に血管内皮 or 平滑筋細胞の代謝活性が変化することが、血管壁のPET scanに影響することが報告されている
    • すなわち、現時点では、FDG-PETを血管炎の活動性モニタリングに使用することは、推奨はできない
  • 上記のlimitationはあるものの、今回の結果では、臨床的には寛解していても、FDG取り込み亢進が血管壁全体で認められることが、再燃のリスクとなることが示されたため、subclinicalな炎症を反映している可能性を示唆している
    • 生検で活動性のある血管炎が認められた症例ではFDGの取り込みが亢進しており(Figure2D)、治療によってFDG取り込みが低下している症例もある(Figure2B)ことは、これを支持している
    • これらの結果により、寛解の定義をどうするか、という重要な疑問が浮かんでくる
  • 既報では、撮影方法に関して、注射してから1時間後に撮影していたが、今回は2時間後としたことで、血管壁へのFDG集積の感度をあげた
  • 既報よりも特異度が低いのは、コントロール群の設定の違いと考えられる
    • コントロール群の17%において、"画像的に活動性血管炎あり"と判断されており、大血管炎の診断はFDG-PETに基づいて行うべきではない
  • FDG取り込みの程度と、大血管炎の活動性の関連は、これまでの既報では一定していなかった
    • TAKにおいて、FDG取り込みと臨床的疾患活動性の関連があると報告した既報もあるが、最近のメタアナリシスでは、TAKにおいてFDG取り込みと臨床的疾患活動性は関連しなかったと報告している
    • TAKとGCAの間におけるFDG取り込みの程度の違いに関しては、今回の研究では、臨床的寛解の状態ではGCA > TAK でFDG取り込みが亢進しており、 TAKよりもGCAのほうが臨床的活動性と画像的活動性の不一致が生じやすいことを示している。
      • これは2疾患における年齢などの違いが影響していると思われる。
      • また、今回の研究では、GCA患者の方がTAKよりも罹病期間が短く、診断からが撮影までが比較的短いので、これも寛解時期におけるFDG取り込みの違いにも関連していることが考えられる
  • FDG取り込みは、動脈硬化による影響も受ける
    • しかしながら、今回の結果では、年齢に関しては、臨床的寛解の時期では関連はあるものの軽度であり、臨床的活動性のある時期では関連は認めなかった
    • ただし、記述した通り、GCAとTAKにおいて、臨床的寛解の時期でもFDG取り込みがGCA > TAKとなっているおり、このことからは動脈硬化によりFDG取り込みが影響されることが示唆される
  • 既報では、FDG-PETは大血管炎の再燃を予測できなかったという報告があるが、この研究では、診断後〜撮影までの期間が半年以内と短く、中等量以上のPSLを使用しており、これらがPETの予測能力に影響したと考えられる
    • PSLの用量が多いと、PET activityが低下することは、今回の報告で認めている(table3)
    • すなわち、今回の結果からは、すでに発症後数年間経過しており、ステロイドの用量が少ない時点で、FDG集積が亢進していると、再燃を予測できるかもしれない
    • PET scan activityの閾値に関しては、今回の試験で提示していないのは、PETVAS < 20 というのは読影医によって変化することが予測されるためである
  • limitation
    • 単施設の研究
      • しかしながら、読影医の結果は十分一致している
    • 様々な病期の患者を対象としているので、診断時点におけるPET所見は、今回の試験では評価できない
      • 今後、可能であれば発症時から、より長期間の経過観察していく別のコホートで評価することが望まれる

0 件のコメント:

コメントを投稿

トファシチニブ開始後のリンパ球数、リンパ球サブセットの推移と感染症の関連について

Evaluation of the Short‐, Mid‐, and Long‐Term Effects of Tofacitinib on Lymphocytes in Patients With Rheumatoid Arthritis Ronald van Voll...