本文中の図やグラフは元論文より引用しております。
背景
- 全身性強皮症(SSc)は、一般人口と比較しても死亡率が3.5倍と高い
- 症状が多様であるため、死亡リスクの高い患者を特定することで、より慎重に経過をみて早期治療に入ることができるようになる
- しかしながら、SScの死因に関する研究は2000年以降は皆無である
- The European Scleroderma Trials and Research (EUSTAR) は、現在進行中の、強皮症患者を対象とした多国間多施設前向きレジストリーである
- 今回の研究は、フランス全体の死亡診断書を使用したデータと、上記レジストリーで抽出したフランスの強皮症患者のデータを使用し、死因(2000-2011年に死亡した症例)とそれに関する因子を調べた
方法
- フランス全体の死亡に関するデータ
- 2000年〜2011年の死亡診断書より抽出
- 強皮症に起因した死亡:‘underlying’ cause of death (UCD)
- 強皮症が関連しただけの死亡:‘associated’ cause of death (ACD)
- EUSTARレジストリーのデータ
- 18歳以上で、2013ACR/EULAR分類基準を満たす強皮症患者
- 124施設が参加
- 2014年までに登録された11193人のデータを使用
- そのうち、初診後に1回以上フォローできているのは7819人、死亡したのは1072人
- 予後予測スコアを開発するために、the SCleroderma mOrtality p Eustar (SCOpE)prognostic scoreを開発
- スコアリングは下の通り(計0 - 32)
- - Age
- 50-65 years = 3 points
- >65 years = 6 points
- - male sex = 1 point
- - diffuse cutaneous form of the disease = 1 point
- - Scleroderma renal crisis = 2 points
- - Significant dyspnoea = 3 points
- - Digital ulcers = 1 point
- - joint contracture(関節拘縮) =1 point
- - muscle weakness = 1 point
- - Elevated C-reactive protein = 4 points
- - Proteinuria = 3 points
- - Left ventricular ejection fraction <50% = 2 points
- - Interstitial lung disease = 1 point
- - Carbon monoxide diffusion capacity <60% predicted = 4 points
- - Forced vital capacity <70% predicted = 2 points.
(死亡診断書によるフランス全体のデータ)
- 2000-2011年の間に、6474953人の成人がフランスで死亡
- そのうち強皮症患者は2719人(0.04%)(table1)
- UCD:1608人
- ACD:1111人
- 平均年齢:71.4 ± 12.8 歳
- 女性:男性 = 3.8:1
- 死因
- 心疾患:31%
- 呼吸器疾患:18%
- 感染症:11%
- 悪性腫瘍:9%
- 年齢調整した場合の死亡率
- 0.8/105 人
- このうち、 女性/男性 = 2.49
- 年とともに死亡率は低下(figure1A)
- 1.03/105 人(2000年)→ 0.60/105 人(2011年)
- 女性と男性の割合は変化なし
- UCDの割合↑、ACDの割合↓(figure1B)
- 強皮症患者におけるその死因での死亡人数を、同年代におけるその死因での一般人口の死亡人数で割った値をO/Eとし、各死因におけるO/E比を計算(table2)
- 心疾患:1.36
- 60歳未満の男性においてさらに顕著(3.14)
- 呼吸器疾患:2.99
- 60歳未満の男性においてさらに顕著(9.50)
- 感染症:5.61
- 悪性腫瘍:0.33
(EUSTAR sampleにて)
- 11193人のSSc患者を抽出
- 女性:86%
- dcSSc:31%
- 平均罹患期間:8.1年
- 死亡率:9.6%
- 死亡時の平均年齢:63.6 ± 13.4 歳
- 死亡時の平均罹患期間:12.3 ± 12.4 歳
- 強皮症関連の死因による死亡:57.6%
- 強皮症とは無関係の死因による死亡:25.2%
- 死因
- ILD:16.8%
- PAH:14.7%
- 心疾患:12.0%
- 感染症:9.1%
- 3年生存率:89.3%
- 死亡と関連するリスク因子(table3)
- 高齢
- 男性
- dcSSc
- CRP増加
- 重度の呼吸困難
- ILD
- DLco/予測DLco < 60%
- FVC/予測FVC < 70%
- 蛋白尿
- 腎クリーゼ
- 左室収縮機能低下(EF < 50%)
- digital ulcers
- 関節拘縮
- 筋力低下
- 上記リスク因子を含むSCOpE scoreによる、3年後の死亡率を予測する精度
- dcSScの場合:AUC 0.79(95% CI 0.75 to 0.81)
- lcSScの場合:AUC 0.82 (95% CI 0.80 to 0.85)
- スコアをカテゴリー化して、カテゴリー別にした場合の、3年後の生存を予測する精度(AUCで評価)
- score(0–4):0.98 (0.97–0.99)
- score(5–9):0.93 (0.92–0.94)
- score(10–14):0.80 (0.78–0.83)
- score(≥15):0.53 (0.48–0.58)
まとめ
- SScの死亡において、原発性心疾患が死因の30%を占めた
- SScの患者において、臨床症状を呈する前にPAHと心臓病変を発見することが重要
- しかしながら、全身性高血圧以外に心臓疾患のリスクとなりそうなものを調べておらず、心疾患のリスク因子を特定できていない。EUSTAR studyの既報でも、心臓病変併発のリスク因子は特定できていない。
- 呼吸器疾患、感染症も死因として多いので、ワクチンなどによる予防も必要である
- 特に肺がんであるが、悪性腫瘍による死亡の割合も多いが、一般人口と比較してリスクは増加しなかった
- SScによって早期に死亡したことで、年齢により増加する悪性腫瘍のリスクが低下したのだろう
- もしくは、悪性腫瘍で死亡した場合に死亡診断書において強皮症の記載漏れがあった可能性がある
- 強皮症に関連しない死亡が減っているのに関わらず、強皮症による死亡が増加しているのは、一般人口の生存率が上がっているためだろう
- SCOpE scoreの精度は、Bryan scoreよりも有意に高かった(p<0.001)
- SCOpE score ≧ 15の場合は、専門施設に送り各臓器の評価を慎重におこなったほうがいいかもしれない
- 将来的には、幹細胞移植など高侵襲治療の適応症例となるかもしれない
- limitation
- 死亡原因がきちんと特定できていない症例も含まれる
- non expertの場合はPAHは過小評価されているだろう
- EUSTAR cohortでは、平均罹患期間が8年なので、早期死亡が含まれていない
- しかしながら、既報では発症3年以内のSScは死亡リスクとならないので大丈夫かも
- 3000人の患者は一度もフォローされておらず解析対象になっていない
- 多変量解析では、フォローされた群とされなかった群でcharacteristicsに有意差なかったので大丈夫かも
- 今回の解析では治療内容を検討していない
- その理由は、多様な症状を呈する患者集団を解析対象としたのと、新規に治療される患者にも当てはめられるスコアを作りたかったから
- コーカサス人が多く、他の人種に当てはまらないかも
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