Rodrigues-Diez R, González-Guerrero C,
Ocaña-Salceda C, et al.
Calcineurin inhibitors cyclosporine A and tacrolimus
induce vascular inflammation and endothelial activation through TLR4 signaling.
Sci Rep. 2016;6:27915.
はじめに
- カルシニューリン阻害薬を使用している固形臓器移植患者において、血管内皮細胞ダメージと血管内皮細胞機能障害は高血圧になることが知られている
- カルシニューリン阻害薬による血管内皮細胞ダメージと血管内皮細胞機能障害の病態は、アポトーシス、酸化ストレス、血管内皮細胞からのNO産生を阻害することが考えられている
- vascular smooth muscle cells (VSMCs) の関与も考えらえている
- また、血管内皮細胞のTGFβ1受容体の発現増加が腎動脈のhyalinosisをもたらし、腎機能障害や糸球体硬化に関わる
- カルシニューリン阻害薬はT細胞のnuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells (NF-κB) 活性化を阻害するが、腎臓の尿細管では反対にNF-κBを活性化させる
- しかしながら、このようにNF-κBを活性化させる現象がカルシニューリン阻害薬に曝露された①血管でも起きるかはわかっていない
- Toll-like receptors (TLRs) は自然免疫において重要であり、血管内皮細胞やVSMCs、免疫細胞を含む多様な細胞に発現している
- TLRsシグナルには、細胞質に存在するadaptor分子であるMyeloid di erentiation factor 88 (MyD88) や、Toll/IL-1 receptor (TIR) domain-containing adaptor protein inducing interferon-β (IFNβ) (TRIF) がそれぞれ関与している
- そして、MyD88とTRIFの主な下流の標的は、NF-κB経路、MAPKカスケード、IFN経路である
- TLRsシグナル最終では多くの炎症性サイトカイン・可溶性炎症性メディエーターが合成される
- VSMCsに発現しているTLRsは、血管の炎症、そして血管の機能障害にも関わっている
- 今回の研究では、まだ②TLRsがカルシニューリン阻害薬による血管障害に関わっているかわかっていないので、これらの関連を調べた
結果
- マウスモデルにおける、カルシニューリン阻害薬誘導性の炎症性メディエーターと血管内皮細胞活性化マーカーについて
- A:カルシニューリン阻害薬によって、用量依存性に血管内皮細胞のCCL2, CCL5 mRNA発現が増加
- B:血管内皮細胞のTNF-α, IL-6, ICAM-1, VCAM-1 mRNA発現も増加
- C, D:カルシニューリン阻害薬によって刺激された細胞の上清をELISAで調べると、CCL2(C), ICAM-1(D)蛋白が増加
※CCL2
= monocyte chemotactic protein-1/chemokine (C-C motif) ligand 2 (MCP1/CCL2)
※CCL5
= regulated on activation normal T cell expressed and secreted/chemokine (C-C motif ) ligand 5 (RANTES/CCL5)- NF-κB活性化は心血管系における炎症反応に関与している
- NF-κB/p65 subunitが核内へ移行することがNF-κB活性化における重要なイベントである
- ①カルシニューリン阻害薬による血管内皮細胞の炎症反応に、NF-κBが関与していることが以下の図に示してある
- A:共焦点顕微鏡の免疫蛍光抗体法の画像。カルシニューリン阻害薬によって刺激された細胞において、NF-κB/p65 (green)が核へ移行をしていることを示している。(control群よりもカルシニューリン阻害薬群のほうがMergeにおいてDAPIとp65が重なっている)(※DAPI:二本鎖DNAに結合し青~水色に染まる。)
- B:NF-κB阻害薬であるparthenolideを刺激する1時間前に入れると、カルシニューリン阻害薬によって増加していたCCL2, CCL5, ICAM-1, VCAM-1 mRNA 発現が6時間時点で消失していた
- 今回の仮説は、血管内皮細胞の活性化と炎症がTLR活性化によって引き起こされる、ということである
