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2018年1月31日水曜日

背景に自己免疫疾患がある症例に、免疫チェックポイント阻害薬を使用した症例の報告まとめ:annals of internal medicineのreviewより


Ann Intern Med. 2018;168:121-130. doi:10.7326/M17-2073 


背景

  • 免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)は、これまで6種類のものがFDAに承認されている
    • Ipilimumab(ヤーボイ®︎)
      • 抗CTLA-4抗体
    • nivolumab(オプジーボ®︎), pembrolizumab(キイトルーダ®︎)
      • 抗PD-1抗体
    • avelumab(バベンチオ®︎), atezolizumab, durvalumab
      • 抗PD-L1抗体
  • 80%近い患者が、様々な臓器に免疫関連有害事象(irAEs)を経験する
    • T細胞の活性化に続く炎症性サイトカインの増加が機序と考えられているが、詳しい病態はあまりわかっていない
  • もともと自己免疫疾患がある場合は、再燃を懸念してICIsの臨床試験から除外されている
  • しかしながら、ICIsの適応の拡大もあり、自己免疫疾患の既往がある患者におけるrisk-benefitを知っておく必要があるため、今回、これまでの結果をまとめることとした

方法
  • MEDLINE, EMBASE, Web of Science, PubMed ePubs, the Cochrane Central Register of Controlled Trials から2017年9月までに行われた14試験 を、言語・試験デザインを問わずに解析対象とした
  • 2人のレビュワーが上記から得られたデータを解析

結果
  • 49論文から、123症例がinclusion criteriaを満たした
    • case report:39論文
    • case series:4論文
    • retrospective observational studies:6論文
  • irAEの原因薬剤として、どの種類のICI agentが特定されていた:94.3%
    • 用量まで確認できた:40.7%
    • ICIs投与〜irAE発症までの時系列がわかった:94.3%
    • 自己免疫疾患に対して使用している薬剤の影響の可能性を検討していた:100%
    • irAEの重症度とoutcomeまで記載されていた:64.2%
    • ICIsと有害事象を、発症のタイミング・併用薬剤・被疑薬の中止・再投与・被疑薬のそれまでの既報と照らし合わせて適切に評価されていた:95.9%
  • 前向きケースシリーズやコホートからの報告はなし


characteristics(table1)
  • メラノーマ:83.7%
  • 背景の自己免疫疾患は多様
    • 治療歴あり:83.5%
    • 活動性あり(なんらかの症状が持続している):46.2%
    • ICIs開始時点でも治療中(ステロイド、DMARDs、他の免疫抑制剤):43.6%
    • 自己免疫疾患と診断された時期〜ICIs開始までの期間:1.5ヶ月〜60年
  • ICIsの内訳
    • PD-1阻害薬:52%
    • irAE後もICIsを継続(同じ薬剤を継続 or 他のICIsに変更):15症例





  • 92症例(75%)でirAEsが発生
    • 既存の自己免疫疾患による症状が増悪:50症例(41%)
    • de novo irAEs:31症例(25%)
      • 大腸炎(17症例、14%)、下垂体炎(6症例、5%)が最多
      • IgA腎症、IgM腎症、1型糖尿病に対して腎移植を行なっていた患者が、PD-1阻害薬投与後(中央値 8日後, IQR 7 - 21日後)に拒絶反応を呈した例も報告されていた
    • 既存の増悪 + de novo:11症例(9%)
    • 有害事象なし:31症例(25%)






  • ICIs投与時における、自己免疫疾患の活動性はirAE発症と関連がなかった
  • ICIs投与時に、自己免疫疾患に対してなんらかの治療を受けていた場合の方が、irAEが少なかった(59% vs 83%)
    • 免疫抑制剤に限ると、治療を受けていた場合は67%, 受けていない場合には74%だった
  • PD-1/PD-L1阻害薬のほうが、flareが多かった
    • 62% vs 36%
  • CTLA-4阻害薬のほうが、de novo irAEsが多かった
    • 42% vs 26%
  • ステロイド高用量を必要とした症例:62%
    • 他のDMARDs、免疫抑制剤を含めた治療によってirAEが改善した症例:90%
  • irAEsを認めた症例のうち、ICIsが悪性腫瘍に対してPRもしくはCRを示した:50%
    • irAEを認めなかった症例では、35.7%
  • 有害事象によりICIsを中断した:21/123症例(17.1%)
    • 死亡:4.1%
  • 有害事象の後にICIsを再投与:10症例
    • そのうち2症例は再度有害事象を認めた
    • 他の異なるICIsにスイッチした5例では、全て有害事象を認めた 



疾患別
  • 乾癬(n=28)
    • 25症例(89%)で有害事象あり
      • 皮膚症状の再燃 or 増悪:18症例(64%)
      • de novo irAEs:3症例(11%)
        • 大腸炎
        • 下垂体炎
        • lichenoid drug reaction
      • 再燃 or 増悪 + de novo irAEs:4症例(14%)

