- リウマチ膠原病疾患は早期発見、治療が望ましい
- しかしながら、いずれの疾患もほぼ共通して発症早期は関節炎や全身の炎症を伴い診断が難しく、バイオマーカーに関しては助けにはなるが有病率が低いため発症早期にバイオマーカーのみ陽性の場合は扱いが難しく経済的な問題もあり、多くの疾患は、undifferentiated connective tissue disease (UCTD) として最初の数年間は経過する
- オーダーメイド医療が最近は注目されている
- 悪性腫瘍の領域でも、The Cancer Genome Atlas (TCGA) が14000人以上の被験者から、分子レベルの検体(RNA sequencing (RNA-seq) 、DNA methylationなど)を集めて解析している
- しかしながら、実地臨床にこれらの情報はまだ活かせていない
- リウマチ膠原病疾患でも、まだ、このような分子生物学を用いた未分類疾患の診断は行われていない
- 今回のレビューでは、これまでの分類基準の歴史、生化学を利用した新しい分類方法の検討を述べていく
これまでの分類の歴史
- Fig1のように、特異的な自己抗体によって、分類基準が改定されてきた(診断基準ではない)
- ゴールドスタンダードは専門家による診断である
- それぞれの疾患の分類基準の変遷は本文に詳しく書かれていますが、ここでは割愛
分子学的な分類
- 自己免疫疾患における遺伝の要素はわかっていないことも多い
- 同じ疾患を共有する割合は高くない
- SLEに関しては、第1親等もしくは第2親等にも同じ患者がいるのは10%未満
- 一卵性双生児で疾患を共有する割合は、SLE 11.1%, RA 12.3%, SSc 4.2%
- しかしながら、異なる全身性の自己免疫疾患を血族で共有することは多々あるので、異なる疾患でもメカニズムとしてはいくつか共通している部分があるのだろう
- GWASによれば、SLE, RA, SSc, SjSにおいて、300 lociがこれらの疾患と関連があるとわかった(定義:p < 5×10^-8)
- 多くのlociが、2つ以上の自己免疫疾患と関連しており、これらの遺伝子の発現・制御が、特異的な臨床所見とどう関連しているのか調べていく必要がある
HLA
- HLA locusと自己免疫疾患の関連は、最初に、SLEとRAにおいて指摘された
- しかしながら、原因となるMHC locusを特定するのは、この領域におけるlong-range linkage disequilibrium(LRLD, linkage disequilibrium = 連鎖不均衡)の点と、もともと多型が多いということから、なかなか難しい
- fine-mapping platforms (例:ImmunoChip)、large MHC reference panels、specific imputation algorithms、next-generation sequencingなど新しい技術は、これらMHC locusの複雑性を解明していくことの助けになる
- fine-mapping platformsの研究では、HLA class 2 遺伝子が自己免疫疾患と関連があることがわかった(table1)
- HLA class 2 遺伝子にコードされている蛋白は、T細胞への抗原提示に関与している、自己抗体産生に関連している
- これらHLA遺伝子マーカーによって、一部の疾患を層別化することが可能である
- 例えば、SScのうち、lcSScと関連するセントロメア抗体はHLA-DQA1、HLA-DOAと関連しており、dcSScと関連するトポイソメラーゼ抗体はHLA-DPB1と関連してがある
- SLEの患者においても一部でトロポイソメラーゼ抗体とセントロメア抗体が陽性になり、これらにはHLAが関連していると考えられている
- セントロメア抗体に関しては、SLEの6%未満で陽性となり、これらは臨床所見としては高齢発症で、Raynaud症状が多いという特徴があり、Nakanoらは新しいSLEのサブセットとして提唱している
- トポイソメラーゼ抗体に関しては、SLEの25%未満で陽性となり、PAH・腎炎のリスクが上がると言われている
Non-HLA associations
- HLAが主な自己免疫疾患発症に関与している遺伝子と考えられているが、HLA以外の関与も指摘されている
- それぞれの疾患によってrisk locciの数が大きく異なるのは、GWASで解析したそれぞれの疾患の数が異なるためである
