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2017年9月20日水曜日

Tofacitinibと生ワクチン(帯状疱疹)のタイミング


ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 00, No. 00, Month 2017, pp 00–00


本文中の図やグラフは元論文より引用しております。


背景

  • 帯状疱疹は高齢者や免疫が低下した人が罹患しやすい
  • RA患者は、健常人と比較して、帯状疱疹のリスクが1.5 - 2倍といわれている
    • DMARDsはこのリスクをさらに増加させる
  • Tofacitinib(ゼルヤンツ®︎)はJAK阻害薬であり、RAにおける有効性や安全性はphase2, 3, extension studiesで示されてきた
    • Tofaは、特にMTXやステロイド併用下で、帯状疱疹のリスクを上げることが報告されている
  • 帯状疱疹の予防として、 ACR, EULAR, ACIPはワクチン接種を推奨している
    • 生ワクチンなので、理論的には免疫不全者においては播種性感染症を起こしうるといわれており、生物学的製剤やTofaの投与はワクチン接種後2-4週間空けることべきといわれている
  • しかしながら、ガイドラインによって接種のタイミングは異なる
    • ACRでは、50歳以上のRA患者は、生物学的製剤やTofaを開始する2週間以上前に帯状疱疹ワクチンを接種するよう推奨している
    • 2011EULARでは、一般的には免疫不全者には帯状疱疹は避けるが、帯状疱疹抗体が低い場合は免疫抑制剤を一時中止してワクチンを投与することも必要だとしている
    • ACIPでは、RAなどのような慢性疾患の患者も含め、60歳以上には帯状疱疹ワクチンを投与すべきとしている
  • 既報では、帯状疱疹ワクチンによって、60歳以上であれば4.9年間で帯状疱疹を51%減らし、50-59歳であれば1.3年間に70%減らしたと報告している
    • MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2014;63:729–31. 

  • 今回は、RA患者において、Tofa開始前に帯状疱疹ワクチンを投与し、免疫原生と安全性を調べた

方法
  • phase2, ランダム化二重盲検プラセボ比較試験
  • アメリカの27施設で実施
  • 期間:2014/6-2015/7
  • MTX維持量で投与されているRA患者を対象
  • ワクチン接種2-3週間後に、以下の通り割付
    • 1:1=tofacitinib 5mg 1日2回:placebo
  • 対象
    • 50歳以上
    • 2010 ACR/EULAR RA分類基準 score ≧ 6
    • 4つ以上の圧痛・腫脹関節あり
    • CRP ≧ 0.3mg/dL or CDAI > 10
    • MTX 15-25mg/wにて4週間以上用量変更なし
    • ステロイド使用している場合には用量 ≦10mg/day
  • exclusion criteria
    • 6週間以内に重症感染症かかっている
    • 2週間以内の治療介入を要する感染症
    • 活動性のB/C型肝炎
    • 未治療のLTBI
    • 悪性腫瘍の既往あり
    • 再発性(>1回)の帯状疱疹 or 播種性帯状疱疹の既往あり
    • 以前に帯状疱疹ワクチンを接種したことがある
    • 6週間以内になんらかのワクチンを接種している
  • primary outcome
    • 接種後6週間時点での、帯状疱疹の抗体変化比

結果
  • baseline characteristics
    • 112人を割付
      • 16人は介入に関連しない有害事象(2人Tofa群、7人placebo群)、介入に関連する有害事象(2人Tofa群、2人placebo群)、臨床的効果不十分(1人Tofa群、2人placebo群)で脱落


  • primary outcome(table2)
    • 接種6週間後(Tofa開始4週間後)の抗体変化比は同等
      • Tofa群:placebo群=2.11 (80% CI 1.87–2.37) vs. 1.74 (80% CI 1.55–1.95) 
  • 抗体変化比はday1, week4, week12のいずれの時点でも同等(Tofa群のほうが高い傾向にあるが、統計学的有意差なし)(figure1A)
  • 接種6週間後に帯状疱疹IgG抗体が1.5倍以上増加した割合も同等(figure1B)




  • 帯状疱疹ウイルス特異的IFNγ産生T細胞の反応性も同等(figure2)




  • 安全性
    • ワクチン関連有害事象は、接種部位局所反応を含めてTofa群で7例、placebo群で5例発生した
      • 重度有害事象はTofa群のみで発生し、3例(5.5%)あった
        • 1例は胆管炎、1例は気管支炎
        • 1例は播種性水痘(接種後16日後、Tofa開始2日後に出現)が出現した。Tofaを中止し、抗ウイルス薬で7日間治療し、皮疹は改善した。治療後は、介入前と同様の治療(MTX15mg/w+PSL4mg/day)で継続した。この症例は、もともと帯状疱疹ウイルスに対する抗体を保有していなかった。ワクチン接種2週間後も全く免疫反応を示していなかったが、播種性感染後に抗体が陽性化した(table4)。このことより、この症例は初回の播種性感染だったと言える。


まとめ
  • 活動性RA患者でも同等に、帯状疱疹ワクチンによって有効な抗体を得ることができ、Tofa投与によってそれに関してはnegativeな影響を与えなかった
  • 基本的にはRA患者にも安全に接種できるが、播種性感染を起こした例を考慮すると、今回のようなシチュエーションではもともと抗体を保有しているか確認したほうが良さそう
  • 既報では、ワクチン接種後数週間はウイルスが体内を循環しており、一部の患者ではワクチン接種後4週間でもまだ唾液にウイルスがいることが報告されている
    • J Infect Dis 2011;203: 1542–5. 
    • それを考慮すると、今回の播種性感染の例も考慮し、現状ではガイドラインでは免疫抑制剤開始はワクチン接種後2−4週間空けるよう推奨されているが、4週間空けるほうが良いかもしれない
  • 既報では、RA患者はワクチンに対する免疫原生が弱いと報告されており、それはPSLやDMARDsだけでなく疾患活動性が高いことも影響している可能性がある
  • 現時点では、帯状疱疹ワクチンは、PSL > 20mg/day or MTX > 25mg/wの場合は禁忌であるが、これはあくまでもexpert opinionであり、エビデンスに乏しい
    • 今回の研究では、通常量のMTX or PSLであれば、安全性だけでなく免疫原生も同等であることが示唆された


現在の帯状疱疹ワクチンは生ワクチンです。
免疫抑制剤開始は、生ワクチンを接種した場合には、上記試験における播種性感染の例も考慮すると、4週間は空けたほうが良さそうです。

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