Caorsi R, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1648–1656.
背景
- the deficiency of adenosine deaminase2(DADA2)は、CECR1遺伝子がホモ接合もしくはヘテロ接合体の組み合わせによって機能低下することに起因する自己免疫疾患と知られている
- DADA2は、臨床的・組織学的に早期発症の結節性多発動脈炎(PN)として認識され、出血や虚血性梗塞を生じる
- メモリーB細胞や最終分化したB細胞、形質細胞の低下によって、低γ-globulin血症を認める
- 血球減少により重症にもなりうる
- 典型的には小児発症だが、成人で発症する例も報告されている
- ADA2はADA1と相同性をもつ蛋白であり、重症複合免疫不全と関連がある
- ADA1, ADA2は、それぞれadenosineをinosineへ、2′-deoxyadenosine を 2′-deoxyinosine へ代謝することでプリン作動性シグナル経路を制御する
- ADA1は全ての細胞に発現しているが、ADA2は多くの単球と骨髄系細胞に発現している
- ADA2は、内皮細胞や造血細胞の発生に、成長因子として重要な役割を果たしている
- また、ADA2のautocrine機能により、単球の増殖とマクロファージの分化が可能となる
- ADA2欠損患者の単球は、M2(抗炎症)マクロファージへの分化ができず、M1(炎症)マクロファージが優位となる
Martinon, F. & Aksentijevich, I. Nat. Rev. Rheumatol. 11, 11–20 (2015)
http://emeneki.com/knowledge/tcell_bcell/detail01.htmlより引用
- これまで、18種類のCECR1遺伝子の変異が報告されている
- p.G47R変異は、Georgian JewishとTurkish由来の患者の大半であるホモ接合に認める
- この変異の頻度は、Georgian Jewishの10%に認める
- p.R169Q変異は、北欧に住んでいるコーカサス人集団に最も多い変異で、頻度は2/1000人にも及ぶ
- 今回の研究では、早期発症のPN患者として認識されている臨床症状を呈する患者群におけるCECR1遺伝子変異の保有率を調べた
方法
- 2014年9月から、the Italian centres of Pediatric Rheumatology で始めた
- 対象
- 慢性、再発性の全身性の炎症を伴う早期発症のリベドがある
- 全身の炎症を伴う出血性/虚血性脳卒中 or 末梢神経障害
- 小児発症のPNと診断されている
- 末梢血のリンパ球からDNAを採取し、CECR1遺伝子をコードする全9つのexons(2 - 10)を解析
- 単球のサイトカインprofileも測定
- 単球のADA2酵素活性を測定
結果
- 2014/3-2016/6の期間で、8個のイタリアの医療機関から、43家系48人を抽出
- 14人:慢性、再発性の全身性の炎症を伴う早期発症のリベドがある
- 13人:全身の炎症を伴う出血性/虚血性脳卒中 or 末梢神経障害
- 20人:小児発症のPNと診断されている
- ホモ接合もしくはヘテロ接合の組み合わせによるCECR1遺伝子変異は11家系15人に認めた
- 4つの異型(G47A, G47R, P251L, Y435C) は、すでにDADA2と関連があると知られているもの
- 6つの異型 (c.138_144delG, L249P, R312X, E328D, P344L, T360A) は、新しいものだった
- Patient3の両親は血族結婚だった
- Patient13と14は、血族関係もなく、住んでいた地域も異なる場所の両親から生まれた
- 他の12人は、血縁関係のない両親から生まれた
- 生存している5家系の両親を調べたところ、全例、1つのCECR1遺伝子変異を認めた
- G47Vは、単一の変異で疾患感受性をもつ、唯一の遺伝子欠損として、発症している2人の兄弟と発症していない彼らの父、兄弟に認めた
- 複数の共通のSNIP(L46L, N53N, H335R, Y453Y)を、CECR1遺伝子変異をもつ患者と遺伝的には問題のない31人の患者の両者に認めた
- 遺伝子検査でDADA2と確定した15人の患者の、個々の経過はtable1
- 2人:慢性、再発性の全身性の炎症を伴う早期発症のリベドがある
- 10人:全身の炎症を伴う出血性/虚血性脳卒中 or 末梢神経障害
- そのうち7人は組織学的にPNと診断された
- 2人:小児発症のPNと診断されている
- 遺伝子検査をされた時点の平均年齢は16.5歳(range 1-35歳)
- 9人は子供、6人は大人
- 急性炎症反応蛋白は1人を除いて全例上昇
- 好中球減少など、重度の血液異常を示した例はいなかった
- なんらかの治療が必要となった低γ-globulin血症(IgG < 500mg/dL)は3人のみ
- 12人はIgMが低値
- 繰り返す感染症のエピソードをもつ患者はいなかった
