このブログを検索

2017年9月24日日曜日

免疫チェックポイント阻害薬に関連したRA, PMR:10例のケースレポート

Belkhir R, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1747–1750
本文中の図やグラフは元論文より引用しています。

背景

  • 免疫治療は、近年、転移したメラノーマや非小細胞肺がんを含め、悪性腫瘍の予後を変えている
  • Ipilimumab
    • 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
    • 標的:細胞障害性T細胞のcytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4 (CTLA-4)
  • nivolumab, pembrolizumab
    • 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
    • 標的:programmed cell death protein 1 (PD-1) 
  • atezolizumab 
    • 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)
    • 標的:PD-1のリガンド(PDL1)
  • これらICIにて、腸炎、自己免疫性甲状腺疾患、尋常性白斑、下垂体炎などの免疫関連有害事象が報告されている
  • もともと有していた自己免疫疾患の再発やフレアも報告されている
  • 最近では、抗PD-1治療によって誘発された21例の乾癬のケースシリーズも報告された
  • 有害事象としてのリウマチに関してはあまり知られていない
    • phase3では、関節痛はIpilimumabで5%、pembrolizumabで9-20%、nivolumabで5-16%の頻度で発症した(placebo < 1%)
    • 最近、13例のリウマチ系免疫関連有害事象が報告された
      • そのうち9例は自己抗体陰性で分類できない炎症性関節炎、4例は乾燥症状を呈するもSjS症候群の基準を満たさなかった
  • 今回は、ICI投与後に発症した10例のseropositive RAとPMRの症例を報告する

方法
  • The Gustave Roussy Cancer Center (Villejuif, France) が免疫関連有害事象を調べるために設立したレジストリーと、the Club Rhumatismes et Inflammation (CRI) networkのデータをretrospectiveに解析
  • 期間:2016/9-2017/1
  • 対象
    • ipilimumab, nivolumab, pembrolizumab もしくは他のICIで治療され、その後、2010ACR/EULAR分類基準を満たすRA or 2012ACR分類基準を満たすPMRを発症した症例 


結果

  • 平均年齢:65歳
  • 男性:60% 
  • ICI投与後に免疫関連有害事象が発生するまでの平均期間:1ヶ月(range 1-9ヶ月)
  • Patient2では皮疹も出現
  • RAの6症例のうち、3症例ではDMARDs(HCQ, MTX)使用し、残りの3症例ではステロイドとNSAIDsのみ使用
  • PMR4症例は全例ステロイドに反応性良好
  • ICI治療は悪性腫瘍が進行した1例、原病が落ち着いてRAが活動性だった1例を除いて全例継続



RAを発症した6症例

Patient 1

  • 55歳、女性
  • 膣癌に対して投与したnivolumab投与後1ヶ月の経過でMCP関節、肘関節、肩関節、膝関節の痛みと腫脹あり
  • 手関節、足関節のX線は異常なし
  • RF陽性、CCP抗体陽性
  • CRP, ESR上昇
  • NSAIDsのみで症状消失しDMARDsは使用しなかった
  • RA診断4ヶ月後に原病で死亡


Patient 2

  • 65歳、女性
  • BRCA1遺伝子変異を有する両側乳がんの既往があり、子宮体癌に対してpembrolizumabを投与し、投与1ヶ月後に肩関節・膝関節・足関節・手指関節に関節炎と朝のこわばりを認めた
  • 手関節、足関節のX線は異常なし
  • 関節エコーでは活動性の腱鞘滑膜炎あり
  • RF陽性、CCP陽性
  • CRP 3.4mg/dL
  • PSL10mg/day開始し、症状はすぐに消失。現在もpembrolizumabとPSL10mg/dayを継続し、原病もRAも安定している

Patient 3

  • 59歳、男性
  • 肺腺癌Stage4(肝転移、骨転移)
  • プラチナ製剤レジメン無効でnivolumab投与し、2ヶ月後に手関節・手指関節・肩関節・膝関節・足関節に関節炎を発症
  • RF陽性、CCP陽性
  • 手関節、足関節のX線は異常なし
  • ステロイド開始し症状消失。現在もPSL5mg/dayとnivolumabを継続し、原病はPR

Patient 4
  • 56歳
  • 転移性メラノーマに対してpembrolizumabを投与し、6週間後に手関節・足関節に関節炎と、乾燥症状が出現(salivary flow = 0 ml/min, Schirmer test 0 mm for each eye
  • 手関節、足関節のX線は異常なし
  • CRP増加
  • CCP弱陽性(22U/mL), RF陰性、ANA陰性
  • NSAIDs, HCQ 400mg/day開始し症状は消失。pembrolizumabは継続中。




