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2018年2月24日土曜日

JAMI cohort:PM/DM-ILDの予後不良因子


Initial predictors of poor survival in myositis-associated interstitial lung disease: a multicentre cohort of 497 patients
Rheumatology, 2018.
Sato S, et al.


背景

  • PMとDMは、特発性炎症性疾患に分類され、皮膚、筋肉、関節、肺など多様な臓器が標的となる
  • 間質性肺病変(ILD)は、PM/DMにおいて致死的な合併症である
    • PM/DM-ILDは、多様であり、最も致命的なのは、治療抵抗性の急速進行性ILD(RP-ILD)である

  • RP-ILDについて
    • 半数は、強力な治療をおこなっても死に至る
    • まだ確立した治療が存在しないが、高用量ステロイドと免疫抑制剤の併用を、不可逆的な肺障害に至る前の早期から行なうことが有効である
  • PM/DM-ILDにおいて、これまで報告されている予後不良因子は、以下である
    • 年齢
    • DMと分類される
    • 皮膚潰瘍あり
    • 縦隔気腫あり
    • 筋炎がない
  • 筋炎特異抗体の中で、抗melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5) 抗体と抗体aminoacyl tRNA synthetase (ARS) 抗体は、ILDと関連があるといわれている
    • RP-ILDとより関連しているのは、抗MDA5 抗体である
  • RP-ILDであること or 予後不良であることを予測する因子は、以下のものがある
    • 抗MDA5 抗体陽性
    • 急性 or 亜急性のILD発症経過
    • 発熱
    • フェリチン高値
    • 末梢血リンパ球数の低値
    • CRP増加
    • CTにて、下葉のconsolodation/ground-glass attenuation(GGA)を認める
  • 上記の中で、抗MDA-5抗体陽性が予後不良因子であることはいずれの報告でも再現性があるが、他の因子については一定しない
    • これは、それらの研究がサンプルサイズが小さい単施設研究であること、母集団の違いが原因として考えられる
      • そのため、今回、より大規模な多施設研究を行うこととした
  • the Multicentre Retrospective Cohort of Japanese Patients with Myositis-associated ILD(JAMI)
    • 日本の44施設が参加
    • このデータベースの497症例から、ILDの予後不良因子を特定することを目的とした

方法
  • JAMI
    • 多施設、retrospective(それぞれの施設の臨床医がデータをカルテより収集)、cohort
    • 2011/10-2015/10の期間にかけて患者を組み込んだ
    • 以下のデータを集めている
      • 経過、身体所見
        • 性別
        • 発症時年齢
        • 体重、身長
        • 発症時の住所
        • 罹患年数
        • 初発症状
        • 疾患の分類(PM, classic DM, CADM)
        • 発熱
        • 関節痛・関節炎
        • Raynaud's 現象
        • 皮膚硬化
        • sicca
        • 筋力低下
        • 筋痛
        • Gottron's papules
        • Gottron's sign
        • palmar papules
        • ヘリオトロープ疹
        • ショールサイン
        • Vネックサイン
        • flagellate erythema 
        • 皮膚潰瘍
        • 爪囲紅斑
        • 機械工の手
        • 皮下の石灰化
      • 血清学的データ
        • CK
        • ALD
        • CRP
        • ESR
        • KL-6
        • SP-D
        • フェリチン
        • RF
        • ANA
      • 心電図
      • 四肢MRI
      • 胸部X線
      • 胸部CT
        • 以下の4つに分類
          • 下葉のconsolidation/GGA
          • 下葉の網状影(reticulation)
          • random GGA
          • その他
      • SpO2
      • 動脈血液ガス
      • 呼吸機能検査(FVC, FEV1, DLco)
      • 6分間歩行試験
      • 可能であれば皮膚、筋、肺の病理所見
      • 初回寛解治療内容
        • ステロイド(パルスの有無)
        • CYC
        • CyA
        • Tac
        • MTX
        • AZA
        • MMF
        • IVIg
        • その他
  • 対象
    • 発症年齢16才以上
    • Bohan and Peterの分類にてdefinite or probable PM/DM, もしくはSontheimerの分類によりCADMと分類される
    • ILDあり
    • 診断時に筋炎特異抗体の血清学的データが存在する

