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2017年11月1日水曜日

SSc-ILDに対する抗線維化薬(pirfenidone、nintedanib)のエビデンス


Anti-fibrotic nintedaniba new opportunity for systemic sclerosis patients?
Ana Catarina Duarte1 & Maria José Santos1 & Ana Cordeiro

Clin Rheumatol 1 October 2017 


本文中の図やグラフは元論文より引用しております。

<背景>

  • 全身性強皮症(SSc)は血管障害、炎症、線維化が特徴的な疾患である
  • 肺病変が主要な予後因子であるが、治療法は限られている
  • 線維化のメディエーターであるtransforming growth factor beta (TGFβ), vascular endothelial growth factor (VEGF), platelet-derived growth factor (PDGF) などがSScでは増加していることが知られている
  • Nintedanib
    • VEGF, PDGF, TGFβから産生される線維芽細胞の増殖・移動を阻害し細胞外マトリックス合成を抑制するチロシンキナーゼ阻害薬
    • IPFでは承認されており、SSc-ILDにおいても有望な治療選択肢と考えられている
  • 今回は、免疫抑制剤に治療抵抗性のSSc-ILDに対してNintedanibを使用した症例を報告する


<Case Report>
  • 症例は、65歳女性
    • 41歳の時にlcSScと診断
      • トポイソメラーゼ抗体陽性
    • 48歳の時に蜂巣肺を形成するILDを発症
      • 当初は他の病院でCYC 6ヶ月間、維持治療としてAZA 2mg/kgで治療されていた
    • 上記によって5年間は安定していたが、徐々に労作時呼吸困難が増悪し筆者らの施設へ紹介された
      • HRCT:明らかなILD進行なし
      • 呼吸機能検査:FVC 61%, DLco 35%
      • UCG:estimated PASP 45mmHg
      • 肺シンチグラフィ:両側に肺血栓塞栓症あり
        • ワーファリン使用開始し、症状は軽快
    • さらに1年後、呼吸困難が増悪
      • HRCT:肺底部の蜂巣肺と上葉のすりガラス影が拡大しており、ILD進行あり
      • 呼吸機能検査:FVC 58%, DLco 19.5%
      • UCG:estimated PASP 48mmHg
        • CAGにて肺高血圧なし
      • 肺シンチグラフィ:新規の肺血栓塞栓症なし
        • AZAを中止し、MMF 2g/dayへ変更し症状は軽快
    • しかし4ヶ月後、呼吸困難と倦怠感は残存
      • 6分間歩行試験:酸素化低下あり
      • PASP:129mmHg
      • 呼吸機能検査:FVC 40.5%, DLco 15%
      • HRCT:すりガラス影はなく、蜂巣肺が有意
        • 免疫抑制剤使用している状況でも進行したILDと考えられ、Nintedanib 150mg 1日2回を開始し、肺移植施設へ紹介
          • その後、最初の3ヶ月間は下痢と嘔気に加え重度のhypoglycemia(30mg/dL)があり、Nintedanib 100mg 1日2回へ減量
    • 現在はNintedanibを使用開始して1年間経過したが、臨床的には安定しており、わずかに倦怠感は改善
      • 呼吸機能検査もFVCがわずかに改善:FVC 52.1%(DLcoは変化なし)
      • 酸素需要も低下している
        • 肺移植は本人が望まなかった


