Latourte A,
Soumaré A, Bardin t,
et al. Ann Rheum Dis
2018;77:328–335.
<背景>
- 高尿酸血症は、痛風を引き起こし、心血管系疾患・腎臓疾患のリスクにもなりうる
- EULARガイドラインでは、痛風の治療では、血清尿酸値(SUA) < 360 μmol/L(≒ 6 mg/dl)へ下げることを推奨している[一部の患者では300μmol/L(≒ 5 mg/dl)以下を推奨]
- しかしながら、UAは神経保護作用を有すると考えられており、SUAを下げすぎるのも懸念されている
- UAは抗酸化作用にも重要と考えられており、SUAが低いことはParkinson's diseaseやALSなどの神経変性疾患のリスクになることも報告されている
- 認知機能とSUAの関連はこれまで調べられてきたものの、それらの結果は一定しなかった
- アルツハイマー病は、SUAと痛風と逆相関の関係にあった。
- 血管性認知症など他のタイプの認知症は、そこまではっきりした関連はなかった
- しかしながら、心血管疾患とUAの関連を考慮すると、動脈硬化を介して認知機能低下に関与するものと考えられる
- これまで行われた試験は横断研究であり、バイアスを除去できておらず、縦断研究によるデータは少ない
- 脳の変化は、認知症を臨床的に認める前に潜在的に進行している
- そのため、今回の試験では、認知症・SUA・頭部MRIの所見の関連を、大規模コホートで調べた
<方法>
①Study populaton
- The Three-City Dijon Study (3C-Dijon)はフランスのpopulation-based cohort studyであり、65歳以上の人が4931人登録されている
- baselineについては、1999/1 - 2001/3の期間に、問診・診察、採血、認知機能の評価を行なっている
- さらに、1999/6 - 2000/9の期間に登録された80歳未満の参加者(2763人)を対象に、頭部MRIを撮影を依頼し、実際に2285人(83%)から同意を得られて撮影した
- 12年間のフォロー期間で、2年ごとに計6回の診察をおこなった
- 今回の試験においては、上記コホートの中で、baselineにおいて、SUAを測定されており、baselineにてMMSE > 24で臨床的に認知症がない人を対象とした
- また、最近の報告によれば痛風が高尿酸血症と認知症の関連におけるバイアスになりうるため、痛風を有している可能性が高いと考えられる"尿酸降下薬を内服している人"(n=61)は除外した
- これらの選別により、1598人が解析対象となった
②認知症の診断
- 3段階の過程を経て認知症と診断した
- 精神科医が、MMSEとthe Isaacs Set Testによって、2年ごとのそれぞれの診察において認知症をスクリーニング
- スクリーニング陽性であれば、追加のneuropsychological testingを施行して認知機能低下の程度を調べた
- 最終的には、これら診察医とは異なる集団の神経科医が全患者をレビューして、DSM-Ⅳ criteriaと照らし合わせて認知症に矛盾しないか確認した
③MRI
- 1.5-Tesla Magnetom scanner (Siemens, Erlangen)を使用
④統計
- SUAは、閉経後も女性の方が男性より低く、性別による交絡を避けるために男性と女性でSUAの閾値を変えた
- 高SUA群
- SUA ≧ 5.8 mg/dl(男性)or SUA ≧ 4.9 mg/dl(女性)
- 低SUA群
- SUA < 4.4 mg/dl(男性)or SUA < 3.5 mg/dl(女性)
結果
①baseline characteristics(table1)
- 平均年齢:72.4才
- 男性:38.3%
- SUA:4.6mg/dl
- 高尿酸血症と関連した項目
- 高齢
- 心血管系疾患の既往
- 心血管系疾患のリスク因子(喫煙、肥満、高血圧、脂質異常症)
- 低GFR
- アスピリンもしくは利尿剤の使用
- CRP増加
- IL-6増加
- 13357人年の観察期間(中央値10.1年間)にて、110人が認知症を発症
- 粗発症率:8.2/1000人年
- アルツハイマー病:69.1%(76人)
- 血管性認知症 or 混合型:18.2%(20人)
- 認知症発症と関連した項目
- 高齢
- APOE-ε4 carriage
②認知症発症とSUAの関連(primary endpoint, Table2)
- 高SUA群のほうが、低SUA群より認知症が多かった(Model 1)
- HR=1.90 (95% CI 1.10 to 3.29), p=0.008
- 有意差は、以下で調整しても変わらず
- 心血管系疾患のリスク因子の有無(Model 2)
- HR=2.2 (1.21 to 3.98), p=0.004
- SUAに影響する薬剤 or NSAIDsの使用の有無(Model 3)
