Roubille C, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1797–1802.
背景
- ステロイドは発症早期の活動性RAに対して、様々な用量・期間で使用される
- UKでは、50%以上の発症早期RAに対して使用され、そのうち半数以上は用量が10mg/dayを超える
- ドイツのCourse And Prognosis of Early Arthritis (CAPEA) inception cohortでは、77%の患者がステロイドを使用しており、そのうち20% は低用量(<7.5 mg/day) 、35%は高用量(≥20 mg/day)で使用している
- 一方で、カナダのCATCH cohortでは、42%のみの患者でステロイドを使用しており、そのうち48%は経口で10 mg/day以下、38%は関節注射 or 筋注で使用している
- ラテンアメリカのコホートでは、64%の患者で使用し、そのうち80%は10mg/day以下である
- ステロイドによる症状・関節破壊へのメリットはあるが、心血管系・易感染性・糖尿病・体重増加・骨粗鬆症・骨折など長期間使用した際の安全性の問題もあり、リスクベネフィットに関してはまだ議論の余地がある
- ステロイドの副作用は用量・期間依存性であり、ガイドラインでも必要最低限際短期間での使用を推奨している
- Etude et Suivi des POlyarthrites Indifférenciées Récentes (ESPOIR) cohort について
- フランス、多施設
- 前向き観察コホート
- 2002年〜2005年に患者を組み込んだ
- 18−70歳、発症早期(症状出現から6ヶ月以内)、未治療(DMARDs naive, GC naive)のRA or RA疑い未分類関節炎(2個以上腫脹した関節が6週間〜6ヶ月間続いている炎症性関節炎)患者を対象(813人)
- 半数以上で一度はステロイドを使用しており、特に最初の6ヶ月間に多い
- 今回の研究では、ESPOIR cohortを解析し、7年間における、発症早期RA患者に対するステロイドの忍容性(ステロイドと死亡、心血管疾患、重症感染症、骨折の関連)を調べた
方法
- 上記コホート813人のうち、2010ACR/EULAR分類基準を満たし7年間以上フォローした712人のRA患者を抽出(figure1)
- 下記に当てはまった場合は除外し、最終的に602人を解析(primary analysis)
- 心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全)の既往あり
- 重症感染症の既往あり
- 骨折の既往あり
- ステロイドに関するデータ欠損症例
- ステロイド開始後1年以内にlostした症例
- ステロイド使用患者:観察期間中に一度でも経口、筋注、点滴を使用した症例
- 関節注射、吸入は含まない
- primary outcome
- 虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、重症感染症(入院 or 点滴での抗生剤投与を要する)、骨折を含む新規有害事象の発生
- 上記有害事象が観察期間中に起きた場合は全てステロイド関連とみなした
- 上記有害事象に影響する共変数として、年齢、性別、BMI、糖尿病、高血圧、喫煙歴、脂質異常症、NSAIDs使用を検討した
- 「心血管リスク」の定義:高血圧、脂質異常、BMI > 30、糖尿病、喫煙のいずれか一つを有する
- 解析手法に関して
- ステロイドを使用するかいなかによる治療選択バイアスと潜在的な交絡因子の影響を減らすために、重み付けCox比例ハザードモデルを、IPTW(Inverse Probability of Treatment Weighted)法で用いた
- 最終的にprimary analysisで調整に用いた変数は、年齢、性別、高血圧
※今回使用した、観察研究において選択biasを制御するために用いられるPropensity Score IPTWと層化調整法に関する説明はこちらを参照してみてください(http://www.biostar.co.jp/IPTW.pdf)
結果
- baseline characteristics(table1)
- 女性:79%
- 平均年齢:48 ± 12歳
- 平均観察期間:5.98 ± 1.84年(中央値 7年, IQR 0.038-7.75年)
- 中等度〜高疾患活動性の割合:91%
- ステロイド使用患者のほうがDAS28-CRP, HAQ, CRP, ACPA titerが有意に高く、DMARDs, 生物学的製剤、NSAIDs使用量が多い
- ACPA陽性率:45%
- ステロイド使用した割合:64.1%
- 観察期間中のステロイド使用量:平均 3.1 ± 2.9mg/day、中央値2.4mg/day(IQR 0.7 - 5mg/day)
- 最初の6ヶ月間で使用された割合:68.1%
- 使用期間(tableS1)
- 6ヶ月以内:19%
- 2年以内:およそ50%
- 6年間以上:18%
- 平均:1057 ± 876 日 (中央値 803日(IQR 267– 1829))
- 点滴 or 筋注:6人のみ
- 全体で65の有害事象があった(table2)
- 有害事象の内訳
- 7例:死亡
- 4-7年の間に生じ、死因は悪性腫瘍・造血器腫瘍(4)、サルモネラ感染症(1)、大動脈瘤破裂(1)、不明(1)
- 14例:心血管疾患
- 19例:重症感染症
- 25例:骨折
- 有害事象の発生率
- ステロイド使用患者44例(11.4%)、ステロイド未使用患者21例(9.7%)で、有意差なし(p=0.520)
- 感染症はステロイド使用患者で多かったが、統計学的に有意ではなかった(p=0.09).
