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2017年11月5日日曜日

特発性肺線維症(IPF):nature review


Ana L. Mora1,2, Mauricio Rojas1,3, Annie Pardo4 and Moises Selman5
Emerging therapies for idiopathic
pulmonary fibrosis, a progressive
age-related disease
NATURE REVIEWS | DRUG DISCOVERY
ADVANCE ONLINE PUBLICATION | 1
 



線維化について

  • 線維化は、異常な組織修復や持続的・重度な組織ダメージ・細胞ストレスによって生じ、肺や腎臓、心臓など多臓器に影響する
  • 上皮細胞と内皮細胞の障害は、homeositasisを保つための創傷治癒の経路が関連している
  • 疾患によって多少は異なるものの、共通しているのは異常な細胞外マトリックスの蓄積が亢進していることである

IPFについて
  • IPFは当初、炎症によって契機されるものと考えられていたが、ステロイドやAZA、NACなど抗炎症性薬剤の臨床試験は失敗に終わり、むしろ死亡率を増加させた
  • 2014年に、チロシンキナーゼ阻害薬であるpirfenidone、nintedanibがIPFに承認され、FVC改善と疾患進行抑制を示した


IPFのメカニズム(figure1)

  • 遺伝子、加齢、環境因子によって肺胞上皮細胞がダメージを受け、徐々に再生・ストレスへの応答性が低下してくる
    • 高齢者に多い
    • 喫煙、感染症など環境のリスク因子もある
    • familial interstitial pneumonia (FIP) 、sporadic IPFでは様々な遺伝子異常が報告されている
    • IPFでは細胞レベルで加齢が亢進しており、テロメア関連遺伝子の異常も報告されており、動物レベルでは持続的な炎症がなくとも線維化が進行する
  • 肺胞上皮細胞がembryonic pathways の再活性化を含むストレス、活性化、老化のマーカーを発現してくる。
  • IPFでは、KRT5Δp63肺胞上皮細胞の先駆細胞が、2型肺胞上皮細胞へ再生することができず、IPFに特徴的な蜂巣肺形成を促進する
  • 上皮細胞の持続的な活性化や老化が、senescence-associated secretory phenotype (SASP) factorとして知られるpro-fibrotic growth factors・ケモカイン、血管新生・凝固メディエーターの分泌を促進する 
  • SASP factorsが、上皮細胞と間葉系細胞の間の異常な相互作用や、筋線維芽細胞の蓄積によって、異常な創傷治癒を引き起こす
  • IPF患者の肺における線維芽細胞と筋線維芽細胞は、ストレスを受けて老化しており、アポトーシスへの抵抗性を示したり細胞外マトリックスの産生が亢進している
  • マトリックスの硬度が増加していることで、線維芽細胞と上皮細胞の挙動に影響を及ぼすnicheが変化し、不可逆的な線維化やダメージを生じる



遺伝的要素

  • familial interstitial pneumonia (FIP)
    • IPFの5-10%を占める
    • この疾患群の30%のみであるが、肺胞上皮細胞関連遺伝子の異常が報告されている
      • そのうち5%は、pulmonary surfactant-associated protein C (SFTPC) 、SFTPA2 
      • これによって蛋白のmisfoldなどが生じて、細胞死や、2型肺胞上皮細胞の線維化を誘導するepithelial–mesenchymal transition (EMT)が活性化される
      • 他には白血球や2型肺胞上皮細胞のテロメア関連の遺伝子異常も報告されている
  • sporadic IPF
    • 2つのGWAS研究にて、いくつかの遺伝子異常が報告されている
      • 上皮細胞間の接着、自然免疫、host defence、DNA修復に関する遺伝子など
    • 空気中の微生物から守るムチンに関する遺伝子であるMUC5B異常がIPFの1/3を占める
    • 他には、DSPと呼ばれるデスモゾームの成分であるdesmoplakinをコードする遺伝子、 DPP9と呼ばれる細胞外マトリックス間の相互作用・アポトーシス・増殖に関与するdipeptidyl peptidase 9をコードする遺伝子 
    • テロメア関連の遺伝子異常もあり
    • TOLLIPと呼ばれる、自然免疫の制御因子で、TGFβ1シグナル経路を抑制する蛋白をコードする遺伝子異常もあり


肺胞上皮細胞の活性化
  • IPFにおいて、肺胞上皮細胞の異常があることは明らかである
  • 線維芽細胞、筋線維芽細胞は線維化や瘢痕の原因となる
  • 1型・2型肺胞上皮細胞の発現マーカー、TGFβ1・HIPPO–YAP, p53, WNT、AKT–phosphoinositide 3-kinase (PI3K) のシグナル経路が亢進している
    • 活性化された肺胞上皮細胞からは間葉系細胞を誘導するメディエーターが産生され、それらが筋線維芽細胞に分化する
      • そしてこの筋線維芽細胞が、肺の構造破壊をもたらす、主には膠原線維である細胞外マトリックスを分泌する
  • 2型肺胞上皮細胞では、以下を発現して線維化反応を促進する
    • Platelet-derived growth factor (PDGF)
    • TGFβ1 
    • tumour necrosis factor (TNF)
    • endothelin-1
    • connective tissue growth factor (CTGF)
    • osteopontin
    • CXC chemokine ligand 12 (CXCL12) 
      • TGFβ1が最も線維化の強い因子である
  • 活性化した2型肺胞上皮細胞は、血管新生を阻害し、凝固シグナルを活性化し、創傷治癒を促進する。
    • また、tissue factor (TF)とplasminogen activator inhibitor 1 (PAI1) を分泌し、フィブリンのturn-overにも関与する
    • 凝固因子10は、IPFの肺胞上皮細胞にて産生され、TGFβ1を介して、α-smooth muscle actin (αSMA) を誘導し、線維芽細胞が筋線維芽細胞へ分化するのを促進する



