ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 70, No. 3, March 2018, pp 408–416 DOI 10.1002/art.40366
Vol. 70, No. 3, March 2018, pp 408–416 DOI 10.1002/art.40366
背景
- 乾癬は、慢性的な免疫介在性皮膚疾患である
- 乾癬性関節炎(PsA)は、乾癬のうち1/3が発症する
- 最近、乾癬もしくはPsAの患者における動脈硬化のリスクが注目されている
- このリスクは、一般的な動脈硬化のリスク因子で調整しても有意であり、乾癬自体が心血管系疾患のリスクであることを示唆している
- 乾癬において動脈硬化を促進する機序については、あまりわかっていない
- 乾癬は全身の炎症であり、心血管系疾患の主な原因である動脈硬化も免疫が関与した炎症が影響することは広く認識されている
- 自然免疫と獲得免疫は、動脈硬化発症において、サイトカインを通じて関与している
- Th1の活性が増加し、Tregの活性が低下することで、TNFやIFNγなどの炎症性サイトカインが増加することは、動脈硬化・乾癬において共通している
- また、乾癬患者でよくみられる肥満とそれに関連する代謝異常は、全身性の炎症と強く関連している
- 脂肪組織は、様々な炎症性サイトカインを産生する
- 血清TNFの増加は、細胞性免疫を刺激し、動脈硬化に関連する血管内皮細胞の障害へ繋がる
- 乾癬患者における心血管系疾患へのTNFiの影響は、まだあまりわかっていない
- いくつかの試験で、TNFiが血管の機能・構造の改善を認めたという報告もあるが、いずれも小規模で観察期間も短い
- そのため、今回は、subclinicalな動脈硬化の指標(頸動脈プラークや血管の炎症など)をprimary endpointとして用いて、乾癬に対するTNFiのsubclinicalな心血管系疾患に与える影響について調べた
方法
①Study design
②Stage 2
- 2-stage study
- Stage 1(Toronto cohort)
- トロント大学にて、乾癬とPsAの患者を、2010-2015年にリクルート
- prospective
- baselineと2-3年後に頸動脈エコーでプラークを評価
- このStage 1の結果によって、乾癬に対するTNFiが血管の炎症に有効かどうか評価するかを決めた
- Stage 2(NIH cohort)
- NIHで、prospectiveにフォローしている、34例のPsAを対象にnested cohort analysisをおこなった
- 内訳は、TNFiを投与されている21例のPsAと、それらのPsA患者と年齢・性別をマッチさせた乾癬に対するsystemic medicationを受けていないPsA 13例
- baselineと、1年後にFDG-PET/CTを撮影
- 既知の心血管系疾患、コントロール不良の高血圧、HIV、5年以内に悪性腫瘍の既往がある、活動性感染症のある患者、なんらかの手術後3ヶ月以内の患者は除外
②TNFi therapy exposure
- IFX, ETN, ADA, GOL, CZPのいずれかを、フォローされている期間のうち半分以上で、使用されている場合を"TNFi therapy exposure"と定義
- baselineでの評価前にTNFiを開始していても、上記を満たせばOK
③Ultrasound assessment of carotid atherosclerosis.
- Stage 1において実施
- 1人のphysicianによって実施
- a high-resolution ultrasound system for carotid imaging (Esaote MyLab 70 XVision)を使用
- 両側の頸動脈を、baselineと2-3年後に評価
- 動脈硬化のプラークの定義(下のいずれか)
- 周囲の血管壁の厚さより、局所の血管壁が50%以上厚い
- 局所の血管壁の内膜が1mm以上に肥厚している
- TPA(Total plaque area)
- 心血管系疾患の予測因子として知られている
- 撮影したビデオから計測
④FDG-PET/CT image acquisition and analysis
- Stage 2において実施
- 前日夜から禁食
- baselineと12ヶ月後に撮影
- 10 mCi dose of 18F-FDGを投与して60分間以内に撮影
- 64-slice scanner (Siemens Biograph mCT PET/CT scanner)を使用して、1.5mmスライスを作った
- 大動脈を下の図の通り、5つの領域に分けて評価し、血管の炎症をTarget-to-background ratio(TBR)として計測
- 1. 上行大動脈、2. 大動脈弓部、3. 下行大動脈、4. 腎動脈上の大動脈、5. 腎動脈下の大動脈
- TBRは、一般人口において、心血管系イベントを予測すると既報で報告されている
結果
①Stage 1
- 319人を解析(table1)
- 平均年齢:54.5才
- 男性:55.8%
- 平均観察期間:2.9年
- 心血管系リスク因子は、特にTNFiとcontrol群で偏りはなさそう
- baselineで、1つ以上の頸動脈プラークあり:62.1%(198人)
- baseline TPAは、TNFi群を投与されている男性が、controlより高い(p=0.04)(table2)
