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2017年10月29日日曜日

生物学的製剤によるhypersensitivity reactions (HSR) のreview


Rafael Bonamichi Santos, MD, Violeta Régnier Galvão, MD, PhD
Monoclonal Antibodies Hypersensitivity Prevalence and Management 

Immunol Allergy Clin N Am 37 (2017) 695–711

本文中の図やグラフは元論文より引用しております。

背景

  • 最初の抗体製剤は、それぞれの疾患に特異的な蛋白構造の変異や欠失をターゲットに1970年代に開発された
    • 現在では悪性腫瘍、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患の治療の主流を担っているが、これらの薬剤によるhypersensitivity reactions (HSR) も増加している
  • 抗体製剤の第一世代は、特異的な抗原に結合する部位と、Fc受容体に結合するFc領域を有するmonospecific/bifunctional抗体だった
    • 2009年に、catumaxomabが悪性腫瘍に伴う腹水の治療に承認んされた
  • bispecificな抗体製剤には、3種の型が存在する
    • Trifunctional抗体
      • 2つの異なる抗原に結合する部位に加え、単球・マクロファージ、NK細胞、樹状細胞などのFc受容体に結合するFc領域を有し、標的細胞を攻撃する
    • Chemically linked Fab
      • Fab領域のみ有し、2つの異なる抗原に結合する
      • 1つのFabは標的細胞に結合し、もう1つはマクロファージなどのFc受容体を有する免疫細胞に結合する

    • Bispecific T-cell engager: (BiTE)法
      • 2つの単鎖抗体(single-chain variable fragments)で構成される融合蛋白。それぞれの蛋白は異なる抗体、アミノ酸で構成される。
      • 種々の標的抗原に対する抗体と、T細胞の活性化能を有する抗CD3抗体を結合させた二重特異性抗体を介して、標的細胞に細胞障害性T細胞(CTL)を引き寄せ、抗CD3抗体の機能によってCTLを活性化し、その細胞障害活性によって標的細胞を効果的に除去する
※単鎖抗体

  • 抗原結合ドメイン(Fvドメイン)をフレキシブルリンカーで連結した融合タンパク質
  • IgG に比べ分子量が1/5と小さく、血管から組織への移行はIgG そのものよりスムーズに行える
  • 微生物でも比較的容易に発現可能なので大量生産できる


<メカニズム>
  • モノクローナル抗体製剤が有効性を発揮するメカニズムには、下記があげられる
    • 標的分子の機能を正常化する
      • IFX(TNF阻害剤)
    • 標的受容体を阻害して、シグナル経路を調節するもの
      • ipilimumab(抗CTLA-4抗体)
    • 細胞のアポトーシスを誘導するもの
      • 細胞障害型
      • 補体介在型
      • 製剤のFc領域に毒性分子を有するもの
        • tositunomab, brentuximabなど

<HSRの種類>
  • HSRの種類について
    • type1
      • 投与後30−120分で出現
      • 以前に投与歴があり感作されている
        • cetuximabは例外。この薬剤に対するIgE介在性反応はマダニ(Amblyomma americanum)に以前に噛まれていると生じうる
      • 皮膚、呼吸器、消化管、心血管、神経系などあらゆる臓器が障害される
        • 皮下投与された場合には局所反応が生じる
      • 投与後1時間で軽快する
    • IgG介在性
      • これに関してはまだ研究されている段階である
      • 動物モデルでは、抗体製剤に対するIgG抗体が産生され、それがマクロファージ・好塩基球・好中球などのFcγ受容体に結合し、血小板活性化因子を放出する
      • また、大きな免疫複合体によって補体経路が活性化され、アナフィラキシーを生じることも言われている
        • このタイプではtype1に臨床症状が似ている
    • type3
      • 免疫複合体(抗体とその抗体に対する抗体)が皮膚・腎臓などの臓器の小血管に沈着して生じる
      • 投与後5ー7日で生じることが多い
      • 発熱、倦怠感、筋痛、関節痛、紅斑、浮腫、紫斑、結膜充血など
    • type4
      • 遅発性の細胞障害性HSRは、いくつかの皮下投与で生じる
      • 典型的には4回目の投与後で生じる
      • 投与後1時間で投与部位局所の反応が始まり、数日で軽快する
      • SJS, TENなど重篤となることもある
    • cytokine storm reactions
      • FcγR受容体を有するマクロファージなどの免疫細胞活性化によって放出されたpro-炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1、IL-6)が原因
      • 重篤化することは少ない
        • anti-CD28 mAb の治験では、これによって6人のボランティアが多臓器不全に陥ったことは念頭に置いておく必要がある
      • 脱感作が考慮される
    • 混合型
      • type1に関連するcytokine stormである
      • 皮膚反応や特異的IgE抗体が陽性となる