- RAとSLEに対して行われたGWASsは、SjSとSScに対するそれの10倍である
- それにも関わらず、SjSとSScは、risk lociのうち60%以上を共有している(SLEとRAは50%未満)
- これらのrisk lociは、遺伝子のいたるところに分布しており、その多くは以下に関与するものである(Fig2)
- T細胞、B細胞の機能・シグナル
- 免疫複合体のprocessing
- phagocytosis
- 炎症反応
- アポトーシス
- NFκBシグナル
- TLRシグナル
- IFN産生経路
- それぞれの疾患におけるrisk lociは他の自己免疫疾患でもrisk lociとなっていることが多いが、全risl lociにおいて平均して69%が複数の疾患と共有しているlociだった
- Nature 518, 337–343 (2015). における下図aがそれを示している。主な自己免疫疾患間において、幅広い遺伝子の特徴が共有されていた。
- また、よりリスクが相対的に低いlociも検出するためにGWASのmeta-analysisを行うと、
- RAは、SScとgeneticな要素でoverlapする部分があるものの、SLEとSjSとはoverlapしなかった
- しかしながら、SLSとSjSは、SScとoverlapする部分がある
- これらのデータには、すでに述べた様に、疾患によって調べられたGWASの数が異なることに注意する必要がある
トランスクリプトーム
- トランスクリプトームは、疾患経過中に細胞(免疫細胞や組織由来fibroblastなど)や組織(血液や罹患臓器など)など変化するため、個々の症例における遺伝子variationを調べるよりも複雑である
- 遺伝要素のみではなく、エピゲノムや環境要因もトランスクリプトームに関連しているため、自己免疫疾患の病態について新しい知見が得られるだろう
組織を標的にしたトランスクリプトーム解析
- トランスクリプトーム解析によって、それぞれの疾患をいくつかのサブグループに分けることができる
- RA
- RA-Ⅰ
- 免疫グロブリン関連遺伝子の発現が増加
- 獲得免疫・古典的補体活性化経路の活性化
- 滑膜における細胞外マトリックス代謝の活性化
- RA-Ⅱ
- fibroblastのde-differentiation関連遺伝子が増加
- 滑膜組織における炎症反応が過剰発現もしくは抑制されているサブグループも報告されているが、これらを特定する末梢血のバイオマーカーは特定されていない
- SSc
- lcSScとdcSScの両者を含む3つ目のグループがある
- このグループは、炎症反応に関連する遺伝子が著明に増加している
- dcSScのグループでは、細胞増殖に関連する遺伝子の発現が増加し、脂肪酸・脂質合成関連遺伝子の発現が低下している
- lcSScのグループでは、細胞増殖に関連する遺伝子や炎症反応に関係する遺伝子は発現が低下しているものの、多様な機能に関連する複数の遺伝子発現が増加している
- SjS
- 多くの患者が唾液腺におけるIFN活性が亢進しており、臨床所見と相関する
- このIFN signatureのうち、優位なものがtype 1なのか、type 2なのか、両者なのかによって層別化できる
- type 2 IFN 優位の場合が、唾液腺組織におけるfocus scoreが最も高いことが報告されているが、このサブグループによって臨床所見が異なるわけではない
- SLE
- heterogeneousな疾患であるが、多くの罹患臓器(糸球体、滑膜、皮膚、骨髄)がtype 1 IFN signatureを示す
- 腎炎は以下の2つのサブグループに分かれるが、臨床的に大きく異なる特徴の違いはないため、この層別化にはあまり意味がないかもしれない。一方のグループで糸球体硬化のリスクが高いかどうか、長期間の解析が必要である
- 線維化に関連する遺伝子の発現が増加しており、糸球体硬化と関連するグループ
- type 1 IFN signatureのサブグループ
血液でのトランスクリプトーム解析
- SjS, SScの末梢血単球は、 type1 IFN signatureである
- SjSの場合は疾患活動性と関連しているが、SScではこのsignatureであるかどうかはサブグループによって異なる(発症早期 78.9%, 診断確定後 100%。lcSSc 42.9%, dcSSc 70%)
- SScの重症度とIFN誘導性ケモカインが関連していることを示した報告もある
