Curr Rheumatol Rep (2017) 19: 39
本文中の図やグラフは元論文より引用しています。
背景
- リウマチ性血管炎(RV)は、関節リウマチ(RA)患者において血管を病変とする炎症性疾患である
- 小型血管を主に病変とするが、中型〜大型も病変になりうる
- 典型的には、RA罹患期間が長く、重症で、血清学的に陽性で、コントロールできていないRA患者に発症する
- RAに対する治療が進歩し、喫煙歴も低下してきたため、以前より頻度は減ってきたが、発症した場合には予後に重大な影響を与える
- 病態には、免疫複合体によるものと細胞障害性によるものの両者が関与している
- これにより、血管壁にダメージを与え、血栓や壊死を生じる
- 治療には、強力な免疫抑制剤、生物学的製剤などを必要とする
- どういったものが発症の予測因子となるか、同様に重症のRAでも発症する人と発症しない人の違いはなんなのか、生活習慣や遺伝的な因子は関与しているのか、小型血管を侵すのみの人と大血管も病変となる人の違いはなんなのか、など、わかっていないことが多数ある
病態
- RV患者は、典型的にはRF高値、補体低下を有しており、免疫複合体の沈着と補体活性化が病態のメインである
- 細胞接着分子やTNFαもまた病態に関与していると考えられている
- Flipoらが、RA患者の口唇唾液腺を調べたところ、活動性のあるRV患者ではICAM-1、E-selectin、TNFαが有意に発現しており、RVを発症していないRA患者では発現していなかった
- CD4+CD28null T細胞、KIR2DS2 (killer cell immunoglobulin-like receptor) 遺伝子、HLA-Cリガンドの関与も示唆されている
- ステロイドやウイルス感染がRV発症のトリガーとなりうる可能性もいわれているが、根拠に乏しい。
- 喫煙はリスクになる。
- p53遺伝子の変異も関与しているかもしれない
- HLA-DRB1 shared epitope genotypes(*0401/ *0401, *0401/*0404, , *0101/*0401)もRV発症に関わっているかもしれない
- HLA-DRB1*04 shared epitope アレル欠失患者では、HLA--C3が増加している
疫学
- これまでに報告されているリスク因子
- 男性
- 高齢
- RA罹患期間が長い
- リウマチ結節
- 関節手術の既往
- 関節外病変あり
- 骨びらんあり
- 併存する血管系疾患
- 生物学的製剤の使用歴(しかしこれは単にRA病勢の活動性を示しているに過ぎない可能性あり)
- 喫煙
- 保護的な因子
- ヒドロキシクロロキンの使用
- 低用量アスピリンの使用
- the Norfolk Vasculitis Register (NORVASC) のデータでは、1988-2000年では年間発症率 9.1/100万人だったのが、2001-2010年では年間発症率 3.9/100万人だった
- 他の研究でも、同様に発症率の低下を報告しているものが複数ある
臨床的特徴
- RVの臨床症状は多様である(table1)
- 小型〜中型血管を侵しうり、全臓器に障害をきたしうる
- 頻度が多いのは皮膚、眼、末梢神経、腎、肺、消化管、中枢神経である
- 皮膚は90%の患者で障害される
- 散財する爪床梗塞が最も典型的で、他には足の潰瘍、壊疽性膿皮症、触知性紫斑、下肢有意の指尖虚血がある(figure1)
- 下肢の潰瘍は足背や足首の近位に生じやすく、動脈硬化性疾患とは異なる所見である
- 眼は16%で症状を呈する
- 強膜炎が典型的で、重度になると潰瘍性角膜炎を呈する。感染の除外が重要である。
- 肺、腎臓、消化管、中枢神経病変は稀であるが、発症した場合は致死的になる
- びまん性肺胞出血はANCA関連血管炎やGood-Pasture症候群に類似する
- 結節性多発動脈炎に似たような多発単神経炎、紫斑、消化管出血を呈するが、微小動脈瘤は認めない。虫垂、胆嚢、精巣に病変を呈した例も報告されている
- 病理解剖にて冠動脈や大血管に病変を呈していた例も報告されているが、臨床的に動脈硬化性疾患との鑑別は困難である
- しかしながら、NORVASCとMayo Clinicのレジストリーでは、冠動脈炎を発症した例はなかった
- 他に心臓にきたしうるのは心膜炎である
- Felty症候群はRVへ進展することがある
- 最近の報告では、RA治療の進歩に伴い、リウマチ結節やFelty症候群も減少している
- 最初のRVの報告は1898年である
- その後の報告で、RVの概念は、RAを長年罹患して関節を破壊し活動性関節炎がすでに沈静化し"burned out"したものとなった
- RV発症までの平均期間は、NORVASCレジストリーでは15.6年、Mayo Clinicレジストリーでは10.8年だった
- RA発症5年以内にRVを発症した症例報告も複数ある
- 血管炎発症時には、炎症性マーカーの上昇や全身症状がしばしば先行する
- 関節病変は低疾患活動性だが、リウマチ結節やFelty症候群など関節外病変を有することが多い
- これはSLEに伴う血管炎とは異なり、SLEでは疾患活動性がフレアした時に生じやすい
- RF高値であることが通常だが、これはRV発症リスクとはならないことが報告されている
- 1984年、ScottとBaconは、全身性RVを以下のうち1つ以上を有するものと定義した
