ARTHRITIS & RHEUMATOLOGY
Vol. 69, No. 6, June 2017, pp 1135–1143
Vol. 69, No. 6, June 2017, pp 1135–1143
導入
- “Cytokine storm syndrome” とは、様々な症状、多臓器不全、高フェリチン血症を呈し、治療しない場合には死に至ることもある
- これは、免疫活性化が進行し、異常に豊富な炎症性メディエーターが引き起こすものである
- その背景疾患は、リウマチ膠原病疾患、悪性腫瘍、感染症など多様である
- 最初のサイトカインは、敗血症からみつかった
- 敗血症の病態は、微生物が起こすものというよりも、微生物に対する免疫反応といえる
- この考えは、時代を遡ると、すでにWilliam Oslerが1904年に自分の本である”The Evolution of Modern Medicine.”で述べている
- TNF, IL-1βが敗血症の主要なサイドカインとして考えられ、それを阻害するいくつかのtrialが行なわれたが、それらはいずれも失敗に終わり、敗血症に対するこういったアプローチは徐々に廃っていった
- これらの試験が失敗に終わったのは、当初William Oslerが考えていたよりも、敗血症の病態が複雑だからである
- サイトカインストームは、それ自体が病気という訳ではなく、様々な原因の中で共通している病態なのである
- 感染症、自己免疫疾患など異なるカテゴリーに対して、いわゆる”フリーサイズ”の治療がおこなわれているようなものである
- そのため、これからの時代は、それぞれの背景疾患、それぞれの患者に応じて介入する必要がある
- サイトカインストームは、免疫反応のnegative feedbackがなくなり、むしろpositive feedbackがかかってしまっている状態ということは共通している
- これらの共通しているのは、IFNγが主要なサイトカインであることである
サイトカインストームシンドロームの病態
- サイトカインストームに対する理解は、familial hemophagocytic lymphohistiocytosis (FHLH) に対する研究で進んだ
- FHLHは、細胞障害性細胞の機能(パーフォリン)が遺伝的に消失して生じる
- FHLHのモデルマウスに対する研究が進み、IFNγが多臓器障害を起こすサイトカインだと判明した
- FHLHでは、IFNγは、パーフォリンが欠失しているためになんらかに感染した細胞を壊すことができないCD8 T細胞により産生される
- CD8 T細胞の機能が低下していることは、病原体に晒されている時間が長くなり、サイトカインが異常に産生されることに繋がる
- リウマチ膠原病疾患の中では、JIAとAOSDが、サイトカインストームと最も関連がある
- また、サイトカインストームについてこの領域では、組織中に活性化マクロファージがよく見られることから、マクロファージが病態の根幹であるという証拠はないものの、macrophage activation syndrome (MAS)とも呼ばれる
- なぜサイトカインストームがこの病態で生じるのかは明らかでない
- 一部の患者では、FHLHほどではないにせよ、パーフォリンの機能が低下していることは報告されている
- しかし、それに関しては、炎症活性化と治療により修飾された結果かもしれない
- そのため、他の要素も関係しているのだろう
- JIAとそれに関連するMASにおける病態は明らかでないものの、サイトカインの役割は一部の患者でわかってきた
- 2005年、IL-1βが全身性JIAから同定され、anakinra(IL-1受容体アンタゴニスト)が治療として有用であると判明した
- IL-6阻害も有効であるとその後判明した
- しかしながら、IL-6とIL-1βが直接的にMASを起こしている訳ではない
- むしろ、IL-18上昇が、全身性JIAなど様々な原因からMASへの進展に先行していることが関連しているといわれている
- IL-18阻害が、FHLHモデルマウスの臓器障害を改善したが、死亡率は減らせなかった
- また、IL-18受容体シグナルは、全身性JIAにおいては、むしろ低下していることがわかっている