- HR=2.21 (1.22 to 4.00), p=0.004
- 炎症性マーカーの値(CRP, IL-6)(Model 4)
- HR=2.43 (1.34 to 4.42), p=0.001
- 認知症のタイプ別では、血管型認知症 or 混合型 > アルツハイマー病 の順で、SUAと認知症発症の関連が強かった
- 血管型認知症 or 混合型
- HR=6.41 (1.20 to 34.29), p=0.022
- アルツハイマー病
- HR=1.89 (0.94 to 3.83), p=0.06
③SUAと頭部MRIの関連
- 年齢、性別、心血管系疾患のリスク因子・既往、薬剤(利尿剤 or NSAIDs)、炎症性マーカーで調整すると、関連なし(table3, Model 4)
④sensitivity analyses
- NSAIDsを内服していない集団で、SUAと認知症の関連を比較
- アルツハイマー病とSUAの関連が強くなり、血管性認知症 or 混合型の認知症は有意差消失なし
- 通常の高尿酸血症の定義を使用(SUA ≧ 360 μmol/L(≒ 6 mg/dl)[男性]、300μmol/L(≒ 5 mg/dl)[女性])
- SUAが高いほうが認知症が多い傾向があるものの、有意差は消失
まとめ
- 認知症とSUAは、様々な交絡因子を多変量解析で除外しても、有意に関連した
- 特に、血管性認知症 or 混合型認知症において、高尿酸血症と強い関連を示した
- しかし、血管性認知症は症例数が少なかったので、解釈には注意が必要である
- これまで、低SUAと神経変性疾患の関連については、複数報告されている
- UAが抗酸化作用を有しており、脳をフリーラジカルから保護する、というのがその理由の仮説である
- この仮説は、Hershfieldらによって、 SUAを下げるペグロティカーゼ(Pegloticase)を投与しても酸化ストレスマーカーが変化しなかったという結果から、否定された
- むしろ、最近のin vitroの研究では、UAは酸化ストレスを増強し、アミロイドβを介した神経毒性作用を有するという報告もある
- さらに、SUAをイノシンで増加させても、Parkinson's diseaseと多発性硬化症には全く臨床的に効果がなかったことも報告されている
- Chenらは、case-control研究のメタアナリシス(n=2708)にて、アルツハイマー病と健常人において、SUAに有意差はなかったと報告している
- 他の最近のメタアナリシスでは、低SUAとアルツハイマー病は関連があったものの、血管性認知症 or 混合型認知症とは関連がなかったと報告している
- しかしながら、これら2つのメタアナリシスは、横断研究に基づいたものであり、時系列における変化という重要な因子に関してlimitationがあるものだった
- the Rotterdam cohort は、これまで唯一、SUAと認知症の関連について調べた縦断的な研究であった
- それによれば、SUAが高いと、認知症の発症率は低下するという結果だった
- しかしながら、認知症の診断時年齢が平均で85才であり、病理学的な変化はその数年前より進行しているということを考慮すると、認知症発症に関与する因子はそれをいつの時点で測定したかということは重要であると考えられる
- その点では、今回の研究とthe Rotterdam cohort では、SUA測定時期(72.4±4.1vs 69.4±8.4 years, respectively) と認知症発症までのフォロー期間(8.4±3.1vs 9.0±3.5 years, respectively) も異なっており、それが結果の相違に関与したものと考えられる
- また、SUAの測定方法の違いも影響しているかもしれない
- 興味深いことに、the Rotterdam cohortを解析対象とした他の横断研究では、SUA高値と、MRIにおける白質萎縮性変化・認知機能低下が関連していた
- CKDの患者では、SUAとMMSEが逆相関することが既報で報告されており、高SUAと認知機能低下は、背景にある心血管系疾患を介したものであるという仮説がある
- しかし、今回の結果では、脳における微小血管疾患の指標であるMRIにおける白質の変化と、SUAは関連しなかった
- SUAと認知症の関連を説明する他の仮説としては、炎症の関与がある
- 実際に、今回の結果でも、SUAが高い集団のほうが低い集団よりも、baselineのCRP, IL-6が高い傾向にあった
- NSAIDsに関しては、酸化ストレスや炎症を調整して認知症発症に影響することが考えられている
- 既報では、NSAIDs内服によってアルツハイマー病の発症率は低下したが、今回はむしろ増加した。血管性認知症 or 混合型認知症は有意差が消失したが、これはサンプルサイズが小さいことも勘案する必要がある。
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