本文中の図やグラフは元論文より引用しております。
背景
- 原発性Sjogren症候群(pSS)慢性の全身性自己免疫疾患であり、外分泌腺の炎症を生じる。
- 有病率:0.05%
- 口腔内乾燥症、乾燥性角結膜炎、倦怠感に加えて、腺外症状として関節痛・炎、筋痛などもある
- 複数の分類基準がある
- 2002年the American European Consensus Group (AECG) criteria が提唱されたが、ACRやEULARでは支持されなかった
- 2012年ACR基準が提唱されたが、多くのSS専門家の間では受け入れられていない
- 国際的な分類基準が必要なため、ACR-EULAR基準が最近提唱された
- これら3つの分類基準は全て、唾液腺生検とSS-A/Ro抗体がpSS分類に重要とされている
- AECGとACR-EULAR分類基準では、唾液腺の評価として無刺激唾液分泌量(UWS)が含まれている
- エコーによる唾液腺評価は、pSSにおける唾液腺病変の評価として今後期待される項目である
- しかしながら、検者による違いなどもある
- 最近のmeta-analysisでは、エコーによるpSS診断精度は、感度69%, 特異度92%と報告された
- しかしながら、研究間で臨床所見と方法が大きく異なっていたことが研究結果に影響している可能性がある
- そのため、エコーによるpSSの診断精度については不明な点が多い
- 洛和会丸太町病院救急総合診療科さんの非公式HPで上記meta-analysisを含むSSにおけるエコーを解説しております
- 今回の研究では、エコー所見と耳下腺・口唇腺生検結果 & 唾液分泌量 & SS-A/Ro抗体を比較し、エコーの診断特性を調べた
方法
- University Medical Center Groningenにおいて、前向きにデータを収集したcross-sectional study
- 110人の臨床的にpSSが疑われる18歳以上の患者に、エコーと生検を含む各診断検査を行い、AECG, ACR, ACR-EULAR分類基準の項目を評価した
- エコー評価方法
- Hocevarらのscoring system を使用(計0 - 48)
- 両側耳下腺、顎下腺において、
- 甲状腺と比較した実質エコー輝度:graded 0–1
- 0:同等、1:甲状腺より低エコー
- 不均質性:graded 0–3
- 0:均質、1:mild、2:明らか、3:著明
- 低エコー領域の有無:graded 0–3
- 0:なし、1:わずか、2:複数、3:多発
- 高エコー反射(hyperechogenic reflections):graded 0–3 (耳下腺)、graded 0–3(顎下腺)
- 耳下腺
- 0:なし、1:わずか、2:複数、3:多発
- 顎下腺
- 0:なし、1:あり
- 唾液腺の境界
- 0:明瞭、1:一部不明瞭、2:全体的に不明瞭、3:境界がわからない
(Hocevarらのscoring systemのエコースコアリングシステムの精度:元論文より)
- 唾液腺生検の陽性
- FS(浸潤した単核球の数 ≥ 50 lymphocytes/4mm2 )≥1
- UWS
- 異常:≦ 1.5ml/15min
結果
- フローチャート(figure1)
- baseline chraracteritics
Total group (n=103)
|
||||
Age (years)
|
50 (15)
|
|||
Females
|
93 (90%)
|
|||
Ultrasound total score
|
15 (10)
|
|||
Biopsy with focus score ≥1
|
||||
Parotid gland biopsy
|
28 (36%)
|
|||
Labial gland biopsy
|
29 (52%)
|
|||
Anti-SSA/Ro antibodies
|
53 (52%)
|
|||
UWS ≤1.5 ml/15min
|
55 (56%)
|
|||
OSS≥5
|
30 (29%)
|
|||
Schirmer ≤5 mm/5min
|
74 (72%)
|
|||
AECG – incl. parotid gland biopsy
(n=97)
|
AECG – incl. labial gland biopsy
(n=96)
|
|||
Positive
|
Negative
|
Positive
|
Negative
|
|
Age (years)
|
50 (16)
|
50 (14)
|
51 (15)
|
49 (15)
|
Females
|
42 (93%)
|
46 (88%)
|