    Patient 5

    • 80歳
    • nivolumabを転移性メラノーマに使用し、初回投与すぐに手指・手関節に関節炎、腱鞘滑膜炎を発症。
    • CRP 4.2mg/dL
    • CCP陽性(42UI/mL), RF陰性
    • PSL15mg/day+HCQ 200mg/dayで治療開始し症状は軽快。nivolumabは継続中。


    Patient 6

    • 68歳
    • 転移性メラノーマに対してnivolumabを開始し、初回投与後に手関節・手指関節に痛みが出現
    • RF陽性、CCP陽性
    • NSAIDs使用するも効果なし
    • 原病は落ち着いているためnivolumav中止し、MTX 10mg/w開始したところ、1ヶ月に症状消失。MTXは3ヶ月間投与後に終了したが、5ヶ月経った今でも再発なし。


    PMRを発症した4症例

    Patient 7

    • 76歳
    • 抗PDL1抗体を中皮腫に対して使用し、初回投与8ヶ月後に肩関節・股関節に痛みとこわばりを発症
    • ESR増加、CRP増加
    • GCAの症状なく、PMRと診断
    • PSL20mg/day開始し、数週間で漸減して症状消失
    • その後、原病が再発し抗PDL1抗体は中止


    Patient 8

    • 69歳
    • 転移性胃癌に対してpembrolizumabを初回投与した後すぐに上下肢に痛みを認め、体動困難となった
    • 滑膜炎なし、GCA症状なし
    • CRP 15mg/dL
    • PSL 20mg/dayから開始し、24時間以内に症状消失。現在もPSL10mg/day続けながらpembrolizumabも継続


    Patient 9

    • 72歳
    • 大腸ガンに対して、ipilimumab 4サイクル投与後にnivolumabを開始し、4ヶ月後に肩と腰に痛みを認めた
    • CRP増加
    • PSL 1mg/kg開始し、症状改善認め6週間で漸減終了した。原病は安定。


    Patient 10

    • 68歳
    • 転移性メラノーマに対してnivolumabを投与し、初回投与後に肩の痛みと朝のこわばりを認めた(末梢関節炎なし)。
    • CRP増加
    • FDG-PETでは肩と腰に取り込み亢進あり
    • PSL 40mg/dayから開始し、漸減しているが症状は消失したまま



    考察
    • もともとRA素因があった人がICIによってtriggerされた可能性もある
    • これらの症例より、PD-1がRAの病態に関与しているかもしれない
      • PD-1ノックアウトマウスでは自己免疫疾患を発症するため、PD-1は免疫寛容に関与している
      • PD-1多型性はRA発症に関わっており、膜・可溶性PD-1発現がRA患者では減少していることも報告されている
      • 非小細胞肺がんに対してnivolumab投与後にRA再発した症例も報告されている
    • PD-1/PD-L1, 2は、PMRの病態にも関与している
    • CTLA-4抗体を使用した症例は含まれていなかった
      • 既報ではCTLA-4抗体では皮疹、腸炎、内分泌系の副作用が関連しており、PD-1/PDL-1のように非特異的な関節炎やsicca syndromeを生じるのと対照的である
    • 臨床試験では、もともと自己免疫疾患を有する場合には除外されていることが多い
      • 既報では、もともと自己免疫疾患を有していた症例にipililimumabを使用した30症例では8例において自己免疫疾患の再燃を認め、それを除く他の10例に新規の自己免疫疾患を発症した
      • 他の既報では、もともと自己免疫疾患を有していた症例にPD-1阻害薬を使用した52例(リウマチ膠原病疾患:52%)の解析で、20例(38%)が初回PD-1阻害薬投与後に再燃した(投与〜再燃までの平均期間:38日)
        • PD-1阻害薬の中止を要したのは2例のみであり、他はステロイドとMTXですぐに軽快した
    • GCAも、PD-1免疫チェックポイントの欠失と関係がある
      • 病変部位である血管壁の樹状細胞がPDL1を発現しておらず、T細胞に対するチェックがなくなってしまう
    • アバタセプトで悪性腫瘍が増加することはこれまで報告されていないが、注意深く見る必要がある

    0 件のコメント:

    コメントを投稿

    トファシチニブ開始後のリンパ球数、リンパ球サブセットの推移と感染症の関連について

    Evaluation of the Short‐, Mid‐, and Long‐Term Effects of Tofacitinib on Lymphocytes in Patients With Rheumatoid Arthritis Ronald van Voll...