結果
  • 497例を解析
  • baseline characteristics(table1)
    • 平均罹患期間
      • 3ヶ月(97.5%Cl 1 - 62ヶ月) ※比較的、発症早期の症例が主
    • 分類
      • classic DM or CADM が多い
      • PMは15%のみ
    • 筋力低下 48%
    • 胸部CT
      • 下葉のconsolidation/GGA > 下葉の網状影(reticulation), random GGA
    • 筋炎特異抗体
      • 抗ARS抗体:34%
        • Jo-1:44例
        • EJ:41例
        • OJ:13例
        • PL-7:32例
        • PL-12:26例
        • KS:12例
        • double-positive:2例(Jo-1+EJ, Jo-1+PL-7)
      • 抗MDA-5抗体:42%
        • 抗ARS抗体とdouble-positive:2例(PL-7, KS)
    • 初回寛解治療内容
      • ほぼ全例、ステロイドを使用:98%
        • 高用量:58%
        • パルス:57%
      • カルシニューリン阻害薬(CyA or Tac):80%
        • > CYC, MTX, AZA, MMF
      • CYCの大半は点滴投与,  q 2 - 4 w 
      • regimen
        • 高用量ステロイド+CYC:1%
        • 高用量ステロイド+カルシニューリン阻害薬:22%
        • 高用量ステロイド+CYC+カルシニューリン阻害薬:29%
      • IVIg:17%
      • MMF, RTX:稀
      • 驚くべきことに、PMX-DHP使用したのが 9%(47症例)もいた


予後
  • 平均観察期間:20ヶ月
    • その間に、93例が死亡
      • 死因
        • PM/DM-ILD:82%
        • 感染症:5%
        • 悪性腫瘍:5%
        • その他(腎不全、心筋症、自殺):8%
  • 単変量解析(table2)
    • ILDの予後不良因子
      • 男性
      • 高齢発症( ≧ 60才)
      • CADM
      • classic DM
      • 発熱
      • Vネックサイン
      • 皮膚潰瘍
      • 爪囲紅斑
      • CRP増加( ≧ 1mg/dL)
      • KL-6増加( ≧ 1000 U/mL)
      • フェリチン増加( ≧ 500 ng/mL)
      • CTにて、下葉のconsolidation/GGA or random GGA
      • SpO2低値(<95%)
      • 抗MDA-5抗体陽性


  • ILDの予後良好因子
    • Raynaud's現象
    • 筋力低下
    • CK高値
    • ALD高値
    • SP-D高値
    • 抗ARS抗体陽性

  • 多変量解析(figure1)
    • ILDの予後不良因子を特定するために、stepwise法と、the cause-specific Cox proportional hazards regression model を使用した
      • 性別、発症年齢、抗MDA-5抗体、抗ARS抗体は、すでに既報で予後不良因子として報告されていたので、最初にモデルへ組み込んだ
      • また、単変量解析にて P < 0.2 となった項目をモデルに組み込んだ
      • そのあとに、ステップアップとステップダウンの行程を繰り返し、項目を絞り込んだ
    • ILDの独立した予後不良因子(figure1)
      • 高齢発症( ≧ 60才)
        • HR 4.3, 95%CI 2.4-7.5, p<0.001
      • 抗MDA-5抗体(+)
        • HR 7.5, 95%CI 2.8-20.2, p<0.001
      • CRP ≧ 1 mg/dL
        • HR 2.6, 95%CI 1.5-4.8, p=0.001
      • SpO2 < 95%
        • HR 2.0, 95%CI 1.2-3.4, p=0.011
    • 最終多変量解析に、初回寛解治療内容(高用量ステロイド、カルシニューリン阻害薬、CYC, IVIg)を交絡因子として加えたところ、上記4つが独立した予後不良因子であることは変わらずKL-6高値( ≧ 1000 U/mL)[HR 2.0, 95%CI 1.2-3.3, p=0.01]が独立した予後不良因子として加わった


  • 上記項目について、様々な他のモデルで検証した
  • 各予後不良因子の有無で、それぞれ層別化したKaplan-Meier曲線 (figure2)


  • 上記で、SP-Dが80ヶ月時点でクロスするのはハザードモデルのviolationであることを示唆しているので、説明変数の中からSP-Dを除外し、再度ILDの予後不良因子を解析したところ、以下の項目がILD予後不良因子だった
    • 高齢発症( ≧ 60才)
    • 抗MDA-5抗体(+)
    • CRP ≧ 1 mg/dL


  • 欠損値がいくつかあったため、多重代入法(Multiple Imputation method)を行ったところ、以下の項目がILD予後不良因子だった
    • 高齢発症( ≧ 60才)
    • 抗MDA-5抗体(+)
    • CRP ≧ 1 mg/dL
    • KL-6( ≧ 1000 U/mL)
    • SpO2 < 95%



  • 死亡症例の88%は、抗MDA-5抗体陽性だった
    • すなわち、今回のモデルは、MDA-5抗体に大きく影響されていると考えられる
    • それを検証するために、MDA-5抗体陽性の有無で層別化して解析した
      • MDA-5抗体(+)群(figure3A)のILD予後不良因子
        • 高齢発症( ≧ 60才)
        • CRP ≧ 1 mg/dL
          • ※"爪囲紅斑"は予後良好因子だった
      • MDA-5抗体(ー)群(figure3B)のILD予後不良因子
        • 有意な予後不良因子は認めず