- 性別とTNFiの使用の間において、有意な統計学的相互作用があったため(p=0.03)、男性と女性に分けて解析した(table3)
- 男性
- TNFi therapyが、動脈硬化進行を有意に抑制した
- adjusted β coefficient -2.09 [95% CI -3.32, -0.86], p < 0.001
- 上記の結果は、心血管系リスク因子と脂質降下薬内服の有無で調整しても、有意だった
- adjusted β coefficient -2.20 [95% CI -3.41, -1.00], p < 0.001
- 女性
- TNFi therapyによる動脈硬化進行の抑制は、単変量解析でも多変量解析でも有意ではなかった(p=0.93, p=0.74)
- TNFiは、DMARDsと比較して、動脈硬化進行を有意に抑制した
- adjusted β coefficient -4.1 [95% CI -5.6, -2.5], P < 0.001
- TNFiは、no systemic medicationと比較して、動脈硬化進行を有意に抑制した
- adjusted β coefficient -1.4 [95% CI -2.6, -0.1], P = 0.03
- DMARDsは、no systemic medicationと比較して、動脈硬化進行と有意に関連した
- adjusted β coefficient 2.7 [95% CI 1.2, 4.2], P < 0.001
②Stage 2
- 34症例のPsAを解析(baseline characteristicsはTable1)
- TNFiを投与されている群
- 男性が多い:57%
- 平均年齢:49.6才
- 心血管系リスク因子のスコアであるthe Framingham Risk Scoreは低い:中央値 4
- systemic anti-psoriatic therapyを受けていない群
- 年齢、性別をマッチさせた13人のPsA患者
- 心血管系リスク因子のスコアであるthe Framingham Risk Scoreは低い:中央値 3
- 血管の炎症は、TNFi群で1年後に有意に改善
- 平均TBR 1.90 vs 1.76 P = 0.03
- 心血管リスク因子と脂質降下薬の有無で調整した多変量解析の結果でも、TNFiは、有意に血管の炎症を抑制した(Table4)
- standardized β coefficient -0.41 [95% CI -0.74, -0.08], P = 0.02
- FDG-PET/CTを用いたStage 2では、性別による結果の違いはなかった
まとめ
- 今回の試験によって、TNFiは、古典的な心血管系リスク因子とは独立して、頸動脈プラークの進展を有意に抑制した
- その効果は、男性でより顕著だった
- また、TNFiによって、古典的な心血管系リスク因子とは独立して、FDG-PET/CTで評価した血管の炎症を有意に改善した
- これに関しては、性別による違いはなかった
- 関節リウマチでは、MTXとTNFiによって、心血管系リスクを低下させることができるということは知られていたが、乾癬ではこれまでこういったデータはなかった
- 今回、DMARDsが、no systemic medicationと比較して、動脈硬化進行と有意に関連したのは、後者は皮膚や関節炎のみで比較的軽症であることが交絡しているものと推測される
- 今回の試験では、血管の炎症が動脈硬化に繋がることは別々のstageでそれらを評価しているので、あくまでも血管の炎症を抑制することが動脈硬化進展の抑制に繋がるのは間接的なデータである
- しかし、別の報告で、18F-FDGの取り込みが血管の石灰化に繋がることが示されており、血管の炎症が動脈硬化進展に繋がると考えることは妥当だろう
- さらに、TNFiは脂質プロファイルやインスリン抵抗性など古典的な心血管系リスク因子に影響を及ぼすことが報告されている
- しかしながら、今回の試験では、TNFiによって脂質プロファイル・血圧・血糖は変化しなかった(データ提示なし)ので、それらとは別の経路を介した機序が推測される
- TNFiが、動脈硬化に与える影響について、男性と女性で異なる原因として、あまり説明できるものが考えられない
- 血管の炎症に対する効果は、性別による違いがなかったのも事実である
- 一つ考えられるのは、女性はもともと、baselineにおける動脈プラークが比較的少なく進展もわずかであるために、女性ではあまりTNFiによる影響が出にくかったのもしれない
- もう一つ考えられるのは、男性と女性で動脈硬化進展の機序が異なるということである。実際にこれはすでに報告されており、性ホルモンが血管系や心血管系リスク因子に作用するというものである。
- limitation
- 観察研究であり、交絡因子の除外がしきれていないかもしれない
- 血管の炎症と、動脈硬化の進展は、異なるcohortで評価している
- TNFiを使用している患者の大半が、今回の研究開始前に投与開始されているため、TNFiによる早期の有効性を評価できていない
- strength
- 乾癬の動脈硬化に対するTNFiの影響に関して、これまでで最も大きいprospectiveな研究である
- 心血管系リスク因子と疾患活動性に関して、よく評価されている
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