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2017年9月13日水曜日

巨細胞性動脈炎と帯状疱疹の疫学的関係


Rhee RL, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1031–1035. 

背景

  • Giant cell arteritis(GCA)は50歳以上の成人が罹患する中型〜大型血管炎である
  • 病因は未明な部分が多いが、なんらかの抗原が関与しているともいわれている
    • Rheum Dis Clin North Am 1995;21:102739.
  • 血管の樹状細胞が活性化、T細胞、IFNγ、マクロファージがGCAの病態に関与していることが、なんらかの感染症が発症に関与していることを示唆している
    • Nat Rev Rheumatol 2013;9:73140
  • これまでの既報では、微生物とGCAの関連について、血管検体を用いて証明しようとしてきたが、結果は報告によって相反するものである
  • 最近では、GCA患者から採取した側頭動脈の検体にて、varicella zoster virus(VZV)の抗原を認めたことから、VZVが直接的にGCAの病態に関与しているともいわれ、抗ウイルス薬で治療することの有効性も試験で報告されている
    • Neurology 2015;84:194855.
    • Curr Opin Rheumatol2016;28:37682
    • しかしこれらのエビデンスはまだ弱く、さらなる研究が必要である
    • これらの報告は、これらの微生物がどのように病態に関係しているのか、といった疑問を生じる
  • また、GCAを罹患するのは高齢者なので高齢者における免疫系の加齢による変化が感染症を増加させているのではないか、という意見もある
  • 今回の研究では、大規模コホートを用いて、VZVを含む感染症がどの程度GCAに関与しているのか調べた

方法
  • イギリスのThe Health Improvement Network (THIN), a population-based databaseを用いて、コホート内ケースコントロール研究をおこなった
    • イギリスの1100万人の電子カルテ情報があるデータベースである
  • 対象
    • THINにおける、1994年〜2015年に、GCAと診断されて、ステロイドを処方された50歳以上の患者
    • コントロール群は、GCA患者1人あたり5人を、年齢(5歳前後以内)、性別、一般的なメディカルケアをマッチさせて抽出
  • VZVの診断は、特異性を改善させるために、1ヶ月以内に抗ウイルス薬を処方されたこと、抗菌薬は処方されていないことも含めた
  • VZV以外の感染症に関しては、かかった感染症全体の数と高齢者に多い5つの感染症(呼吸器感染症、尿路感染症、消化管感染症、結膜感染症、皮膚感染症)の数を調べた
  • GCAの症状を感染症と間違えないように、GCAの診断前6ヶ月以内の感染症はprimary analysisには含めなかった
  • 共変数(VZVワクチン接種歴、組み込まれる6ヶ月前より以前にステロイド or 免疫抑制剤処方歴あり、アルコール依存症、喫煙歴、その他併存疾患)はthe Charlson Comorbidity Index(CCI)を使用してカテゴリー化した。

※CCIに関しては、かの有名な「栃木県の総合内科医のブログ」(http://tyabu7973.hatenablog.com/entry/2014/03/15/144502)にわかりやすい説明があるのでご参照ください。




結果
  • 4559人のGCA患者と22795人のコントロールを解析した
    • GCA患者は、ステロイドと免疫抑制剤を、組み込まれる6ヶ月前より前に処方されていた割合が多かった
    • VZVワクチンの接種率には違いはなかった
    • GCA群において、試験組み入れ前の時点で、脳血管疾患(9% vs 7%, p<0.01)、慢性肺疾患(22% vs 15%, p<0.01)、軽度の肝疾患(0.6% vs 0.4%, p=0.02)、胃潰瘍(6% vs 4%, p<0.01)、末梢血管障害(5% vs 3%, p<0.01)、腎疾患(13% vs 11%, p<0.01)が多く、リウマチ性疾患(3% vs 5%, p<0.01)と認知症(1% vs 2%, p<0.01)は少なかった

Data expressed as mean (SD) or percentage.
*Controls were age-matched and sex-matched to cases. Among patients who received a prescription. 

  • 帯状疱疹の既往はGCAで多かったが、抗ウイルス薬の処方ありも含めると統計学的に有意ではなくなった
    • 9% vs 7%, p<0.01 →処方ありとすると p=0.05
  • GCA群では、なんらかの感染症に以前に罹患していた患者が多かった
    • かかった感染症の数が多ければ多いほど、よりGCAのリスクとなった
      • 0 (reference), 1, 2–4 or ≥5 infections yielded IRRs of 1, 1.28, 1.60 and 2.18, respectively (test for trend: p<0.01). 



  • GCA発症より6ヶ月以上前に帯状疱疹に罹患していることは、GCAのリスクであった
    • adjusted IRR 1.17 (95% CI 1.04 to 1.32), p<0.01 

*Adjusted for Charlson Comorbidity Index, alcohol use, smoking history, prior use of immunosuppressive therapies and prior use of oral glucocorticoids. IRR, incident rate ratio. 


  • 帯状疱疹を時期別に階層化すると、GCA発症と帯状疱疹は統計学的に有意でなくなった(5-10年前を除く)
  • 全ての感染症とすると、いずれの時期も有意であった
    • 最も統計学的に有意であったのはGCA発症前1年以内


まとめ
  • 感染症とGCAの関係は、"dose-dependent"な関係で相関があった


最近、GCAがやたら多くて、みんなでなんでだろうね、って話していたら、こんな論文が出ました。
統計学的には有意になってますが、サンプルサイズが大きすぎて臨床的にはわずかな差を捉えているだけかもしれません。本文でも言っているように、GCAが発生するような人がVZVかかりやすいとか、そういう考えかたもありますし。少なくとも、VZVが主因でGCAを発症している、とはいえないのでしょう。

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