- ステロイド使用ありかつ疾患活動性が中等度以上(DAS28-CRP > 3.2)の群にて、ステロイド未使用患者よりも有意多かった
- p=0.006
- 年齢・性別・高血圧の既往・ステロイド使用に関する、重み付けCox比例ハザード解析でも、ステロイド使用の有無で有意差なし(p=0.520; HR=0.889; 95% CI 0.620 - 1.273)
- 年齢、性別は関連あり
- それぞれ(p=0.02; HR=1.636; 95% CI 1.085 to 2.467) 、 (p=0.003; HR=1.809; 95% CI 1.224 to 2.674).
- 以前に心血管疾患、骨折、重症感染症の既往がある患者を含む657人の解析でも、ステロイドの使用の有無で有意差なし
- (p=0.767, HR=0.951; 95% CI 0.684 to 1.323).
- ステロイドの積算量と使用期間で、4つにカテゴリー化して解析したが、積算量と使用期間の両者とも生存率に影響なし
- 年齢・性別・高血圧の既往で層別化してCoxモデルで積算量・使用期間ごとにそれぞれ解析したところ、1つ目のCox解析と同様に年齢と性別が有意差あり
まとめ
- 今回の7年間のコホートのデータでは、RAに対するステロイドの使用によって、虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、重症感染症、骨折を含む新規有害事象の発生が有意に増えることはなかった
- このコホートでは、多くが発症6ヶ月以内に低用量で使用しており、このような使用法であれば、7年間に限った安全性は高いことが示された
- ステロイドの使用に関してはランダム化比較試験もなく、他のリスクによる交絡を含むバイアスを除外した解析が希薄である
- 一般的には、ステロイドのリスクは積算量・使用期間によって増えるといわれている
- これはRAに対する使用でも同様だと、2つの既報で示されていた
- Rinconらの報告では、8mg/dayを越えると全死亡率が増えた(adjusted HR=1.78; 95% CI 1.22 to 2.60)
- RABBITでは、5mg/day以上の使用だと、RA活動性と独立して死亡率が増えた
- さらに、BARFOT+ trialでは、10年間の観察期間における、発症後2年間に低用量ステロイド(7.5mg/day)をopen-labelで使用したRA患者の心血管リスクを調べたランダム化研究であるが、それでも心血管イベント発生率は低用量ステロイド使用と関連していた。また、有意ではないが、死亡率も増加していた。
- 同様に、CAMERAⅡの長期間フォロー研究でも、2年間以上、ステロイド10mg/day使用すると、心血管イベント発生率と関連していた。また、有意ではないが、死亡率も増加していた。
- 心血管イベントとステロイドの使用に関しては議論があり、システマティック研究では、4/6の研究で低用量ステロイド(<10mg/day)と心血管イベントが関連していた
- 感染症に関しては、システマティックレビューにて、低用量ステロイド(<10mg/day)は感染リスクにならないと報告された
- 最近の研究では、65歳以上RA患者であれば、5mg/dayの使用でも、使用期間が3ヶ月、6ヶ月、3年と長くなるごとに重症感染症のリスクが30%, 46%, 100% と増加すると報告された
- 今回の研究のlimitation
- 観察研究なので、バイアスが除外しきれていない可能性がある
- 有害事象と併存疾患の情報は患者申告制なので、想起バイアスが除外できていない
- アウトカムが虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、重症感染症、骨折を含む新規有害事象で適切かどうか
- ステロイドの用量依存性に関しては評価できていない
- 今回の研究はステロイド使用と有害事象の関連を調べることが目的であったため、交絡因子の除外(高疾患活動性のRA患者に対してよりステロイド使用し逆に心血管疾患や感染症や骨折の既往のある患者にはステロイドを使用しない傾向にある)として、IPTW法を用いたが、これは逆に実臨床では疾患活動性が高い患者にステロイドを使用するため、実臨床で使う場合にどうなのかということのクリニカルクエッションの回答にはならないかもしれない
- サンプルサイズが少なくて有意差が出なかった可能性もある
RA患者に対するステロイドの使用で、虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全、重症感染症、骨折を含む新規有害事象が増えるかどうか調べた研究です。結果としては、7年間の観察期間では、少量ステロイドならば、統計学的に有意に有害事象は増えませんでした。
しかしながら、より長期の安全性に関してはよりフォロー期間を長くする必要があるし、サンプルサイズが大きければ有意差出たかもしれないし、本当に影響ないかはさらなる解析・追加研究が必要です。年齢によっても変わるでしょうし。
また、この解析手法において、傾向スコアやIPTW法のあたりが理解に難しく、まだ本当に理解したとは言えないですが、ステロイドとその有害事象に関する研究ではいつも、ステロイドを使用する患者背景が交絡している影響もあるためそれを解析で除外するも、除外してしまうと実際の臨床とは状況が異なってしまうのでそのまま一般化できなくなるというジレンマ、が常につきまとっていますので、論文の解釈には注意が必要ですね。
ちなみに、今月号のARDのeditorialでこの研究が取り上げられており、そのeditorialの中で掲載されていた図です。5mg以下ならばあまりリスクにならず、5-10mgならば脂質異常症や糖尿病など他のリスク因子を予防すればステロイドもリスクベネフィットがよくなり、10mg以上だと他の因子に関わらずリスクが上回るということになることを示しています。
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