    • 多くは経口もしくは局所のステロイドで改善した
      • アプレミラスト:1例
    • ICIs中止:6症例(27%)
    • 死亡:2症例
      • 大腸炎による死亡:1例
      • 原因不明:1例
  • RA(n=20)
    • 15症例(75%)で有害事象あり
      • 関節炎の再燃 or 増悪:7症例(35%)
      • de novo irAEs:5症例(25%)
        • 大腸炎
        • 甲状腺炎
        • 重症筋無力症
      • 再燃 or 増悪 + de novo irAEs:3症例(15%)
    • 13症例(87%)はステロイドで治療し、de novo 大腸炎の2症例に対してIFXを追加した
    • ICIs中止:7症例(70%)
  • 炎症性腸疾患(n=13)
    • 8症例(62%)で有害事象あり
      • 再燃 or 増悪:5症例(39%)
        • そのうち1例は、潰瘍性大腸炎において致死的な消化管穿孔を起こした
      • de novo irAEs:2症例(15%)
        • クローン病でde novo 大腸炎
      • 再燃 or 増悪 + de novo irAEs:1症例
        • ipilimimabにて、潰瘍性大腸炎の再燃 + 中毒性表皮壊死症(TEN)を起こし死亡
    • ICIs開始時に活動性があった5症例のうち、3症例は有害事象なし
      • TCZとvedolizumab(ヒト化α4β7インテグリンモノクローナル抗体)をそれぞれICIsと併用した2症例は、いずれも最終的には大腸炎を発症した
    • 多くの症例は、ステロイドパルス、IFX, ADAを必要とした
    • PD-1阻害薬を再投与した2症例のうち1症例は、ADAを併用して再投与したところ問題なかった
  • 多発性硬化症(n=6)
    • 2症例(33%)で有害事象あり
      • いずれも再燃(ipilimumab投与してから1ヶ月後と6ヶ月後)
      • 1症例はステロイドパルスとグラチラマー、もう1症例はテロイドパルスとIFNβで改善
    • 残りの4症例は、そのうち2症例は活動性があり1症例はIFNβを投与されていたものの、問題なかった
  • 重症筋無力症(n=4)
    • 全ての症例で有害事象あり
      • 再燃:3症例
      • サルコイド様の胸膜肉芽種性反応:1症例
    • ステロイドパルス、免疫グロブリン、血漿交換、抗コリンエステラーゼ阻害薬、RTXで改善
  • サルコイドーシス(n=5)
    • 全ての症例で有害事象あり
      • 再燃:3症例
        • 高Ca血症、腎不全、筋病変
      • de novo irAEs
        • 緑内障、肺炎
    • 全ての有害事象がステロイドで改善


まとめ
  • 123症例を解析し、再燃、de novo irAEs を合わせて75%で有害事象を認めた
    • 再燃症例のうち半数は、ICIs投与前の症状と同じだった
  • de novo irAEsのうち1/3以上は、大腸炎と下垂体炎だった
    • これは臨床試験の結果と同様だった
    • 自己免疫疾患の既往がある場合とない場合でde novo irAEs発生率は同様だったが、自己免疫疾患がある場合の方が重症化する傾向にあった
  • 既存の自己免疫疾患の活動性は有害事象の頻度と関係しなかった
    • 免疫抑制治療をICIs治療開始時点で投与されていると有害事象が少ない傾向だったが、実際に維持治療が保護的に作用するかどうかは今回のデータでは結論が出せない
  • ipilimumabはde novo irAEsと関連があり、PD-1阻害薬はflareと関連があった
  • 多くの有害事象はステロイドで対処できた
    • 16%は他の免疫抑制剤併用が必要だった
    • 半数以上はICIsを中断しなくても改善した
  • 死亡したのは2.4%
  • irAEsが発生する正確な機序はわかっていない
    • 遺伝因子が関与している可能性
      • しかし、あるICIsでirAEを発症した一部の患者では他のICIsで問題なく、多くの患者では継続してもirAEsが再び起きることはなかった
    • CTLA-4とPD-1に関連した遺伝子の多型がいくつかの自己免疫疾患発症(RA, SpA, SLE, 1型糖尿病)に関与していることが知られている
      • しかしながら、これら多型を有する結果、どういった機能の変化が生じるかはわかっていない
      • そして、これらがirAE発症と関連しているかもわかっていない
  • Cappelliらは、悪性腫瘍に対してICIsを使用して、リウマチ膠原病疾患に類似した症状を呈した患者のレビューを報告した
    • その際のレビューでは、自己免疫疾患の活動性やICIs使用時点における免疫抑制治療の有無については調べていなかった
  • limiatation
    • 診断、疾患活動性の正確性については担保されていない
    • retrospectiveに検討しているので、正確な発症率はわからない
      • 今後、prospectiveに、自己免疫疾患を有する患者においてICIsを使用した場合のデータを蓄積していく必要がある
    • 元論文の多くが症例報告であるため、非典型的で重症な症例に偏っている可能性がある

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