治療に関して

  • 下の図はこれまでの臨床試験でIPFに対して有効だった薬剤、失敗だった薬剤を示している
    • 以下は失敗
      • IFNγ
      • TNF受容体阻害薬(ETN)
      • エンドセリン受容体アンタゴニスト(ボセンタン、マシテンタン)
      • エンドセリン1受容体アンタゴニスト(アンブリセンタン)
      • 抗増殖薬(everolimus)
      • 抗凝固薬(ワーファリン)
      • PDE5阻害薬(シルデナフィル)
      • 化学療法(イマチニブ)
      • PSL+AZA+NAC
    • ピルフェニドン(メカニズムは不明な点が多い)、ニンデダニブ(vascular endothelial growth factor (VEGF), fibroblast growth factor (FGF) , PDGFなど複数のチロシンキナーゼ受容体を阻害)はFDAに承認された


  • TGFβ1
    • 有望な治療標的であるが、臨床試験まで取り付けられている薬剤は少ない
    • fresolimumab がphase1進行中
    • TGFβ1シグナルの下流であるαvβ6 integrin も魅力的な治療標的であり、GSK3008348 (an integrin αv antagonist)  のphase1試験が開始されたところである
    • 他には、TGFβ1シグナルを促進するfibrosis-inducing E3 ligase (FIEL1)–PIAS4 (protein inhibitor of activated STAT (signal transducer and activator of transcription) protein 4) 経路も治療標的であり、これを標的にした薬剤であるBC-1485がブレオマイシン誘発性肺障害モデルにて有効な成績を示している
  • PGE2
    • PGE2欠失マウスでは、アポトーシスが抑制され、線維芽細胞の膠原線維産生が増加する
    • しかしながら、PGE2を投与すると、保護的には働くものの、治療効果はなかった
    • PGE2を付加した脂質製剤をブレオマイシン吸入マウスに吸入させると、炎症と線維化が抑制された
    • プロスタサイクリンアナログ製剤は肺高血圧に対して使用されるが、肺線維症に対する有効性と安全性は現在試験が進行している(NCT02633293 and NCT02630316). 


  • 現在進行中のtrialはtable1



  • 症状や合併症に対する治療の研究も進んでいる
    • 咳嗽に対して
      • thalidomide (NCT00600028)
      • IFNα (NCT01442779)
      • PA101 (NCT02412020)
      • gefapixant (also known as AF-219 and MK-7264; NCT02502097)
      • omeprazole (NCT02085018) 
      • azithromycin (NCT02173145) 
    • QOL、呼吸困難に対して
      • inhaled opiate therapy (fentanyl citrate) 
    • 肺高血圧に対して
      • inhaled nitric oxide (NCT01265888)
      • losartan plus sildenafil (NCT00981747)
      • BAY63-2521 (NCT00694850) 
      • treprostinil (NCT02630316)
    • 感染症に対して
      • ST合剤+ドキシサイクリン


Growth factors
  • 上皮再生に関わり、TGFβ1産生を抑制したりして線維化に対して保護的に働くメディエーター(以下)。これらは全てチロシンキナーゼ受容体のリガンドである
    • hepatocyte growth factor (HGF)
    • fibroblast growth factor 1 (FGF1)
    • keratinocyte growth factor (KGF; also known as FGF7)
    • FGF10
    • TGFα
    • heparin- binding epidermal growth factor (HB-EGF) 
  • HGF自体は線維化に対して保護的に作用しているが、HGFのrecombinant製剤を投与しても膠原線維の蓄積や線維化反応は抑制されなかった

加齢に関するメカニズムと治療
  • この領域の治療はここ最近注目されている(以下図)
  • テロメアが異常に短縮していることはIPFにおいてよく認めるが、これが線維化にどう関わっているかはあまりわかっていない
    • テロメアの異常は2型肺胞上皮細胞のDNAダメージと老化に関連しており、再生機能を低下させていることは報告されている
    • アロマターゼ欠損マウスでは、テロメアの局所活性化が阻害され、テロメアが短縮し副腎が萎縮していた
      • そして、そのマウスにエストロゲンを投与すると、テロメア活性化が修復された
      • また、テロメア関連遺伝子に異常がありテロメアの機能が低下した患者にアンドロゲンを投与すると、リンパ球のテロメア活性化が修復された
      • さらに、テロメア関連遺伝子異常で後天性再生不良性貧血を患っていた患者に長期間アンドロゲンを投与すると、造血幹細胞のテロメアが長くなり血球が増加した
      • 現在、テロメアが短縮しており多くが肺線維症を有している患者群に対して、アンドロゲンを投与する前向きphase1/2試験が進行中である
  • SASP
    • senescence-associated secretory phenotype (SASP) は、TGFβ1、(CCL2), IL-6, IL-8、 IL-1αを分泌して創傷治癒を促進するが、慢性的に持続すると線維化へ関与する




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