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2017年9月12日火曜日

成人IgA血管炎の臨床像、治療について


ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 69, No. 9, September 2017, pp 1862–1870 

背景

  • IgA血管炎は、IgA1が沈着する免疫複合体性小型血管炎である
  • 子供に多く、発症率は年間3-26/100,000子供である
  • 大人は最も稀で、年間0.1-1.8/100,000成人である
  • 臓器病変は皮膚、消化管、関節、腎臓が多い
    • 腎臓と消化管が成人における予後因子である
    • 250人のIgA血管炎を調べた研究
      • ESRD 11%
      • 重度の腎不全(eGFR < 30ml/min/1.73m2) 13%
      • 中等症の腎不全(eGFR < 50ml/min/1.73m2)14%
      • ESRDに至るリスク因子
        • baseline 尿タンパク > 1g/day
        • 肉眼的血尿
        • 高血圧
        • 尿タンパク > 1g/dayが持続
        • 腎生検にて間質性腎炎、糸球体硬化、フィブリノイド壊死が重度
          •  J Am Soc Nephrol 2002;13:12718.
    • ヨーロッパの研究による、不可逆的な腎障害のリスク因子
      • 血尿
      • 貧血
      • 発症が夏
        •  J Rheumatol2001;28:101924.
  • 成人におけるIgA血管炎の治療に関してはエビデンスが少ない
    • 症状に合わせて対症療法
    • ステロイドに関しては、関節痛や腹痛には有効だが、ESRDを予防するという観点で腎病変に有効かどうかは議論の余地がある
    • 致命的な臓器病変 or 致死的な合併症では、ステロイドや免疫抑制剤を使用せざるを得ないというのが現状
    • Renらの報告では、成人IgA血管炎で重症腎炎にはMMFが寛解導入とsteroid-sparing agentとしては有効であったが、長期腎予後は不明である
      • Am J Nephrol 2012;36:2717.
    • Pilleboutらの多施設前向きopen-label trialでは、重症腎病変に対するステロイド単剤 or ステロイド+CYCを比較した
      • 腎生検にて増殖性糸球体腎炎含む重症腎炎と診断 or 重症消化管症状を有する54人を対象
        • 主要評価項目である6ヶ月時点での寛解達成率は有意差なし
        • 副次評価項目である12ヶ月の寛解率、腎予後、副作用は有意差なしだが、これは54/200人のみの評価であり注意が必要
        • 全生存率はCYC併用群のほうが良好であった
          • 96% [95% CI 89–100%] vs. 79% [95% CI 64–93%];p=0.08) 
  • KDIGOガイドラインでは、成人IgA腎症も、小児に準じ、CYCは、ネフローゼ or 急速なCr増加を伴う半月体形成性糸球体腎炎(半月体が糸球体の50%以上を占める)である場合を除いて使用すべきではないと推奨している
  • 今回の研究は、成人IgA血管炎における臨床所見と治療に関して調べることを目的とした

方法
  • 多施設、後ろ向きIGAVAS survey 
    • フランスで始まった
  • inclusion criteria
    • 18歳以上
    • 1990年1月〜2015年1月にIgA血管炎と診断されている
    • 組織学的にIgA沈着を伴う小型血管炎を示す紫斑によってIgA血管炎と診断
    • 以下のうち1つ以上の臓器病変あり
      • 腎臓
      • 関節
      • 消化管
  • exclusion criteria
    • IgA血管炎発症前の5年以内に悪性腫瘍と診断
  • complete response(CR)
    • baselineへの改善
      • 腎臓であれば、尿蛋白 < 0.5g/day, 血尿なし、eGFRはbaselineより20%以内の低下
  • partial response(PR)
    • baselineへの少なくとも半分以上の改善
      • 腎臓であれば尿蛋白50%以上の改善(血尿消失には関わらず)、eGFRはbaselineより20%以内の低下
  • relapse
    • 症状が消失してから1ヶ月以上経過した後に血管炎の症状を再度認めた場合と定義
    • minor relapse
      • PSLの増量(20mg/day > )
    • major relapse
      • 免疫抑制剤の追加
      • PSLの増量(20mg/day ≦ )

    • 治療の強度が重症度によって異なることが予想されるので、baseline characteristics(年齢、性別、消化管出血の有無、Cr増加、尿蛋白、紫斑)に応じてpropensity scoreにより解析
    • 腎組織に関しては以前にPilleboutらが行った研究に従った


    結果
    • IGAVAS surveyより304人をスクリーニングし、260人をcriteriaに沿って組み込んだ
      • 44人はIgA沈着なし、血管炎を証明できず、悪性腫瘍併存、データ不足により除外
    • baseline characteritics
      • 平均 50.1 ± 18 歳
      • 男性 63% 
      • 症状
        • 発熱や体重減少などの全身症状 33%
        • 皮膚病変 100%
        • 関節病変 61%
        • 腎病変 70%
          • 平均 eGFR 90ml/min/1.73m2
          • 腎機能低下(eGFR < 60)30% 
          • 平均尿蛋白量 1.5g/day
          • 血尿あり 88% 
        • 消化管病変 53%
        • 平均血清IgA 360mg/dL
          • 血清IgA高値 53% 
        • ANCA陽性 4%
        • ANA陽性 14%