- MyD88を欠失している場合、TLR由来シグナルによるNF-κB活性化が不可能であるので、血管内皮細胞のMyD88発現を抑制することで、カルシニューリン阻害薬による血管炎におけるTLRの役割を調べた
- MyD88ノックダウンは、MyD88-siRNAによって行った(以下に示す)
- ②TLRがNF-κB活性化の初期段階として関与し、TLRがカルシニューリン阻害薬誘発性の血管内皮細胞炎症性遺伝子の合成を促進したことを、MyD88ノックダウンマウスを利用して示したことが以下の図
- A:ウェスタンブロット法で示したMyD88発現の有無によって、si-RNAによるtransfectionの有効性を評価している。scramble siRNA(sc-siRNA)(=ネガティブコントロール)、MyD88-siRNAをtransfectionさせると、CyA・TacともにMyD88-siRNA群ではMyD88をきちんとノックダウンできていることを示している。
- B, C:カルシニューリン阻害薬で刺激した細胞におけるCCL2, ICAM-1の分泌を、sc-siRNAをtransfectionさせた群(=ネガティブコントロール)、MyD88-siRNAをtransfectionさせた群で比較。MyD88をノックダウンしたMyD88-siRNA群では、TLR/MyD88アゴニストであるLPSで刺激して増加するはずのCCL2, ICAM-1合成がともに有意に減っていた。そして、カルシニューリン阻害薬によってもネガティブコントロール群ではCCL2, ICAM-1が増加していたが、MyD88-siRNA群では有意に合成が抑制されていた(ELISAで評価)。
- D:tacrolimusで刺激した細胞を、sc-siRNAをtransfectionさせた群(=ネガティブコントロール)、MyD88-siRNAをtransfectionさせた群にわけ、MyD88依存性NF-κB経路の活性化(phosphorylated IκBα (p-IκBα)とRelA/ p65 (p-p65)レベルで評価)の有無を比較した。MyD88をノックダウンしたMyD88-siRNA群では、 IκBαとp65のリン酸化が抑制されていた、すなわちMyD88依存性NF-κB経路の活性化が有意に抑制されている。
- 次に、TLRsのうち、どのTLRがカルシニューリン阻害薬による炎症に特異的であるのか調べた
- TLR4は遺伝性の血管疾患に関係していることが既報で報告されていたため、TLR4にフォーカスして調べた
- TLR4阻害薬(CLI095を使用。これはTLR4の細胞内ドメインを特異的に阻害する。)によって、血管内皮細胞におけるカルシニューリン阻害薬誘導性の炎症反応が抑制されていることを以下の図に示している。すなわち、カルシニューリン阻害薬がTLR4を活性化し、MyD88依存性炎症シグナルを引き起こしているということである。
- A:カルシニューリン阻害薬単独 or カルシニューリン阻害薬+TLR4阻害薬で細胞を培養。NF-κB活性化を、NF-κB/p65 (green)が核へ移行することで評価している。コントロール群は、細胞質にNF-κB/p65 (green)が存在しているが、カルシニューリン阻害薬で培養された細胞はNF-κB/p65 (green)が主に核内に存在している。一方で、TLR4阻害薬を加えた場合は、この核内への移行を抑制している。NF-κB活性化のポジティブコントロールであるTNF-α単独で培養された細胞は核内にNF-κB/p65 (green)が存在し、TLR4阻害薬はこれを抑制できておらず、TLR4阻害薬はTNF-αによるNF-κB/p65活性化を抑制しないことを示している。
- B, C:炎症性サイトカイン(CCL2, CCL5, TNF-α, IL-6)と血管内皮細胞活性化マーカー(ICAM-1, VCAM1, SELE)の転写因子レベルは、カルシニューリン阻害薬単独では増加しているが、TLR4阻害薬を加えることで有意に抑制されている
- 上記ではMyD依存性経路をカルシニューリン阻害薬が活性化していることを示したが、次に、カルシニューリン阻害薬はMyD88非依存性経路も同様に活性化するのか調べた
- TLR4/TRIF依存性シグナル経路が活性化すると、転写因子であるIRF3のリン酸化を起こすため、IRF3のリン酸化(p-IRF3)の有無によってMyD88非依存性経路(=TLR4/TRIF依存性シグナル経路)について調べた
- カルシニューリン阻害薬と血管内皮細胞のTLR4/TRIF依存性シグナル経路について
- A:カルシニューリン阻害薬によって、p-IRF3が増加し、血管内皮細胞のTLR4/TRIF依存性シグナル経路を活性化していることがわかる
