(米国国立アレルギー・感染症研究所,米国国立衛生研究所から助成を受けた.ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT00114530)
背景
- dcSScの肺病変による死亡率は、ここ40年で改善していない
- DMARDsや生物学的製剤においても、長期的な有効性を示すものは報告されていない。
- CYCを12ヶ月間投与しても、placeboと比較して、短期間のメリットを示すのみだった
- 強皮症に対する自家造血幹細胞移植の有効性を評価した先行研究では、皮膚硬化の改善と肺機能の安定を示した
- 骨髄非破壊的前処置による移植に関する2つのランダム化試験も有効性を示したが、安全性の懸念があり、実臨床におけるpracticeを変えることはなかった
- 今回の試験(Scleroderma: Cyclophosphamide or Transplantation [SCOT] )は、骨髄破壊的前処置の移植のほうがCYCよりも長期の有効性が優れているという仮説のもと、異なるレジメンで行なった
- 骨髄破壊的前処置+全身放射線照射→CD34陽性血球細胞の自家移植 vs. CYC
- 観察期間:4.5年程度
- primary endpoint:54ヶ月時点におけるglobal rank composite score(GCRS)
方法
- ランダム化、open-label、phase2 trial
- USの26施設で実施
- 観察期間:54ヶ月間(最大72ヶ月間)
- 自家造血幹細胞移植群
- leukapheresisを行い、G-CCF投与してCD34陽性細胞を採取した後、冷凍保存
- 分割全身放射線照射(800cGy)+CYC(120mg/kg)+ウマ由来のATG(90mg/kg)
- 肺と腎臓は、200cGrまでの曝露となるよう防護した
- CD34陽性細胞を移植(平均5.6×10^6/kg, IQR 3.8 - 6.0)
- 移植後に、G-CSF+グルココルチコイド+リシノプリル+予防的抗菌薬(アシクロビルを1年間)
- CYC群
- CYC 500mg/BSA monthly ×12回
- 対象
- 18-69歳
- ACR1995分類基準を満たす強皮症で、肺病変(活動性ILD[気管支鏡による細胞分画 or CTにて診断]+FVC or DLco < 70% )もしくは強皮症関連腎病変を有する
- 罹患期間5年以内
- 除外
- 活動性の胃前庭部毛細血管拡張症
- DLco < 40%
- FVC < 45%
- LVEF < 50%
- Ccr < 40ml/min
- PAHあり
- 以前にCYCで6ヶ月間以上の治療歴がある
- 評価
- 診察の際に、呼吸機能検査とmRSSを評価
※mRS score
- primary endpoint
- 54ヶ月時点でのGCRS
※Global Rank Composite Score (GRCS)
- 多彩な臨床所見を同時に呈する疾患の解析ツール
- 疾患活動性や重症度を測定するものではなく、outcomeのhierarchyを症例ごとに比較するもの
- 今回のoutcomeのorderは、SCOT Steering Committeeで上から順に以下のように決定
- 死亡
- event-free生存期間=EFS(肺病変の進行なし、腎不全なし、心不全なし)
- 肺病変の進行
- DLco 30%以上の低下
- FVC 20%以上の低下
- 安静時 pO2 < 60mmHg(室内気)
- 安静時pCO2 > 50mmHg
- 安静時SpO2 < 88%
- 腎不全
- 6ヶ月間以上の血液透析
- 腎移植
- 心不全
- 慢性心不全:New York Class 3 or 4
- UCGでLVEF < 30%
- FVC
- HAQ-DI
- mRS
- 注意すべきなのは、GCRSにおいては、全ての死亡と、54ヶ月時点でのEFS failureが等しく評価されることである
- 移植の場合は、移植合併症で短期間の予後は悪くなりがちだが、長期で評価すると異なるため、今回の試験ではGCRSを使用した
- 上の順序に従い、以下のStepに沿って、それぞれの症例同士で比較し、良い(=1)、同等(=0)、悪い(=ー1)とスコアをつける
- GRCSの例は以下の通り
- 6症例で比較すると、subject 1と2はいずれも時期は異なるが死亡しているのでoutcomeはequalであり、1と2を比較するとsubscoreは「0」となる。他のsubject 3-6とそれぞれ比較すると、いずれも1と2のほうがoutcomeが悪いので、−1となる。そのため、合計はsubject 1と2は共に−4となる。