47 (96%)
|
41 (87%)
|
Ultrasound total score
|
22 (11)
|
10 (5)
|
22 (11)
|
10 (5)
|
Biopsy with focus score ≥1
|
25 (76%)
|
3 (7%)
|
26 (84%)
|
3 (12%)
|
Anti-SSA/Ro antibodies
|
44 (98%)
|
5 (10%)
|
44 (90%)
|
5 (11%)
|
UWS ≤1.5 ml/15min
|
33 (77%
|
17 (35%)
|
34 (72%)
|
15 (34%)
|
OSS≥5
|
25 (56%)
|
5 (10%)
|
26 (53%)
|
4 (9%)
|
Schirmer ≤5 mm/5min
|
40 (89%)
|
30 (58%)
|
42 (86%)
|
27 (57%)
|
ACR – incl. parotid gland biopsy
(n=97)
|
ACR – incl. labial gland biopsy
(n=93)
|
|||
Positive
|
Negative
|
Positive
|
Negative
|
|
Age (years)
|
48
(16)
|
51
(14)
|
50
(14)
|
51
(14)
|
Females
|
40
(91%)
|
47
(89%)
|
39
(91%)
|
44
(88%)
|
Ultrasound total score
|
23
(11)
|
9
(4)
|
22
(11)
|
9
(4)
|
Biopsy with focus score ≥1
|
25
(78%)
|
3
(7%)
|
24
(83%)
|
5
(19%)
|
Anti-SSA/Ro antibodies
|
44
(100%)
|
5
(9%)
|
40
(93%)
|
4
(8%)
|
UWS ≤1.5 ml/15min
|
29
(71%)
|
23
(45%)
|
27
(68%)
|
22
(46%)
|
OSS≥5
|
25
(57%)
|
4
(8%)
|
25
(58%)
|
3
(6%)
|
Schirmer ≤5 mm/5min
|
38
(86%)
|
32
(60%)
|
36
(84%)
|
30
(60%)
|
ACR-EULAR – incl. parotid gland biopsy (n=99)
|
ACR-EULAR – incl. labial gland biopsy (n=97)
|
|||
Positive
|
Negative
|
Positive
|
Negative
|
|
Age (years)
|
50
(16)
|
50
(14)
|
51
(15)
|
50
(14)
|
Females
|
48
(92%)
|
42
(89%)
|
51
(93%)
|
37
(88%)
|
Ultrasound total score
|
21
(12)
|
9
(4)
|
20
(12)
|
9
(4)
|
Biopsy with focus score ≥1
|
26
(72%)
|
2
(5%)
|
26
(79%)
|
3
(13%)
|
Anti-SSA/Ro antibodies
|
51
(98%)
|
1
(2%)
|
50
(91%)
|
1
(2%)
|
UWS ≤1.5 ml/15min
|
37
(76%)
|
16
(36%)
|
38
(73%)
|
14
(35%)
|
OSS≥5
|
25
(48%)
|
4
(9%)
|
26
(47%)
|
3
(7%)
|
Schirmer ≤5 mm/5min
|
45
(87%)
|
26
(55%)
|
48
(87%)
|
23
(55%)
|
Values are presented as number of patients (%) or mean
(SD). When ‘including parotid gland biopsy’ is added,
parotid gland biopsy outcome is considered an item of the AECG, ACR and
ACR-EULAR criteria. When ‘including labial gland biopsy’ is added, labial gland
biopsy outcome is considered an item of the AECG, ACR and ACR-EULAR criteria.
UWS = unstimulated whole saliva; OSS = ocular staining score.