- B:さらに、カルシニューリン阻害薬によって、IRF3の標的遺伝子であるINFβ1のみではなく、INFβ1制御蛋白であるIRF1とIRF7のmRNAも増加している。これは、カルシニューリン阻害薬が、TLR4/TRIF依存性シグナル経路の上流でIRF3をリクルートしてMyD88非依存性経路を活性化しているという仮説を支持する。
- C:最後に、TRIF依存性経路がMyD88依存性経路に影響するかを調べるために、カルシニューリン阻害薬で刺激する前に、resveratrol (TRIF阻害薬)を加えることで、TLR4/TRIF複合体にあるTBK1とRIP1キナーゼを阻害して、IRF3活性化を阻害した。その結果、resveratrol は、カルシニューリン阻害薬によるCCL2 mRNA発現増加を抑制し、TRIF依存性TLR4経路もまたカルシニューリン阻害薬によるTLR4を介した血管内皮細胞の炎症に関与していることが示された
- the α isoform of the catalytic subunit 遺伝子を欠失させることで、カルシニューリン・シクロフィリンの複合体とregulatory calcineurin B subunitの相互作用を阻害→カルシニューリン活性化と安定化を阻害した実験によって、カルシニューリンはがカルシニューリン阻害薬による血管内皮細胞の炎症において関与していることが既報で報告されている
- カルシニューリン自体の、TLR4由来の炎症性シグナルへの関与は、限定的であることを、CaN-siRNAを利用してカルシニューリンをノックアウトすることで、以下の図のように示している
- A:細胞をsc-siRNA(=ネガティブコントロール)群、CaN-siRNA群にわけ、カルシニューリン阻害薬で刺激すると、CaN-siRNA群ではCaN発現が抑制される
- B:CaN-siRNA群では、カルシニューリン阻害薬による炎症反応(CCL2, ICAM1)増加が、わずかに抑制されているが、完全な抑制とは言えない
- C:CaN-siRNA群では、p-IκBα、NF-κB/p65 (p-p65)での評価では、カルシニューリン阻害薬によるNF-κBシグナル活性化が抑制されない。むしろ、p-p65では増強された。
- D:しかしながら、p-IRF3の評価では、CaN-siRNA群で、カルシニューリン阻害薬によるTRIF依存性経路活性化が完全に抑制されている
- これまでは血管内皮細胞について述べてきた
- カルシニューリン阻害薬は、内皮細胞の機能不全や細胞外マトリックス沈着の増加や高血圧をきたすことで、血管のhomeostasisを変化させている
- 内皮細胞の炎症自体は、これら血管壁の病的な変化にあまり関わっていないと思われるが、カルシニューリン阻害薬による炎症が血管壁などの組織へどのように影響しているかはまだ知られていなかった
- ex vivoで大動脈を培養し、カルシニューリン阻害薬による大動脈の炎症を、wild typeとTLR4ノックアウトマウスで比較。TLR4阻害薬(CLI-095)を使用して、カルシニューリン阻害薬が血管組織への炎症にTLR4活性化が重要か調べた。血管内皮細胞はCD31(green、A)、VSMC細胞はαSMA(green、B)で染色。
- A. B:wild typeマウスにおける大動脈の組織を、コントロール or CyA or CyA+TLR4阻害薬でわけ、共焦点顕微鏡による免疫蛍光抗体法によってNF-κB/p65の位置を評価。血管内皮細胞は内膜に位置しており、血管内腔に面している。一方で、VSMCは中膜に位置している。核はDAPIによって青く染色されている。この図より、TLR4阻害薬(CLI-095)によってNF-κB活性化が阻害されており、カルシニューリン阻害薬によって血管壁組織における炎症性遺伝子発現が増加したことがわかる。黄色の✴︎はp65が核内に移行しているのを示しており、白い✴︎はp65が細胞質に存在していることを示している。白い矢印は、p65が増加していない内皮細胞とVSMCを示している。Aの白い矢頭はエラスチン繊維を示しており、BではαSMAが多く染まっているため見えていない。tacrolimusでも同様の結果だった(data提示なし)
- C. D:wild typeマウスに、カルシニューリン阻害薬単独 or カルシニューリン阻害薬単独+TLR4阻害薬を投与し、大動脈における炎症性サイトカインであるCCL2, CCL5, IL-6, TNF-α(左。BとなっているがおそらくCの間違いで、以下全てfigureの記号がずれていると思われます)、血管内皮細胞活性化マーカーであるICAM-1, 血管機能異常のマーカーであるET-1(右)の遺伝子発現量を調べた。wild typeでは、カルシニューリン阻害薬単独ではいずれも増加するが、TLR4阻害薬を加えると、ET-1 含め発現量が低下する。