- 多発単神経炎
- 末梢の壊疽
- 生検での壊死性血管炎の証明と全身症状(発熱、体重減少など)
診断
- 臨床所見、検査所見、画像所見、皮膚や神経や筋肉の生検結果に基づいて診断される(table2)
- 生検が診断には重要であり、皮膚生検が最も侵襲が小さい。
- 病理所見としては、小型血管の3層(外膜・中膜・内膜)全てに好中球・リンパ球・形質細胞の浸潤を認め、血管壁の破壊を伴う
- SLE血管炎では、後毛細血管が標的となる
- 血清学的に陽性のRA患者において、皮膚や神経症状を呈した場合にはRVを疑う
- その場合には、どの臓器まで病変となっているのか全身を調べることが重要である
- 血液検査などのLaboratory dateは、診断を支持するが、それによって診断できることにはならない
- 典型的には、炎症マーカーの増加、血小板増加、貧血、低アルブミン血症を呈する。
- RAでは認めないような低補体、クリオグロブリン血症も認めうる。
- C4低下は予後不良因子である。
- RF、CCP抗体は陽性である。これらの陰性所見は、RVを90%の確率で否定できる。
- ANCA(特にp-ANCA)は36-48%で陽性となるが、MPOはANCAは陰性となる。p-ANCAは通常ラクトフェリンに対する抗体である。
- 針筋電図では、神経障害の所見を認める。
- eiologyを調べるには、神経生検が考慮される
- 消化管病変がある場合には、結節性多発動脈炎の鑑別で微小動脈瘤の有無を腸間膜動脈造影で調べる必要がある
鑑別疾患
- 下肢の紫斑:ITP、Henoch-Schonlein紫斑病
- 難治性潰瘍:動脈硬化性疾患(病変部位、治療反応性、生検結果でRVと鑑別できる)
- TNFα阻害薬やTCZによる薬剤性血管炎も考慮される
- HBV関連結節性多発動脈炎、HCV関連クリオグロブリン血管炎、他の感染症関連血管炎
- ANCA関連血管炎
治療
- RCTはこれまで行われておらず、確立した治療はない
- 重症の全身性RVの場合は、高用量ステロイドとCYCによる強力な免疫抑制治療を行うことが多い
- 血漿交換も行なわれることがある
- 最近のMayo Clinicからのretrospective case-control研究では、86人のRV患者において、1/3は高用量ステロイド+CYC、残りはMTX, AZA, MMF, 生物学的製剤(TNFα阻害薬、RTX、ABT、anakinra)で治療された。TNF阻害薬による血管炎が何例か報告されていたものの、TNF阻害薬の治療は有効だった。
- Rheumatology (Oxford). 2014;53(5):890–9.
- 2008年に報告されたものでは、通常の免疫抑制治療によって再発したRV患者において、5/9例(56%)でTNF阻害薬によって寛解を達成した
- Ann Rheum Dis. 2008;67(6):880– 4.
- フランスのAutoimmunity and Rituximab (AIR) Registry からの報告では、RTXを使用した17例で、6ヶ月時点で71%、12ヶ月時点で82%の割合で寛解を達成した
- Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64(3):331–9.
- リウマチ性血管炎に対するRTX
- ABT, TCZに関しては、症例報告レベルで有効性を報告したものがある
- 爪床のみの血管炎は、そこまで重症化しないかもしれない
- UKからの30人の爪床血管炎のみの患者と47例の全身性RVの患者を観察した報告では、爪床血管炎のみの患者ではほとんど全身性血管炎に進展せず、積極的な治療を必要としなかった
- 上記より、病変の臓器に応じて治療強度を検討し、致死的な臓器病変であれば、高用量ステロイド+CYC, もしくはRTXを含む生物学的製剤が検討される。生物学的製剤を使用する場合には、薬剤性血管炎の誘発にも注意する。心膜炎や皮膚のみの比較的軽症の場合は、経口DMARDsなどの方がより適切かもしれない。また、禁煙、血圧管理、皮膚の局所処置も重要である。
予後
- Scottらの50例の報告では、再発が多く、致死率は30%と報告されている
- Medicine (Baltimore). 1981;60(4):288–97.
- Mayo Clinicからのretrospective case-control研究では、5年死亡率は26%だった
- Rheumatology (Oxford). 2014;53(5):890–9.
- NORVASC 2001-2010 RV cohortでは、1年間の死亡率は12%, 5年死亡率は60%だった
- Rheumatology (Oxford). 2014;53(1):145–52.
- フランスのAIR Registry Cohortでは、33ヶ月間のみのフォローであるが、88%が寛解を維持した
今後の展望
- RTXなどのB細胞除去を標的にした治療が有望である
- TNF阻害薬も有効であるが、それ自体が血管炎を誘発する可能性がある
- ABTやTCZなども候補であるが、現時点ではデータに乏しい
- ヒドロキシクロロキンや低用量アスピリンが保護的に作用するか調べる必要がある
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