- エコーの唾液腺生検結果の予測能(table1)
- 耳下腺:良好
- AUC:0.849 (95% CI 0.746 to 0.952)
- 最適カットoff値:15
- 一致率:83% (65/78)
- 感度:75% (21/28)
- 特異度:88% (44/50)
- PPV:78% (21/27)
- NPV:86% (44/51)
- 口唇腺:良好
- AUC:0.824 (95% CI 0.714 to 0.934)
- 最適カットoff値:14
- 一致率:79% (44/56)
- 感度:72% (21/29)
- 特異度:85% (23/27)
- PPV:84% (21/25)
- NPV:74% (23/31)
- 唾液腺生検で陽性群の方が明らかにエコースコアが高い(figure2)
- エコーの、UWS低下の予測能(table1)
- 不良
- AUC:0.696 (95% CI 0.593 to 0.799)
- 一致率:66% (65/98)
- UWS低下(≦ 1.5ml/15min)している群のほうが有意にエコースコアが高い
- 相関の程度:fair
- ρ=−0.366
- エコーの、SS-A/Ro抗体陽性の予測能
- 良好
- AUC:0.803 (95% CI 0.711 to 0.894)
- 一致率:82%(84/103)
- SS-A/Ro抗体陽性群のほうが有意にエコースコア高い
- エコーの、各分類基準を満たすことの予測能(table2)
- AECG
- 良好
- AUC:0.826 (95% CI 0.735 to 0.918)
- 最適カットoff値:15
- ACR
- 良好
- AUC:0.862 (95% CI 0.777 to 0.947)
- 最適カットoff値:15
- ACR-EULAR
- 良好
- AUC:0.802 (95% CI 0.710 to 0.894)
- 最適カットoff値:15
- 各分類基準を満たす群のほうがエコースコアが高い(figure3)
- エコーとSS-A/Ro抗体の組み合わせ
- エコー陽性かつSS-A/Ro抗体陽性の群
- 耳下腺生検で陽性:78% (14/18)
- 口唇生検で陽性:94% (17/18)
- AECG基準を満たす割合:94%
- ACR基準を満たす割合:97%
- ACR-EULAR基準を満たす割合:97%
- 上記診断基準を満たす割合は、生検部位が耳下腺でも口唇腺でも同様
- エコー陰性かつSS-A/Ro抗体陰性の群
- 耳下腺生検で陰性:93% (37/40)
- 口唇生検で陰性:77% (17/22)
- AECG基準を満たす割合:98%
- ACR基準を満たさない割合:100%
- ACR-EULAR基準を満たさない割合:98%
- 上記診断基準を満たさない割合は、生検部位が口唇腺の場合はもう少し下がる
- それぞれ89%, 93%, 89%
まとめ
- 今回の試験では、臨床的にpSSが疑われる患者を対象としているので、実臨床に近い
- ACR-EULAR分類基準とエコーを比較した今回が初めてだが、よく相関していた
- 既報ではACR, AECG基準を比較していたが、その際はエコーのカットoff値は15-19とばらつきがあった
- エコーで陰性の場合は、大半が耳下腺生検も陰性だったが、口唇腺の場合は26%は陽性となった
- 一方で、エコーで陽性の場合は、大半が口唇腺生検も陽性だったが、耳下腺の場合は22%陰性だった
- この結果の解釈の際には、全例にて両方の部位を生検したわけではないことを考慮しなくてはならないが、耳下腺と口唇腺の違いを示した結果となった
- UWSが低下しているがエコーで陰性の場合は、SS早期もしくは他の原因でUWSが低下していると考えられる
- エコーが発症早期のpSS患者をdetectできる感度は不明である
- 今回の結果では、他の分類基準よりも、より低いエコースコアでACR-EULAR分類基準を満たしたため、ACR-EULAR分類基準がより早期の患者をdetectできるかもしれない
- 各分類基準を満たすかいなかについて、エコーのPPVはNPVより高かったため(table2)、陽性の場合は分類基準を満たす可能性が高いが、陰性の場合は満たさないとは言えないだろう
- 分類基準は、臨床においては診断のためにも頻用されるが、元々は研究のためにhomogeneousな集団を集めることを目的として開発されたものであることを念頭においておく必要がある
- 今回の結果から、耳下腺でなく口唇生検を分類基準の項目として用いた場合、7-11%はエコー陰性かつSS-A/Ro抗体陰性でも各分類基準を満たす可能性があるので、唾液腺機能低下を示唆する所見がある場合には、もしエコー陰性かつSS-A抗体陰性でも生検は行なったほうが良いと思われる
- 一方で、両者陽性の場合は、診断基準を満たす可能性が非常に高いので、生検は行わなくてもいいかもしれない
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