Arthritis Care & Research
Vol. 69, No. 9, September 2017, pp 1384–1390
Vol. 69, No. 9, September 2017, pp 1384–1390
本文中の図やグラフは元論文より引用しております。
背景
- 高安病は、大動脈とその第一分枝を病変とする全身性血管炎である
- 潜在的に進行し、非特異的な症状を呈するので、診断が遅れやすい
- 血管炎により、血管狭窄・閉塞、血管拡張、動脈瘤が生じる
- 臨床的には四肢末梢循環不全、慢性高血圧、脳血管障害、心血管障害が生じる
- 疫学
- スカンジナビアのコホートでは、高安病の発症率は1年あたり 0.4-2/100万人と報告されている
- ノルウェイでの有病率は25/100万人だった
- 妊娠可能年齢の女性に発症するのが典型的なので、妊娠に及ぼす影響が重要である
- 既報では、妊娠が疾患活動性に影響することはなかったが、妊娠合併症である高血圧・子癇・早産・流産・子宮内胎児発育不良に関連するといわれている
- 妊娠合併症の頻度は報告によってまちまちであり、日本・北米・ヨーロッパからの報告では妊娠予後は良好だったが、インドからの報告では不良だった
- フランスの多施設研究では、高安病患者において53%でなんらかの妊娠合併症を発症した
- 上記のような専門施設からの報告では一般人口と比較してデータを出すことが難しく、これまで患者申告による報告がなかったので、今回の研究ではそれに関して調べた
方法
- 2013年、ノルウェイの南東に在住する全ての高安病患者を含むコホートを設立した
- 組み込み基準はACR分類基準もしくは石川診断基準を満たす
※高安大動脈炎分類基準:ACR1990年
<項目>3項目以上で分類する。
1. 高安大動脈炎と関連する症状や所見が40歳以下で出現
2. 一つ以上の四肢、特に上肢で、運動時に筋肉の疲労感や不快感が増悪する
3. 片側または両側上腕動脈の脈動の低下
4. 両上肢間で収縮期血圧が10mmHg以上差がある
5. 片側あるいは両側の鎖骨下動脈、あるいは腹部大動脈で血管雑音を聴取する
6. 大動脈、主要分枝、四肢の中枢の大血管で画像上の狭窄や閉塞を認める。ただし動脈硬化、線維筋性異形成などによるものではない
- 人数:78人(女性68人)
- 妊娠・出産回数、妊娠結果などについては質問票を利用。妊娠合併症はカルテも利用。
- 画像検査によって以下の通り分類
- Ⅰ: 大動脈弓分枝のみ
- Ⅱa:上行大動脈、大動脈弓とその分枝
- Ⅱb:Ⅱa+胸部下行大動脈
- Ⅲ:胸部下行大動脈、腹部大動脈、腎動脈、あるいはそれらの組み合わせ
- Ⅳ:腹部大動脈、腎動脈、あるいはその両方
- Ⅴ:全大動脈とその分枝、Ⅱb+Ⅳ
- 疾患活動性についてはNIHの基準を利用
- 2つ以上を活動性ありと診断
- 全身症状
- CRP or ESR上昇
- 血管病変による虚血症状(四肢の破行、脈拍欠失、bruits、血圧の左右さ、血管炎による疼痛)
- 画像上での新規血管病変の出現
- 寛解の定義
- 臨床所見・検査所見の正常化
- 新規血管病変なし
- 寛解維持の定義
- PSL < 10mg/dayにて、上記寛解を少なくとも6ヶ月間維持している
結果
<Characteristics of this cohort>
- 上記コホートにおける女性68人のうち、58人(88%)から同意をえて解析(table1)
- 平均発症年齢:30.3歳
- 平均フォロー期間:11.7年
- 妊娠歴あり:44人(76%)
- 計妊娠回数:110回
- 発症前の妊娠:73回
- 発症後の妊娠:37回
- 妊娠した女性(44人)のうち、出産した人数:41人
- 出生した新生児の数:76人
- 2回以上出産した人数:27人(47%)
- 高安病発症後に出産した人数:17人
- 出生した新生児の数:25人
- これらのうち、2000年以後に出産:79%
- このうち4例は、発症後に生まれ、診断は出産後だった
- 1人は海外で妊娠、出産した。重症子癇、脳梗塞を起こした。
- もう1人は35週で早産だった。
- もう1人は妊娠経過中にCRP増加、血管痛あり第3半期で診断された。27週で緊急で帝王切開した。
- 早産、過期産、中絶の頻度は、高安病発症前後の妊娠で差はなかった
- しかしながら、帝王切開の頻度は高安病発症後の妊娠で有意に多かった
<妊娠前後の疾患活動性について>
- 高安病発症後に妊娠し、無事に出産した17例のうち、14例で妊娠前の疾患活動性のデータを得られた
- 寛解でなかった人(NIH>0):10人(60%)
- 無治療で寛解を維持(>6ヶ月間):3人(18%)
- 寛解(<6ヶ月間):1人(6%)
- 高安病発症後に妊娠した計23人(計24妊娠)のうち、妊娠前6ヶ月以内のL/Dについて
- CRP増加 or ESR増加:15妊娠(63%)
- NIH ≧ 2:14妊娠(58%)
- 高安病発症後に妊娠した計23人の、研究期間中の最終フォロー時点での疾患活動性