- E:上記結果を補強するために、TLR4ノックアウトマウスでも、C, Dと同様にCCL2, IL-6, ICAM-1、ET-1について調べた。wild typeと異なり、カルシニューリン阻害薬単独でも発現量は増加しない。これによって、TLR4が、カルシニューリン阻害薬による血管壁組織での病的な変化にも重要であることがわかる。しかし、TNF-αを加えた場合にはTLR4ノックアウトマウスでも増加し、TNF-αはTLR4非依存性にこれらの遺伝子発現を増加させていることがわかる。
- F:VSMCにおけるCCL2, IL-6, TNF-αのmRNA発現量を、カルシニューリン阻害薬単独 or カルシニューリン阻害薬単独+TLR4阻害薬を投与して比較した。カルシニューリン阻害薬単独ではいずれも増加するが、TLR4阻害薬を加えると発現量が低下する。
- 次に、酸化ストレスは、血管の炎症において重要なメディエーターであるため、カルシニューリン阻害薬がreactive oxygen species (ROS) 産生を増加させるのか調べた
- カルシニューリン阻害薬によるTLR4経路活性化が、血管壁中膜と内皮細胞において、炎症性メディエーターとしてO2−/ROSを増加させていることを、下の図に示している
- A:CyAによって、大動脈のO2−/ROS産生(DHE染色で赤色)が増加していることを共焦点顕微鏡で観察したもの。エラスチン(緑)は大動脈の構造を示しており、赤色で染まっているO2−/ROS産生が主にVSMCs(中膜)と内皮細胞(内膜)で増加していることがわかる。白い矢頭はDHE染色陽性のVSMCを示しており、アスタリスクはDHE染色陽性の内皮細胞を示している。TLR4阻害薬(CLI-095)によってO2−/ROS産生が抑制されていることがわかる。tacrolimusでも同様の結果だった(data提示なし)
- B:マウスモデルの内皮細胞(MS1細胞)にカルシニューリン阻害薬を投与して、DHE染色でO2−/ROS産生を共焦点顕微鏡で評価したもの。これも、TLR4阻害薬(CLI-095)によってO2−/ROS産生が抑制されていることがわかる。
- C:カルシニューリン阻害薬を投与したMS1細胞をPCRにかけて、炎症性サイトカイン or 接着分子であるCCL2, CCL5, VCAM-1, ICAM-1を評価したもの。NADPH inhibitorであるApocininとDPIを加えた場合は、カルシニューリン阻害薬による炎症性サイトカイン or 接着分子の発現量増加が抑制されている。 すなわち、これらの結果から、酸化ストレスとO2−/ROS産生がカルシニューリン阻害薬による血管の炎症に関与しており、TLR4活性化の下流にO2−/ROS産生があることを示している。
考察
- カルシニューリン阻害薬は、尿細管だけでなく血管にも炎症を引き起こし、カルシニューリン阻害薬によって炎症を起こされる細胞のスペクトラムは広い
- 既報では、CyAが、TNF-α/LPSによる内皮細胞の炎症を起こし、単球の小腸内皮細胞への接着を起こす。しかしながら、逆説的であるが、炎症によるiNOS活性化と接着分子の発現を減らした
- 今回、カルシニューリン阻害薬そのものが、TLR4依存性に、内皮細胞の活性化マーカーの発現と炎症性メディエーターを増加させたことは、カルシニューリン阻害薬誘発性血管障害のより深い理解と、これまでの既報の結果を説明するフレームワークを提供した
- NF-κBは、血管を含む細胞の炎症性反応において、主要なメディエーターであるため、炎症性疾患の治療のターゲットとしては魅力的である
- in vitroとマウスモデルを利用して、腎尿細管においても、カルシニューリン阻害薬がNF-κBを活性化させ、カルシニューリン阻害薬の腎毒性に関わっていることは既報で報告されている
- 今回の研究で示したように、NF-κBは、カルシニューリン阻害薬誘発性の炎症性サイトカイン合成亢進と内皮細胞の接着分子合成亢進に関与している
- また、カルシニューリン阻害薬が、VSMCを含む血管壁全体でNF-κBを活性化させていることも今回の研究でわかった
- MyD88は、TLR2とTLR4との複合体を形成する蛋白である
- しかしながら、今回の研究では、データには示さなかったが、TLRアゴニストであるlipoteichoic acidには血管内皮細胞は反応しなかった
- このことからも、カルシニューリン阻害薬による血管障害においては、TLR4が重要であることがわかる
- ET-1は、強力な血管収縮ペプチドであり、高血圧を引き起こす。
- そして、今回の実験から、TLR4はカルシニューリン阻害薬誘発性ET-1遺伝子発現にも必要であることがわかった。
- すなわち、TLR4が、カルシニューリン阻害薬による内皮細胞の炎症・活性化・機能異常に関与しており、これらを制御するゲートキーパーとして主要な役割を果たしている、ということである。