- 興味深いことに、sialic acid binding Ig like lectin1 (SIGLEC1) などいくつかのIFN関連バイオマーカーは、SjSにおける腺外症状の有無と関連している
- miRNAs、long non-coding RNAs、methylation sitesなど、他のバイオマーカーについても調べられているところである
エピゲノム
- 環境要因は、エピゲノムの変化によって、それぞれの疾患発症に関連している
- DNAメチル化が最も特徴的なエピジェネティックマークである
- 遺伝子の転写、染色体の安定性、alternative splicingの制御は、regulator regionにおけるDNAメチル化と関連している
- エピゲノムのオアターンは自己免疫疾患においても重要であるが、解析はまだあまり行われていない
- SLE患者のCD4陽性T細胞は、type 1 IFN 関連遺伝子の低メチル化によって発現が増加していることからも、これらが発症の指標になるかもしれない
- T細胞の低メチル化は、SSc, SjSでも報告されている
- SLE, SSc, SjS患者のB細胞、単球、皮膚fibroblast、全リンパ球は、hypomethylated patternを示す
- このpatternは、DNAメチル化に関連している遺伝子(DNMT1, DNMT3B, MBD4)発現の低下と関連している
- Methylation machinery gene は食事による葉酸摂取に依存しており、葉酸摂取低下により全ゲノムのメチル化が低下する
- この結果は、環境要因と自己免疫疾患発症の関連を支持している
- CD40L遺伝子プロモーターは、X染色体に存在するが、RA, SLE, SScでメチル化が低下している
- この遺伝子の低メチル化が、女性におけるCD40過剰発現の原因なのかもしれない
- type 1 IFN signature遺伝子であるIFI44Lのプロモーターは、SLE患者においてメチル化が低下している
- RA, SjSでも同様の変化があるが、メチル化のレベルは明らかにこの3疾患で異なっている
- 一卵性双生児間におけるDNAメチル化を比較すると、SLEでは49遺伝子のメチル化が双生児間で異なっていたが、RAと皮膚筋炎ではこの双生児間での違いは認められなかった
- dcSScとlcSScのメチル化を比較した研究は1つのみあるが、それによると、CpC sitesにおけるメチル化がこの両疾患で異なっていた
Integrated analysis
- 上記の手法を統合して解析することで、さらなるデータが得られる
- RA患者では、DNAメチル化とトランスクリプトーム解析のデータを統合して解析したところ、関節によって、fibroblast-like 滑膜細胞におけるDNAメチル化と発現パターンが異なっていた
- すなわち、同じRAでも、罹患関節によって薬剤への反応性が異なるかもしれない
- SLE患者において、腎炎がない場合とある場合であまり遺伝子の違いはなかったが、その少ない異なる遺伝子の多くはDNAメチル化に関する遺伝子だった
- これによれば、エピゲノムをモニターすることで、腎炎発症のリスクが高い集団を早期に特定できるかもしれない
- SjSでは、トランスクリプトーム解析とプロテオミクス解析を統合してみると、トランスクリプトではIFN関連遺伝子が疾患活動性と関連していたが、プロテオミクス解析ではメタロプロテアーゼ基質が関連していた
- これらは結果は異なるものの、両方の解析結果にはIFN制御遺伝子が含まれていた
- また、両者の手法での解析結果とも、memory CD8陽性T細胞の数と関連していた
- すなわち、IFN経路が、CD8陽性T細胞のプロテオームのエピゲノムでの変化と関連しているということを示唆している。そしてこのエピゲノムの変化には、メチル化によるものではない。
- しかしながら、メチル化による変化がCD8陽性T細胞に生じることでこれらの機能が変化することも起こりうる
- integtared analysisにおける難しさは、統計学的有意差を出すために十分なサンプルを確保することである
- 例えば、RA, SLE, SSc患者におけるCD4陽性T細胞から、トランスクリプトーム解析とメチル化に関するデータを集めるにしても、健常人とメチル化が変化しているのは33種類の遺伝子のみしか特定できなかった
- integrated analysisの手法に関しては、table42やfigure4のように、いくつかのアルゴリズムがある
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