<考察>
  • SSc-ILDでは、肺胞上皮と血管内皮細胞の障害が特徴的である
    • 障害された肺胞上皮が炎症性サイトカインとTGF-βやPDGFなどの線維化メディエーターを産生し、線維芽細胞の増加と筋線維芽細胞への分化を促進し、細胞外マトリックスが産生される
    • また、TGF-β自体が炎症性サイトカインを産生し、免疫細胞を誘導して線維化を促進することで、炎症と線維化が持続することになる
    • VEGFは損傷された肺胞上皮から産生され、TGF-βやPDGFほどではないが、肺の線維芽細胞の増殖を促進する
      • VEGFは、血管のリモデリングにも主要な役割を担っており、線維化のプロセスを持続させる病的な血管新生が生じ、異常な微小血管構造が誘導される
  • 血管障害、自己免疫、炎症はSSc-ILDの早期段階で生じ、線維化より先行する
    • そのため、早期の段階では免疫抑制剤が第一選択となる
      • Scleroderma Lung Study I では、CYCによる12ヶ月間の治療で、placeboと比較してFVCの増加を示し、TLC、皮膚硬化、HRCTでの線維化病変も改善を示した。
        • しかしながら、CYCは有害事象も高率であり、治療中断1年後にはCYC群とplacebo群でFVCとTLCは有意差が消失した
      • Hoylesらの報告では、6ヶ月間のIVCY+少量PSLに加えて維持治療でAZAを加えた群とplacebo群に割付たRCTでは、FVCは有意にCYC群の方が改善したものの、有害事象は同等だったため、IVCYは安全性の面でも忍容性が高いと考えられる
      • 2016年のScleroderma Lung Study Ⅱでは、MMF 2年間群とCYC1年間+placebo1年間群(計2年間)を比較したところ、24ヶ月時点で、両群ともFVCはbaselineより改善しており、MMFの方が有害事象は少なかった
      • さらに、SSc-ILDにおいて、B細胞の異常もあることがわかってきた
        • B細胞が活性化することで、膠原線維やグリコサミノグリカンの合成を促進する作用を有するIL-6を含む炎症性サイトカインや自己抗体を産生する
          • そのため、RTXがSSc-ILDに対する有望な治療選択肢と考えらえており、いくつかの報告では大きな有害事象なくDLcoやFVCの改善を示している
      • 一方で、IL-6がSScの線維化に重要な役割を果たしていることから、TCZも有望と考えられており、phase2前向きランダム化比較試験ではplaceboと比較してFVC低下が緩徐であったことが示され、現在はphase3が進行中である
  • しかしながら、これら免疫抑制剤を使用しても、ILDが進行し致死的となる症例もあり、線維化に対する新規薬剤が望まれる
  • 線維化の過程に関わるまだ知られていない分子を特定し、どういう特徴があるのか、研究が進んでいる
  • 最近では、IPFに対して、pirfenidoneとnintedanib が承認された
    • SSc-ILDもIPFと共通する部分が多いため、SSc-ILDの新規治療としても注目されている
    • pirfenidone
      • pyridineの化合物
      • TGFβとPDGFの発現を阻害して抗線維化作用を示す
      • さらに、TNFαやIL-6を阻害してIL-10産生を促進することで、抗炎症作用もあることがわかっている
      • phase3では、pirfenidoneで治療されたIPF患者では、placeboと比較してVC低下が緩徐であり、無増悪寛解期間が長かった
      • 他のopen-label試験では、10例の肺線維症(そのうち2例はdcSSc)に対してpirfenidoneで治療し、X線での悪化やPaO2の悪化をきたした症例はなく、DLcoとFVCも1年間で不変だった
      • 最近では、SSc-ILDにもpirfenidoneを使用して有効だったという症例報告が複数ある
      • SSc-ILDに対するpirfenidoneの安全性に関しては、LOTUSS trialで報告されており、頻度の高い有害事象は嘔気、頭痛、倦怠感であるが、いずれも軽症〜中等症であった
        • より早く(2週間)タイトレーションする群において有害事象による治療中断率が高かった
※LOTUSS trial
An Open-label, Phase II Study of the Safety and Tolerability of Pirfenidone in Patients with Scleroderma-associated Interstitial Lung Disease: the LOTUSS Trial
Dinesh KhannaCarlo AlberaAryeh FischerNader KhalidiGanesh RaghuLorinda ChungDan ChenElena SchiopuMargit TagliaferriJames R. SeiboldEduard Gorina
  • SSc-ILD患者(63症例)を、全例にpirfenidone投与し、タイトレーションの期間を2週間と4週間で1:1に割付て安全性と有効性を確認した試験


  • 96.8%の割合で治療関連有害事象が生じたが、治療中断したのは2週間群と4週間群でそれぞれ5人、1人
    • 治療中断したのは、いずれも維持量に到達してから3週間以降