- そして、カルシニューリン阻害薬に曝露された大動脈内皮細胞と血管壁において、酸化ストレスが、TLR4の下流 & NF-κB活性化の上流として、キーイベントであることも明らかになった
- 酸化ストレスは、カルシニューリン阻害薬による炎症性メディエーター合成に関わっており、内皮細胞のストレスのマーカーでもあった
- アンギオテンシンⅡによって、VSMCsにおける、TLR4依存性のROS産生、NF-κB活性化、炎症が引き起こされることが既報で報告されている
- そして、CyAが、血管と腎組織において、酸化ストレスと細胞障害を起こすinducerであることも知られている
- そして、ROSは、JAK2/STAT3経路を活性化させて、CyAによる内皮細胞死を引き起こすことも報告されている
- さらに、JNKも酸化ストレスによって活性化されることも知られている
- 内皮のMS1細胞では、カルシニューリン阻害薬によってJAK2とJNKの両者が活性化され、逆にJAK2とJNKを阻害するとカルシニューリン阻害薬による炎症反応が抑制される
- これらの下流の転写因子であるSTAT3やAP-1は、NF-κBと相互作用することで炎症反応を引き起こす
- すなわち、今回の研究結果は、酸化還元反応の不均衡とROS産生が、TLR4依存性シグナルとNF-κB依存性炎症反応において重要な役割を果たしていることを強く示唆している
- CyAとtacrolimusの血管と腎毒性が実験モデルでもヒトでも同様であることから、カルシニューリンとカルシニューリン阻害薬の相互作用が、カルシニューリン阻害薬による有害事象に関与していることを示唆している
- 内皮細胞では、カルシニューリン阻害薬とカルシニューリンの相互作用には、eNOS活動性低下とNO低下が必要である
- しかしながら、カルシニューリンは、TGFβ受容体発現増加と血管のヒアリン化や、LPSによる白血球の内皮細胞への接着には重要ではない。これはラパマイシンでも同様である。
- T細胞とは異なり、マクロファージにおいては、MyD88とTRIFを介したTLRシグナルを阻害することで、カルシニューリンはNF-κBとIRFの活性化を阻害する。また、遺伝的な方法もしくはカルシニューリン阻害薬によってカルシニューリンを阻害すると、炎症性サイトカインが増加することが報告されている。
- しかしながら、今回の研究では、マクロファージの既報と異なり、カルシニューリン欠損では炎症性サイトカインは増加しなかった。むしろ、部分的ではあるが炎症性サイトカイン合成を阻害した。これは、カルシニューリン阻害薬がカルシニューリンと結合することで、炎症を増強するが、絶対的に必要ではないことを示唆している。
- ただし、今回の研究で、カルシニューリン欠損によって、TRIFシグナルは完全に抑制された。
- TRIF経路は、TRL4/MyD88に続くNF-κB依存性の反応を維持することが報告されている。
- これらの結果から、カルシニューリンはTLR4長期活性化を抑制するnhibitory feedbackとして機能しているが、カルシニューリン欠失によってこのinhibitory feedbackがなくなってしまうことが、カルシニューリン阻害薬の毒性のメカニズムかもしれないことを示唆している。
- カルシニューリンは、カルシニューリン阻害薬による内皮細胞の炎症に部分的に関わっており、カルシニューリン阻害薬を細胞内で安定化させることで毒性を増強している可能性もある
まとめ
- カルシニューリン阻害薬による内皮細胞の炎症、活性化、機能異常に、TLR4が関与していた
- これらの効果は、TLR4/MyD88/NF-κB経路とTLR4/TRIF/NF-κB経路に加えて、TLR4活性化の下流&NF-κB活性化の上流で酸化ストレスが関与していた
- カルシニューリンは、カルシニューリン阻害薬によるTLR4シグナルを増強させ、それに続くNF-κB依存性サイトカインと接着分子の合成をいくらか増強させていたが、最終的な炎症効果はカルシニューリン欠損細胞でもみられた
- 一方で、TLR4はカルシニューリン阻害薬による血管への炎症には必要不可欠であることが明らかとなった
- TLR4不活化と心血管系疾患治療の関連は、動物モデルでは明らかである
- 実際に、TLR4阻害は、炎症・高血圧・動脈硬化を含むカルシニューリン阻害薬関連血管障害への有望な治療ターゲットである
- カルシニューリン阻害薬は、移植に伴う拒絶反応の治療には必要であるが、血管障害を含むカルシニューリン阻害薬による有害事象の予防はまだ完全ではなく、TLR4阻害が重要になってくるかもしれない
※カルシニューリン阻害薬誘発性高血圧の記事で使用した図より
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