統計学的解析に関して
- 当初の予定では、EFSをprimary endpointとしていており、226人を対象に行う予定だったが、その後サンプルがなかなか集まらなかったので、entry criteriaを拡大し、GCRSをprimary endpointとしてサンプルサイズを減らすことができ、十分な検出力(両側検定で93%、α level=0.05)のために必要なサンプルサイズは114人となった
- 最終的には、the data and safety monitoring boardから、75人の時点で終了する様に推奨された
結果
- Baseline characteristics(table1)
- 平均mRSS:30
- 平均DLco:53%
- 肺病変あり:93%
- 比較的、重症な集団が含まれていた
- 理由は不明だが、CYC群のほうが女性、喫煙歴なし、以前にCYCを使用していた割合が多い
有効性
- primary endpoint(54ヵ月の時点でのGRCS)
- intention-to-treatの集団で1404(36例×39例) の対比較を実施すると、骨髄破壊的前処理による造血幹細胞移植群のほうが良好であった割合は 67%、CYCのほうが良好であった割合は 33%
- P=0.01
- per-protocolの集団(移植を受けたか、CYCの投与を 9 回以上受けた症例を対象)で対比較を行うと、移植群で70%、CYC群で 30%
- P=0.004
- 54ヵ月の時点でのEFS
- per-protocolの集団で解析
- 移植群 79% vs. CYC群 50%
- P=0.02
- Kaplan–Meier曲線では、およそ治療後2年時点で2群間が分岐していった
- per-protocolの集団における、72ヵ月の時点でのEFS
- 移植群 74% vs. CYC群 47%
- P=0.03
- per-protocolの集団における、72ヵ月の時点での全生存率
- 移植群 86% vs. CYC群 51%
- P=0.02
- DMARDを 54 ヵ月の時点までに開始した割合
- 移植群 9% vs. CYC群 44%
- P=0.001
- 移植群では、慢性心不全やPAHの発症なし
- CYC群では、それぞれ12%, 15%であり、有意差あり(p<0.05)
- 各臨床項目の改善している割合も、移植群のほうが多い
- 上がITT集団、下がper-protocol集団
- baselineにおける違いを修正して解析したpost hoc解析でも、移植群の優越性は変わらなかった
- 層別化すると、非喫煙者において、移植群群とCYC群の有効性の違いが最も有意だった
安全性
- 治療関連死亡率
- 移植群 3%(54ヶ月時点),6%(72 ヵ月時点)
- シクロホスファミド群 0%
- 全ての理由を含む死亡人数は21例
- 移植群における死亡症例:7例
- 3例は移植を受けずに死亡
- 2例はMDSと診断された後に治療関連で死亡(17ヶ月時点、70ヶ月時点)
- 1年以内に死亡した症例はいなかった
- 残りの2例はすでにrespiratory failure、renal failure、cardiac failure(EFSで定義されたもの)のeventが起きていた
- CYC群における死亡症例:14例
- 3例はIVCY投与回数5回以下
- 7例はすでにrespiratory failure、renal failure、cardiac failure(EFSで定義されたもの)のeventが起きていた
- CYCによる死亡と考えられた死亡はいなかった
- 重度有害事象
- 移植群 74% vs. CYC群 51%
- しかしながら、観察期間による違いがあるので、人年で計算すると、移植群のほうが有害事象は少ない傾向だった
- 移植群 0.38/人年 vs. CYC群 0.52/人年
- p=0.08
- 移植群のほうが、早い時期に重度有害事象が起きやすい傾向にあった
- grade 3以上の有害事象の割合:移植群のほうが多かった
- 移植群 100% vs. CYC群 85%
- 移植群 2.0/人年 vs. CYC群 1.2/人年
- p<0.001
- 悪性腫瘍
- 移植群 3例(甲状腺乳頭癌 1例、MDS 2例)
- CYC群 1例(乳癌)
- 感染症の発生率:同等
- 移植群 0.75/人年 vs. CYC群 0.79/人年
- grade3以上に限定すると、移植群のほうが多い傾向にあった
- 移植群 0.21/人年 vs. CYC群 0.13/人年
- 帯状疱疹
- 移植群 12例(1例は播種性) vs. CYC群 1例