まとめ
  • 単変量解析にて、診断時の項目より予後不良因子の候補を選択し、以下の項目がILDの予後不良因子として同定された(figure1)
    • 高齢発症( ≧ 60才)
      • HR 4.3, 95%CI 2.4-7.5, p<0.001
    • 抗MDA-5抗体(+)
      • HR 7.5, 95%CI 2.8-20.2, p<0.001
    • CRP ≧ 1 mg/dL
      • HR 2.6, 95%CI 1.5-4.8, p=0.001
    • SpO2 < 95%
      • HR 2.0, 95%CI 1.2-3.4, p=0.011
  • 上記項目を、さらに複数の異なるモデルで検証した
  • 年齢、CRP、SpO2は日々の臨床で多く使用しており、抗MDA-5抗体も商業ベースで測定可能であるため、今回の結果は、PM/DM-ILDの発症早期に強力な治療が必要な症例を特定するのに有用であると考えられる
  • JAMIはnationwide、大規模コホートであり、PM/DM-ILDでは初の多施設コホートである

    • PM/DMは多様な疾患であり、症状によってどの各専門科(皮膚科、リウマチ科、呼吸器内科、神経内科)を受診するか異なり、それによって各専門科の間で母集団の重症度などの背景が異なる
      • そのため、JAMIでは多くの専門科にて構成された
    • また、診断時の血清を、全例、筋炎特異抗体のfull panelで解析していることが、PM/DM-ILDの多様な臨床経過の解析には利点をもたらしている
  • これまで報告されていた予後不良因子は、互いに交絡しているため、どの項目が主要な予後不良因子なのかはサンプルサイズが小さくわかっていなかった
    • 今回のコホートでは、以前に報告されていた多くの項目は、多変量解析にて独立した予後不良因子とはならなかった
  • 抗MDA-5抗体(+)は、最大のHRであり、陽性であると 7.5倍もリスクを増加させた
    • 他の予後不良因子はMDA-5抗体陽性と関連しており、抗MDA-5抗体(ー)群では死亡例が少なかったため、抗MDA-5抗体(ー)群における予後不良因子を特定できなかった
    • この結果は、13試験を含めたメタアナリシス解析にて、DM患者におけるRP-ILDに対する、MDA-5抗体の感度・特異度がそれぞれ77%, 86%であるという報告を支持するものだった
  • 抗ARS抗体(+)であることは、ILDにおいて予後良好であるという結果であったが、これはこれらの患者群の大半がMDA-5抗体が陰性であることと強く関連しているものと考えられる
    • Yoshidaらは、MDA-5抗体陽性であると、ARS抗体陽性と比較して、3ヶ月後死亡率が有意に高いことを報告している
    • 診断時における筋炎特異抗体の測定は、PM/DM-ILD患者のその後の経過を予測するのに重要である
  • CRPは、PM/DM-ILD患者における有意な予後予測因子として、これまで注目されてこなかった
    • しかしながら、最近の報告にて、PM/DM患者においてILDを発症することとCRP高値が関連していることが報告された
    • 中国のCADM 40症例の小規模の研究では、多変量解析にて、MDA-5抗体陽性とCRP高値を組み合わせると、RP-ILD発症の独立した予測因子として報告された
    • また、CRPは、他のILD(IPF, SSc-ILD)において予後不良因子として報告されている
      • すなわち、CRPは、肺実質における不可逆的なダメージを誘導する炎症を反映しているマーカーであることが示唆される
  • JAMIにおける治療方法は、これまで報告されているものと異なっている
    • "triple combo" = 高用量ステロイド+カルシニューリン阻害薬+CYC で治療されている患者が多い
    • これは、日本の保険制度とも関連している
    • しかしながら、治療内容を交絡因子として加えても、上記の独立した予後不良因子は変わらなかった
  • limitation
    • tertiary referral hospitals で治療された症例から解析しているため、重症症例に偏っているかもしれない
      • しかし、皮膚科からの症例も含んでいるため、そのバイアスは多少緩和されていると考えられる
    • 観察期間が20ヶ月と短いため、短期間での予後しか評価していない
      • そのため、MDA-5抗体とRP-ILDの関連を過大評価している可能性はある
    • 喫煙歴について聴取していない
      • その理由は、これまでPM/DM-ILDにおける予後不良因子として喫煙が報告されていなかったからである
      • しかし、最近、特発性炎症性筋疾患の多施設レジストリー(EuroMyositis)から、喫煙がILDと関連があることが報告された

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