<抗体別の各論>


  • TNF阻害薬
    • IFX(レミケード)
      • キメラ型TNFα阻害薬
        • 初回投与時にHSRが生じうるが、最も頻度が高いのは7回目の投与である
      • IgG型の抗IFX抗体陽性であることが HSRのリスクとなる
      • IgE介在性の反応も報告されている
      • HSRを生じた人では、IFXに対する皮膚試験とIgE型抗IFX抗体がそれぞれ28%, 21%で陽性になる
        • 健常人ではそれぞれ3%, 10%
      • 遅発性反応は投与後1-14日で生じうる
        • type3反応に似て発熱、倦怠感、筋痛、関節痛、紅斑、浮腫、紫斑、結膜充血を呈することもある
    • ETN(エンブレル)
      • TNF受容体とIgGの融合蛋白である
      • 投与部位局所反応は37%の症例で認める
      • IgE介在性のHSRも報告されており、脱感作は比較的成功する
    • ADA(ヒュミラ)
      • 完全ヒト化TNFαモノクローナル抗体
      • 投与部位局所反応は20%で認める
      • 皮膚試験陽性の場合には、即時型HSR, 即時型投与部位局所反応、遅発型投与部位局所反応が起こりうる
    • GOL(シンポニー)
      • TNFαに対するヒト化IgG1kモノクローナル抗体製剤
      • 投与部位局所反応を4.4-20%で認める
      • 皮疹を3.1-10.9%で認める
    • CZP(シムジア)
      • TNFαに対するヒト化モノクローナル抗体製剤
      • 投与部位局所反応は0.8-2.3%と報告されている
      • アナフィラキシーの報告なし

  • CD20抗体
    • RTX(リツキサン)
      • キメラ型CD20抗体
        • IgE介在性HSRを5-10%で生じる
        • 初回投与で即時型HSRを起こしうる
          • B細胞系悪性腫瘍に対して投与する場合には、前投薬を行っても半数以上で生じる
        • cytokine storm型、血清病型(type3)も報告あり
    • Ofatumumab(Arzerra)
      • 完全ヒト化CD20抗体
      • 半数の患者で、cytokine storm型の即時型反応を生じる
      • 投与時反応は2回目以降では稀
    • Obinutuzumab(Gazyva)
      • 細胞溶解性CD20抗体
      • 初回投与時反応は38-65%と多い
        • 嘔気、倦怠感、めまい、下痢、高血圧、紅潮、頭痛、悪寒など
        • 重症となるのは20%
      • 古典的即時型HSRも報告されている
        • 血圧低下、頻脈、呼吸困難、気管支痙攣、喘鳴など

  • 抗human epidermal growth factor receptor 2 (HER2) 抗体
    • Trastuzumab(ハーセプチン)
      • human epidermal growth factor receptor 2 (HER2) に対するヒト化モノクローナル抗体製剤
      • 40%の症例で初回投与時に悪寒、発熱を生じるが、重症化するのは稀である
      • 皮膚試験陽性のIgE介在性HSRは起こりうるが、脱感作は有効である
      • 膿疱やざ瘡様の皮疹も副作用として報告されている
    • Pertuzumab(Perjeta)
      •  (HER2) に対するヒト化モノクローナル抗体製剤で、HER2陽性乳がんに対してTrastuzumabとドセタキセルと併用する治療が承認されている
      • 発熱、悪寒、頭痛、倦怠感など投与時反応が報告されている
      • 38歳の乳がん患者において、2回目の投与の際に、好塩基球反応(BAT)陽性IgE型HSRとトリプターゼ増加が報告された。彼女は脱感作によって再投与が可能となった

  • 抗IgE抗体
    • Omalizumab(Xolair)
      • ヒトIgEに発現する受容体に対して結合する高親和性のヒト化抗体
      • アナフィラキシーの頻度は0.2%
        • トリプターゼは増加しておらず、抗体に対する特異的IgE抗体やIgG抗体も見つかっておらず、そのメカニズムは不明
        • 投与後1日経過してから発症した遅発性のアナフィラキシーも報告されている
        • 添付されているポリソルベートに対する反応も考えられている
      • 投与1−5日後に生じる血清病(type3)症状も報告されている
      • 投与部位局所反応は45%
        • 投与1時間で生じ、8日間程度で消失
      • 脱感作ができたケースも報告されている

  • 抗CD30抗体
    • Brentuximab vedotin(Adcertris)
      • キメラ型
      • 12%で悪寒、嘔気、呼吸困難など投与時反応が生じる
      • アナフィラキシーを生じた症例に対して脱感作が成功した症例も報告されている