- 単純ヘルペス、EBV感染症:なし
- CMV再活性化:移植後に5例
考察
- 今回の試験では、重症の強皮症に対して、骨髄破壊的前処置によるCD34陽性自家造血幹細胞移植は、長期の予後では、CYCよりも優れていた
- 54ヶ月時点でのGCRSをITT解析した結果は、当初の群間の偏りを補正した後も、変わらなかった
- GCRSのper-protocol解析、頻用されている他のend points(全生存率、EFS、mRSS、DMARDs使用率)で評価しても、移植群のほうが優れていた
- 今回の結果は、the Autologous Stem Cell Transplantation International Scleroderma (ASTIS) trial の結果を支持するものだった
- 非喫煙者のほうが良いというデータも同様だった
- ASTIS trialでは、骨髄"非"破壊的前処置での移植を行い、移植後12-24ヶ月に強皮症が再発(DMARDsが必要だったものと定義)した症例の割合は22%だった
- 今回のSCOT trialでは、54ヶ月時点でDMARDsを再開したのは、移植群で9%のみだった
- 有害事象も考慮が必要だが、その発生は移植後早期に限られている
- 重度有害事象の96%は最初の26ヶ月間に起きている
- 全感染症の発生率は、同等だった
- 帯状疱疹は移植群のほうが多かった(12/33=36%で発生)
- GCRSによる評価はこれまで強皮症の試験では用いられることがなかったが、他の疾患では使用されている
- 臨床指標というよりも、2群間の個々の症例をヒエラルキーに沿って比較する解析手法であり、多くの臨床所見を同時に評価することができる
- 今回は、客観的項目(死亡、EFS、FVC)が主観的項目(HAQ-DI、mRSS)よりも重きを置かれた
- そして、GCRSによる結果は、他の一般的な他のend points(全生存率、EFS、mRSS、DMARDs使用率)によっても支持される結果だった
- 自己免疫疾患に対する自家造血幹細胞移植による合併症には、治療関連死亡、感染症、悪性腫瘍が含まれる
- 感染症は最初の1ヶ月間に多く、その後はリスクが低下する
- 強皮症自体が悪性腫瘍のリスクであるが、化学療法と放射線も悪性腫瘍のリスクを高める。全身放射線治療を受けた場合、その後の人生において二次発癌のリスクが高まってしまうため、慎重なフォローが必要である
- 今回の試験において、移植関連死亡率は、54ヶ月時点で3%、72ヶ月時点で6%であり、これまでの報告より低いものだった
- 死亡は最初の1年間では認めなかった
- ASTIS trialでは、75例の骨髄非破壊的前処置自家造血幹細胞移植で、最初の1年間で10.7%が死亡した
- この違いは、おそらく試験に組み込まれた患者のdisease characteristicsの違いを反映しているのだろう
- SCOT trialでは、心病変と肺高血圧を有している症例がおらず、喫煙者の割合も低かった
- ASTIS trialでは、CYCをmobilization(4g/BSA or 100mg/kg)とtransplantation(200mg/kg)の両者で高用量で使用している
- 既報では、同等の高用量CYCを移植の際に使用した90例の強皮症患者をretrospectiveに解析すると、6%の治療関連死亡率となり、移植時期に近い5例の死亡例のうち4例は心臓合併症だった
- すなわち、重症の強皮症患者(特に心病変を有する場合)に対する高用量CYCは、非常に毒性が強いのかもしれない
- 骨髄非破壊的前処理による移植レジメンと異なり、SCOT trialのレジメンでは、造血幹細胞がreconstitutionする前に、T細胞を最大限除去するように組まれている
- 全身放射線治療は、分裂&休眠している自己反応性クローン細胞を除去することができ、これによって長期のremissionを達成できるのかもしれない
- しかしながら、自家移植した後にimmune homeostasisが自己免疫疾患をコントロールする機序は完全にはわかっていない
- limitation
- 重症の内臓病変をリクルートしており、皮膚病変のみではないため、全ての強皮症患者に今回の結果が当てはまるわけではないかもしれない
- GCRSの項目とヒエラルキーは、今回の重症の集団に対して選択されたものなので、他の強皮症患者では異なるかもしれない
- 移植では盲検ができない
- 客観的指標を上位にすることでこのlimitationをできるだけカバーした
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