- これらの矛盾する結果を説明するものとして、IL-18受容体シグナルを抑制することがMASへの進展を予防しているのではないかともいわれている。それが破綻すると、MASへ進展する。
- IL-18のMASに関してなんらかの役割を担っていることは、遺伝子異常によりNLRC4インフラマソームが活性化したNLRC4-MAS症候群からも支持される
- また、多くの細胞で、IL-18はIFNγの産生を亢進することがわかっている
- 他の疾患では、SLE, 川崎病、脊椎関節炎、juvenile DMがMASを生じうる
- SLE膵炎はMASのリスクであるが、何故なのかはわかっていない
- SLEにおけるMASでは、IL-18は正常値であるものの、血清TNFが増加していることがわかっており、JIA-MASとも異なる病態である
- しかし、IFNを制御する5つ多型遺伝子が活性化していることが、SLE発症のリスクであることもわかっており、共通する病態もあるのだろう
- juvenile DM-MASでは、IL-6とIL-18が増加しており、JIA-MASと同様である
- 医原性のMASに関しては、薬剤性、処置に伴うものがある
- 最近では、CD19陽性B細胞腫瘍に対するCAR-T療法がサイトカインストームを起こすことがわかったが、それはサイトカインストームシンドロームの病態を示唆する重要なことである
サイトカインストームに対する治療について
- 引き起こした誘因を治療することと、結果として生じた炎症に対して免疫抑制治療をおこなうことである
- 遺伝的な原因の場合には、骨髄移植が選択肢である
- リウマチ膠原病疾患の場合には、背景疾患の治療が不可欠である
- 感染症が誘因の場合には、抗生剤も必要だろう
- ステロイド
- 多くの炎症性疾患は、ステロイドが有効である
- 多くの疾患はmPSLを使用するが、FHLHっでは中枢神経に対してより浸透しやすいデキサメタゾンを使うことが多い
- 細胞障害性薬剤
- 全身性JIAやSLE-MASではCYCが有効である
- FHLHではエトポシドを使用する
- EBV関連HLHでは、RTXが使用される
- しかしながら、特に慢性EBV感染症では、NK細胞やT細胞など他の免疫細胞も関与しているので、最初にRTXを使用してもその後再びウイルス量が増加しうる。その場合には、フローサイトメトリーでウイルスに感染している細胞集団がなんなのか調べることも有用である
- T細胞を直接ターゲットとする治療も有効である
- カルシニューリン阻害薬はFHLHや様々なリウマチ膠原病疾患関連MASに使用される
- アバタセプトも選択肢であり、ケースシリーズでは全身性JIAに対して4例に使用し、既存の治療に追加することで有用性を示した
- FHLHに対するIFNγ阻害薬の試験は現在進行中である
- IL-1 family(IL-1β、IL-18, IL-33)阻害
- IL-1β阻害がMASを抑制することは様々なケースシリーズで示されている
- しかし、IL-1β阻害がJIAの病勢を下げても、MASを予防することはなかった
- NLRC4-MASではIL-18が増加しており、IL-18阻害が有効だったという症例報告あり
- IL-33はIL-1 familyだが、インフラマソームによって産生されるものではない点で区別される
- Th2 CD4陽性T細胞や好酸球、IL-4, 5, 13のようなtype2 の免疫反応を引き起こす
- しかしながら、最近、IL-33がCD8陽性T細胞を介してIFNγ産生を亢進させることがわかった
- IL-6阻害は有望な選択肢である
- しかし、IL-1βと同様、MASの予防効果はなく、不完全なものである
- また、IL-6阻害によりマスクされたMASを、部分的に効いているMASと区別することが難しいだろう
- TNF阻害
- 敗血症に対しる試験では失敗だった
- しかしながら、リウマチ系疾患に対する有効性は明らかであるため、IL-6同様、サイトカインストームを生じている集団のうち、どの集団に有効か明らかにする必要がある
- JAK阻害
- このアプローチは、複数のサイトカインを阻害することができる、経口で投与できることがメリットである
- マウスモデルでは、FHLHとMASに対して有効性を示した
- しかし、複数のサイトカインを阻害するので、副作用も多様である
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