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2017年11月15日水曜日

関節炎irAEに対してTCZで治療した3例のケースレポート


Successful treatment of arthritis induced by checkpoint inhibitors with tocilizumab: a case series
sang taek Kim,1 Jean tayar,1 Van Anh trinh,2 Maria suarez-Almazor,1 salvador Garcia,3 patrick Hwu,2 Daniel Hartman Johnson,4 Marc Uemura,4 Adi Diab

Ann Rheum Dis 2017;76:2061–2064.


背景

  • PD-1, CTLA-4を標的にした免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、悪性腫瘍の治療において革命を起こした
  • しかしながら、ICIは多臓器の炎症である免疫関連有害事象(irAE)を引き起こすことが知られており、関節炎も報告されている
    • 現在のガイドラインでは、軽症irAEではステロイド、重症irAEでは高用量ステロイド or TNFα阻害薬の使用を推奨している
    • しかしながら、ステロイドもTNFα阻害薬も有害事象を起こす可能性があり、TNFα阻害薬はICIの抗腫瘍効果を弱める可能性も示唆されている
  • IL-6
    • 炎症や免疫反応、造血などの多様な生物学的活性を有するサイトカインである
    • naive CD4陽性T細胞からTh17へ誘導する主要な因子である
    • Th17はIL-17を産生するヘルパーT細胞のサブセットであり、RA、IBD、irAE腸炎を含む多くの自己免疫疾患のキーメディエーターであり、自己免疫疾患やirAEへの治療にTh17産生を選択的に阻害することが注目されている
  • 今回は、TNFα阻害薬を長期に投与することによって抗腫瘍免疫反応を弱める懸念や、Th17の自己免疫疾患やirAEにおける上記のようなpathogenic roleを考慮し、ICIによって重度の関節炎を呈した転移性メラノーマの3症例に対して、TCZで治療したところ、関節炎が軽快したため、その経過を報告する

※現状のirAEマネジメントに関する推奨Cancer J 2016;22: 121129

  • 皮膚





  • 腸炎、肝炎






  • 肺炎




  • 内分泌関連






<以下、今回のケースレポート>

Case1
  • 71才、男性
  • 2014年8月 右耳下腺に転移性メラノーマ病変を発症し、リンパ節郭清を含め手術にて耳下腺切除術を受け、その後化学療法を施行された
  • 2015年4月 左骨盤に2つの再発性病変あり、ipilimumab(CTLA-4抗体)で治療開始し、寛解
  • しかしながら、その後、倦怠感と両肩関節、股関節痛を発症。診察では活動性活膜炎なし、RF陽性(27IU/mL)。
  • irAEとしてPSL 50mg/day開始し、1週間ごとに10mg漸減したが、中止した後に再燃。再度PSL40mgで開始するも、発作性心房細動を発症しPSL中止。
  • 2016年1月 両側手関節、MCP関節、PIP関節、DIP関節に圧痛あり。全MCP関節には活動性滑膜炎あり。TNFα阻害薬による抗腫瘍効果を懸念し、TCZ 162mg s.c. q2wで治療開始。
    • 2ヶ月後 症状は完全に消失
    • 5ヶ月後 両側MCP関節の圧痛が再燃したためTCZ増量(biweekly→weekly)
    • その後は関節痛再燃なし、PSLは5mg/dayで維持。腫瘍に関しても18ヶ月時点で寛解を維持。

Case2

  • 65才、男性
  • 2009年12月 左肘に転移性メラノーマ病変を発症し、手術で除去し、その後IFNα療法を施行された
  • 2012年3月 空調に再発性病変を認め、化学療法(dacarbazine, vinblastine, cisplatin, IL-2)と放射線治療を施行され、寛解
  • 2014年8月 胸壁、右大腿、左股関節に再発性病変を認め、ipilimumab(CTLA-4抗体)で治療開始した
  • その後PDとなったため、pembrolizumab(PD-1抗体)を開始したところ、2回目の投与の後に多関節炎(手、MCP, PIP, 膝)を発症。
    • ANA, RF, CCP抗体はいずれも陰性。
    • PSL40mgで治療開始し、症状は改善
  • 2015年9月 PSL 20mgの時点で関節炎再燃したため、TCZ q2wで開始
    • 8週間後 関節炎は消失しステロイド中止できた
  • 2015年11月 原病が進行して臨床試験に入るため、TCZは中止したところ、直後に関節炎が再燃したため、TCZ再開し、再度関節炎は軽快

Case3
  • 46才、女性
  • 2009年 背部にメラノーマ病変を認め、手術で切除
  • 2014年6月 胸壁、副腎、肺に再発性病変を認めた。BRAF-V600E mutationがあり、そちらへの標的治療を開始
  • 2015年3月 原病が進行し、pembrolizumab(PD-1抗体)へ変更
  • irAEとして腸炎による下痢を発症し、ブデソニドで治療された
  • 2016年1月 副腎病変の進行を認めたと同時に、多関節炎(両側手関節、MCP, PIP, 足関節)と朝のこわばりを発症。
    • X線でerosionあり。
    • ANA陽性(640倍、homogeneous)、抗La抗体陽性
    • RF陰性、CCP抗体陰性
    • TCZ q2w開始開始し、3ヶ月後には関節炎は軽快
  • 原病進行のため、TCZ継続したまま、ipilimumab(CTLA-4抗体)へ変更



まとめ
  • 今回の報告は、ICIを投与されている症例で生じた関節炎irAEに対して、抗腫瘍効果を減弱させることなく、TCZを投与し関節炎が軽快した最初の報告である
    • IL-6-Th17経路が関節炎irAEにおいて重要であるという仮説が、今後大規模研究で検討される必要がある
  • ステロイドはICIの有効性を下げるかもしれず、高用量ステロイドの長期使用はステロイド自体の副作用も懸念されるため、短期間での使用が望ましい
  • TNFα阻害薬による、ICIの抗腫瘍効果への影響は複雑である
    • あるグループの報告では、腸炎irAEに対して1−2回使用した際に、腸炎はすぐに軽快したが、抗腫瘍効果への影響はなかった
    • しかしながら、関節炎に対してTNFα阻害薬が長期必要な場合は、抗腫瘍効果を下げる可能性も報告されているため、代替治療が必要と考えられていた
  • これまでの報告で、Th17がirAEに対して主要な役割を担っていることがわかっている
    • IL-6はTh17産生を亢進する。そして、IL-6を阻害することで、抗腫瘍免疫を担うTh1-CD8陽性T細胞サブセットを阻害せずに、Th17-Tregのバランスを調整できる。
  • 筆者らは、別の報告で、クローン病を併存している転移性メラノーマに対して、pembrolizumabとTCZを併用して投与し、クローン病を増悪させずにメラノーマがCRになったと報告している
    • 最近、IL-6シグナル経路が、多様な腫瘍の発生、予後不良、化学療法・免疫治療への抵抗性に関与していることが報告されている
    • そのため、IL-6阻害が、悪性腫瘍に対する治療としても注目されてきている

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