- 遺伝子検査ではnegativeだった21例の患者について
- 発症が比較的遅い
- 平均7歳(range 2ヶ月-16歳)vs. 平均2.9歳(range 3ヶ月-7.5歳)
- リベドが少ない
- 38% vs. 86%
- 皮下結節が多い
- 71% vs. 20%
- 中枢神経病変が少ない
- 14%(3人のみ)vs. 66%
- 末梢神経障害が少ない
- 16% vs. 60%
- 低γ-globulin血症の頻度は有意差なし
- DADA2患者では、年齢で調整した健常人よりADA2活性が低かった
- ADA1 inhibitorの存在の有無に分けて、adenosineで刺激した患者由来の細胞の上清におけるinosineとhypoxantine濃度を評価することで、末梢血中の単球におけるADA2活性を解析した(正常では、ADA2によってadenosineからinosineとhypoxantineへ代謝される)
- DADA2患者では、健常人と比較してinosineが少なく、酵素活性が低下していた(figure2A)
- Patient4は臨床症状が軽症だったが、酵素活性もわずかに残っていた
- ADA1活性はいずれも正常だった(データなし)
- Ctr1, Ctr2は皮膚PNの患者で遺伝子的に問題ない患者であり、ADA2酵素活性は正常だった(figure2A)
- Ctr3は、DADA2の臨床症状と呈しているがCECR1遺伝子変異を認めない患者であり、ADA2酵素活性は完全に欠失していた(figure2A)
- しかしながらこの患者では血清のADA2酵素活性は健常人と同等であり、非典型的なCECR1遺伝子変異を有していると考えられ、通常のシーケンサーでは発見されなかった
- ヘテロ接合でDADA2の臨床症状を呈していたPatient 16, 17も完全に酵素活性が欠失していたが、両親は酵素活性があった(figure2B)
- 治療に関して
- すべての患者で、NSAIDsに部分的に反応し、高用量ステロイドによって寛解したが、ステロイド漸減に伴って再燃した
- 最も重症の症状が、いずれもステロイド漸減もしくは中断後に出現していた
- 免疫抑制剤(AZA, CyA, CYC, MTX, MMF)はいずれも無効だった
- Patient5は、IL-1受容体阻害薬を使用したが無効だった
- 興味深いことに、サリドマイド(平均用量 2mg/kg/day, 最大50mg/day)を使用した7例のうち、6例で寛解に至った。そのうち3例は、それぞれ20ヶ月、25ヶ月、5年の治療ののちに神経毒性のために中断した。
- 10人はTNF阻害剤を使用して9例で寛解した。1例のみ未だステロイド依存性である。
- 全てETNを使用しており、現在の平均治療期間は、3.9年(range 0.9-13年)
- いずれも重度の感染など副作用の報告なし
- ヘテロ接合であるpatient16, 17も良好な治療反応性を得ている
- 疾患活動性のあるDADA2患者(patient3)と、寛解にある3人のDADA2患者(patient 6, 7, 9)の単球由来のサイトカインprofileはを調べた
- 寛解状態にある患者の、LPSで刺激した単球からは、TNFαが健常人よりも多く産生された
- 疾患活動性の高いpatient3でもTNFα産生が亢進しており、TNF阻害薬による治療を開始した1ヶ月後に測定すると低下していた
まとめ
- ヨーロッパのコーカサス人における、DADA2患者の最も大きなケースシリーズである
- 今回の研究で、新たな6つの疾患の原因遺伝子を同定した
- DADA2患者は、典型的には血管炎、脳卒中、低γ-globulin血症を呈するが、遺伝子変異の有無によって症状も異なる
- 治療にはTNF阻害薬やサリドマイドが有効である
- 通常は小児発症だが、典型的な症状(早期発症、リベド、脳卒中の既往)の場合には成人でもCECR1遺伝子のスクリーニングは考慮すべき
- patient4のように、皮膚病変のみのPNで軽症でも、CECR1遺伝子変異はありうる
- 今回の研究では、イタリア人の一般集団におけるCECR1遺伝子変異の保有率はわからない。血球減少などの血液異常の評価も不十分。
- ヘテロ接合のキャリアもいたため、他の自己免疫疾患でもいわれているように、DADA2も複数の遺伝子の関与が示唆される
- 中枢神経病変、末梢神経病変、聴力障害などが予後に影響する病変である
- 心筋炎もpatient3で認めており、致死的である
小児のリウマチ膠原病関連疾患を診察する機会がないので、あまりDADA2に関しては知識がなかったですが、日本におけるDADA2患者の有病率とかってどうなんでしょうか。
川崎病とかは小児科研修で診ていましたが、彼らもDADA2と関連があるのかな。。。
もし日本でも、一部のPN likeな臨床症状を呈する患者にDADA2があると診断できれば、TNF阻害剤やサリドマイドが有効なようなので、今までみたいにステロイド、AZA, CYCに頼らずに副作用も少なくて済むかもしれないですね。
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