  • MMFは63.5%の症例で併用していたが、使用の有無で治療関連有害事象には影響なかった





  • タイトレーションの期間によってFVCやDLcoの変化には有意差なし




    • nintedanib 
      • TGF-β、PDGF、VEGFの受容体とSrkファミリーキナーゼを標的にしたチロシンキナーゼ阻害薬
      • IPFに対する有効性に関しては、3つのRCTで示されている
        • 2011年のa phase II trial (TOMORROW) では、nintedanib 150mg 1日2回投与によってFVC低下を1年間以上抑制し、急性増悪の頻度も減らした
        • この結果を受けて、150mg 1日2回の用量で2つのphase III trials (IMPULSIS 1 and 2) が組まれ、両試験とも52週間の治療でFVC低下を抑制し、急性増悪とQOL低下も抑制した。死亡率も低い傾向だったが、有意差は出なかった
        • TOMORROW、IMPULSIS 1 and 2の試験を合わせて解析しても、nintedanibはFVC低下と急性増悪を有意に抑制し、死亡率に関しては低い傾向にあるものの有意ではなかった
      • 最も多い有害事象は下痢で、60%に発生するが、症状は中等症以下であることが多くそれによって中断することはほぼない
      • 他の嘔気や食欲低下、肝障害などの有害事象も報告されている
        • その場合には、100mg 1日2回へ減量することで有害事象が軽減される
      • SSc-ILDに対しては、Huangら(Huang J, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1941–1948.)が、nintedanibによって肺血管の平滑筋増殖を抑制、肺動脈の壁肥厚による内腔閉塞を抑制、微小血管内皮細胞のアポトーシスを抑制したことを報告した
        • これは、血清VEGFを正常化させたことを示唆する
        • さらに、fos-related antigen-2(Fra2) mouse modelにて、筋線維芽細胞への分化と、肺・皮膚・心筋の線維化を抑制することが示された
        • すなわち、肺や皮膚、心臓の線維化だけでなく、肺高血圧にも有効であることが期待される
        • これらの有効性は、nintedanibによってM2マクロファージの数を減らしたことと関連していた
        • これらを受けて、現在、SSc-ILDに対するnintedanibのphase3試験がすでに進行している

※上記、Huangらによって報告された、SScモデルマウスであるFra2マウスを使用して、nintedanibがマクロファージ活性化と血管・線維化に作用することを示した論文
Huang J, et alAnn Rheum Dis 2017;76:1941–1948.
      • Fra2トランスジェニックマウスにおいて、nintedanibによって皮膚・肺の線維化が抑制された図
        • A-C:皮膚について
          • A:皮膚の壁肥厚
          • B:hydroxyproline 含有量
          • C:筋線維芽細胞
        • D-F:肺について
          • D:マッソン・トリクローム染色によって赤く染色された領域(細胞質)の面積
          • E:hydroxyproline 含有量
          • F:筋線維芽細胞


      • Fra2トランスジェニックマウスにおいて、肺血管リモデリングがnintedanibによって抑制された図
        • A:nintedanibによって肺血管壁肥厚が改善
        • B:閉塞血管の割合もnintedanibによって低下
        • C:肺血管の壁長もnintedanibによって低下
        • D:DAPI(核染色)、Ki67(増殖マーカー)、SM22α(血管平滑筋細胞)のイメージ
        • E:Ki67、SM22αの両者が陽性の細胞の数はnintedanibによって低下
          • 肺血管平滑筋の増殖がnintedanibによって低下
        • F:nintedanibは、PDGFによるヒトの肺血管平滑筋の増殖を抑制



      • Fra2トランスジェニックマウスにおいて、nintedanibによって微小血管が変化
        • A:皮膚におけるTUNEL(アポトーシスのマーカー)、CD31(内皮細胞)、DAPI(核染色)の発現細胞のイメージ(Merge=3つ合わせたもの)
        • B:TUNEL、CD31が両者とも陽性の細胞は、nintedanibによって有意に低下
          • nintedanibによって血管内皮細胞のアポトーシスが抑制
        • C:CD31陽性の細胞は増加
          • 血管内皮細胞がnintedanibによって増加



      • 炎症性サイトカインも抑制
        • A:Fra2トランスジェニックマウスの、炎症・線維化・血管新生に関わる主要なサイトカインの血清値
        • B、C:Fra2トランスジェニックマウスにおいて、M-CSF1とVEGFがnintedanibによって低下
        • D:Fra2トランスジェニックマウスにおいて、M2マクロファージがnintedanibによって減少
        • E:M1マクロファージは変わらず


      • A:M-CSF、IL-4、IL-13で培養したヒトのM2マクロファージが、nintedanibによって活性化が抑制されていることを示している(マクロファージ活性化はCD163とCD206の蛍光強度の変化で観察)
      • B:M1マーカー(CD86、TLR4、HLA-DR)の発現レベルはnintedanibによる有意差なし
      • C:Fra2トランスジェニックマウスのIL-4, IL-13, IL-12陽性マクロファージにおける、nintedanibによる変化





1 件のコメント:

  1. Nintedanib (BIBF 1120) is a potent triple angiokinase inhibitor for VEGFR1/2/3, FGFR1/2/3 and PDGFRα/β with IC50 of 34 nM/13 nM/13 nM, 69 nM/37 nM/108 nM and 59 nM/65 nM. It exhibit Nintedanib

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