    • 組織学的特徴
      • 皮膚(85%) or 腎臓(腎病変を有するグループの79%)より採取
        • 皮膚
          • 白血球破砕性血管炎 92%
          • 蛍光直接抗体法にて、真皮上層の血管壁へのIgA沈着 81%, 補体沈着 21%
        • 腎臓
          • メサンギウムへのIgA沈着 99%
          • 管外増殖 41%
          • 大半はclassⅡ糸球体腎炎(糸球体の < 50%に限局した管内&管外増殖性病変を含む巣状分節性糸球体腎炎, 49%)or classⅢa糸球体腎炎(中等度の管内増殖性病変を伴う管内増殖性糸球体腎炎, 27%)



    • 治療の種類
      • 27人 コルヒチンのみ
      • 122人 ステロイドのみ
      • 35人 ステロイド+CYC
      • 10人 ダプソン、RTX、MMF、HCQなど他の治療
      • 66人 無治療
    • Table3. 治療別のcharacteritics
      • ステロイド or ステロイド+CYCの治療を受けている割合が多かった群は下記
        • 男性(p=0.004)
        • baselineにおける壊死性紫斑あり(p=0.006)
        • 腎病変あり(p=0.0001)
        • より多い蛋白尿(p<0.0001)
        • 血尿あり(p=0.0005)
        • 管内&管外増殖性病変あり(p<0.0001)
        • 重症消化管病変あり(p<0.0001)



    • 治療の効果
      • characterisitc or 治療内容によって、治療反応性に有意差はなかった
      • PR or CRを得られたのはステロイドのみで80%、ステロイド+CYCで77%、コルヒチンのみで59%(p=0.17)
      • 無治療の群では、85%において、6 or/and 12ヶ月時点で自然に寛解にしていた



    • 病変ごとに各評価時点で残存していた割合は下の通り
    • ステロイドのみ or ステロイド+CYCの治療効果について、多変量傾向スコアで調整したロジスティック回帰分析したのが下の通り
      • PR or CRを達成するには、コルヒチンよりステロイドのみ or ステロイド+CYCのほうがより有用(上の図、全てOR 1の線より右側)
      • しかし、PR or CRを達成するには、ステロイドのみとステロイド+CYCの間では有意差なし(下の図、OR 0.88, 95% CI 0.29–2.67 [P=0.82] for the CS alone group versus OR 0.90, 95% CI 0.29–2.78 [P=0.86] for those receiving CS plus CYC))
        • しかし、「その治療群に割り付けられる確率」の逆数で重み付け推定したinverse probability weightingで解析すると、PR or CRを達成するには、ステロイド+CYCのほうがステロイドのみより有効であった





    • 平均17.2ヶ月(593人年)フォローアップしたところ、8人死亡(そのうち3人はIgA血管炎によるもので、上腸間膜動脈虚血と多臓器不全)、8人はESRDに至り移植 or 透析を受けた
    • 再燃に関して
      • なんらかの治療を受けた群の最初の12ヶ月(107人)で、
        • 14% minor relapse
        • 8% major relapse
      • 無治療群の最初の12ヶ月(10人)で、
        • 10% minor relapse

    まとめ
    • 今回の平均年齢は既報よりは上(50歳 vs. 32-44歳)
    • 腎病変が既報より多い(70% vs. 30-60%)
      • これは腎臓内科医が今回の研究に関わっていたからだろう
    • 今回はサンプルサイズが大きかったので多変量解析がおこなえた
    • しかし、なんらかのバイアスが生じている可能性は試験デザインの点から否定できない

    今回の研究は最もサンプルサイズが大きいスタディでした。
    無治療とされた人たちは軽症 or 増悪傾向にないから無治療にされたんでしょうけど、結構自然寛解も多いんですね。。。
    ステロイド単剤とCYC併用でどちらが有効かは、色々こねくり回してCYC併用がいいかもみたいなデータは出ましたが、決定的とはいえない感じ。

    IgA血管炎の診断がついていて、だんだんCrが悪くなってきて、血尿や蛋白尿もあって、腎生検したら活動性病変があって、けど半月体形成が結構あるとかそんなに派手じゃない場合・・・
    副作用などCYCの毒性なども考慮すると、現時点のエビデンスでは、第一選択はステロイド単剤で治療せざるを得ないでしょうか。なかなか頻度の多くない疾患なのでRCTが組めず、エビデンスの蓄積が難しい領域です。
    にしても統計の話が難しくなると一気に解釈が難しくなるな・・・




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