  • 抗EGFR受容体抗体
    • Cetuximab(Erbitux)
      • IgG1キメラ型抗体
      • 初回投与で重度の即時型HSRを生じた症例の大半でα-1,3-がラクトースに対するIgE抗体が陽性
        • これはマダニに以前に噛まれていることと関連する
      • 治療前にトリプターゼ増加とCetuximabに対するIgE抗体が陽性である重症アナフィラキシーも報告されており、事前にCetuximabに対するIgE抗体をスクリーニングすることが有効かもしれない

  • 抗VEGF抗体
    • Bevacizumab(Avastin)
      • IgG1ヒト化抗体
      • 非特異的な皮疹や紅皮症を生じることがある
      • 硝子体内投与で遅発性の皮膚反応を呈した症例も報告されている
      • 静脈内投与で皮疹、浮腫など即時型HSRを呈した症例も報告されているが、脱感作も成功している

  • IL-6に対する抗体
    • Tocilizumab(アクテムラ)
      • IL-6受容体に結合するヒト化モノクローナル抗体製剤
      • アナフィラキシー症例では皮膚試験陽性となりうる
      • 脱感作も報告されている
      • CD4陽性T細胞と好酸球浸潤を伴う皮疹を呈した遅発型HSRも報告すレテいる

  • CCケモカイン受容体4に対する抗体
    • Mogamulizumab(Poteligeo)
      • IgG1ヒト化抗体
      • 71歳の女性で、T細胞白血病に対して使用した8回目の投与でSJSを発症した症例が報告されている

  • Epithelial Cell Adhesion Molecule/CD3 に対する抗体
    • Catumaxomab(Removab)
      • ラットとマウスのハイブリッド型、IgG2モノクローナル抗体製剤
      • cytokine storm型症状の報告あり


<どのtypeか特定するバイオマーカー>
  • type1
    • トリプターゼが増加
      • 反応が生じた30-120分時点で血中のトリプターゼを測定し、増加していれば2日以降に再び測定する
      • 正常範囲より増加、もしくはbaselineより20%以上かつ2 ng/mL以上増加していれば、肥満細胞が活性化していることを示唆する
      • 即時型HSRでも正常となる例があり、これは好塩基球を介したアナフィラキシーの場合である
    • 皮膚反応陽性
      • IgE型反応を疑う場合、被疑薬である抗体投与後2-4週間以内に行う
      • 投与濃度は下の通り
 
    • 好塩基球反応(BAT)陽性
      • 即時型HSRの際に有効
  • cytokine storm型
    • IL-1, IL-6, TNFαを測定する
  • type4
    • 皮内反応が遅発性に陽性化する


<HSRの際の対応>
  • エピネフリンの投与が遅れないことが重要
    • エピネフリンの反応が悪い際には、血管内volume不足やβ遮断薬の使用を疑い、補液とグルカゴンを使用する
    • ステロイドと抗ヒスタミン薬はエピネフリンの代わりにならない
  • 気管痙攣にはアルブテロール吸入
  • 投与局所部位反応には局所のリドカイン投与や冷却、ステロイド外用が有効


<脱感作>
  • 即時型HSRに対しては脱感作が有効かもしれない
  • まずは以下のアルゴリズムで脱感作を試みるべきか検討する


    • IgE介在性HSRでは脱感作が成功しやすいが、IgG型やcytokineでは重症度による
    • 脱感作方法の例は下の通り
      • 5.7時間かけて、3種類の溶解液を作成して、12段階を要する
      • 最初の溶解液に含まれる製剤は1/100、次は1/10、最後は最後は目標投与量からそれまでの投与量を差し引いて計算する
      • 最終段階に最も時間をかけて投与する
      • これで問題ない場合にも、成功は一過性のことがあるので、毎回同じプロトコールでそれ以後は投与する必要がある

      • 前投薬は最初のHSR重症度に準じて使用
        • アセチルサリチル酸、モンテルカスト、アセトアミノフェンは、flushing、気管痙攣、発熱に対してそれぞれ使用する
      • アナフィラキシーだった場合には、16段階/4種類の溶解液を使用する方法も報告されている
      • 脱感作中にHSRが再び生じることも30%の頻度であり、最終段階で最も多い
        • その際には中止する
        • 再び生じた場合には、当初のHSRより軽症のことが多いが、アナフィラキシーも生じうる
        • 16段階/4種類の溶解液を使用する方法に切り替えれば成功することもある
    • 皮下投与製剤の場合でも上記のような脱感作が有効なことがある

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