- 寛解:17人(74%)
- 寛解を維持:14人(61%)
- これらは、高安病発症後に妊娠していなかった人(それぞれ53%, 28%)よりも有意に高い値(p=0.02, OR 4; 95% CI 1.2-12.7)
<妊娠をした人としていない人の違い(table3)>
- 妊娠しなかった人の14例のうち、2例は発症時点で50歳以上だった
- 残りの妊娠しなかった12例について
- 6例(50%)は広範な血管病変(type Ⅴ)を有していた
- 妊娠例のうち、type Ⅴ症例は4/16(25%)だった
- 5例(42%)は腎動脈狭窄を認めた
- 妊娠例のうち、腎動脈狭窄症例は1/16(6%)だった
- IFXでの治療例が67%と多かった
- 妊娠例のうち、IFX治療症例は19%だった
- 全例でDMARDs, ステロイド使用していた
- 妊娠例のうち、使用していた割合はそれぞれ56%, 75%
<妊娠前・中・後の治療について>
- 高安病発症後に妊娠して出産した17例のうち、
- 妊娠中にPSL使用:8例(47%)
- PSL>10mg/day:2例
- AZA併用:1例
- 妊娠前、妊娠中にIFX使用:1例
- その症例では2人出生し、そのうち1人は早産だった(30週)。そして、2人出生する前に、PSL+AZA治療中で2人流産している。
- 妊娠前のみIFX使用:1例
- その症例では1人出生し、35週で早産している
- 上記IFX使用症例は、いずれも妊娠前・妊娠中の疾患活動性は高かった
- 妊娠前における治療薬剤
- PSL:83%
- DMARDs:57%
- 生物学的製剤:34%
- 妊娠を経験した人における、研究期間中の最終フォロー時点における治療薬剤
- PSL:61%
- DMARDs:39%
- 生物学的製剤:17%
- 妊娠しなかった人における、研究期間中の最終フォロー時点における治療薬剤
- PSL:83%
- DMARDs:74%
- 生物学的製剤:46%
<一般集団との比較(table4)>
- 23人妊娠し、そのうち17人(74%)が出産を経験した
- 17人のうちMRBNのデータが利用可能な16人を、一般集団のレジストリーから年齢でマッチさせたコントロールを抽出して比較
- 妊娠し、無事に出生した割合:高安病患者群で有意に低い
- 帝王切開率:高安病患者群で有意に高い
- 帝王切開したかどうかは、罹患年数・疾患活動性、治療内容とは関連なかった
- 帝王切開した症例のうち、妊娠前の疾患活動性のデータが判明した3例において、全ての症例で疾患活動性が高かった
- 高安病患者群において、死産なし、胎児発育不全なし
- 平均出産週数:高安病患者群で37.5週と有意に短かった
- Apgar score:有意差なし(9.5 vs. 9.3)
- 高安病患者内において、Apgar score < 7 の出産例はなかった
- NICU入室症例も有意差なし
- 奇形を有する新生児の割合も有意差なし(6.7% vs. 3.3%, p=0.5)
<妊娠の際における患者の精神状態について(table5)>
- 少なくとも1つ以上の不安なことがあった患者の割合:80%
まとめ
- 高安病患者の妊娠経過は比較的良好だった
- 一般人口と比較して
- 2週間ほど出生週数が短かった
- しかしながら、子宮内胎児発育不全症例はいなかった
- 出生率は低い
- 1.5 vs. 2.1
- 母子ともに重篤な合併症は増えない
- 日本で報告されたものを支持する結果だった
-
Hidaka N, Yamanaka Y, Fujita Y, Fukushima K, Wake N. Clinical manifestations of pregnancy in patients with Takayasu arteritis: experience from a single tertiary center. Arch Gynecol Obstet 2012;285:377–85.
- しかしながら、フランスからの既報では、半数において母子ともに合併症を発症すると報告されていた
- この報告では、半数が妊娠中に診断された症例であ理、半数以上がアフリカ人であることも影響しているだろう
- 実際に、子癇前症・子癇・IUGRの頻度に関しては、今回の結果と同等だった
- インドからの既報では、高血圧や母体死亡などの割合が多かった
- この報告では、半数において腎動脈狭窄を認めていた
- 今回の報告では、妊娠例で腎動脈狭窄を認めたのは1例のみ。この症例では、妊娠中に発症し、重症の子癇と脳梗塞を発症したが、無事に出生した
- これらを踏まえると、高安動脈炎のtypeと、妊娠前・中・後のいつ診断されたかによって妊娠予後が変わると考えられる
- 妊娠前に診断されている場合には、専門医による密な経過フォローが可能である
- 帝王切開の割合は高かったが、その半数では特に妊娠合併症が明らかでなかったにも関わらず施行された
- このことからは、医療者側が血圧管理などの面から帝王切開を選択したものと考えられる
- 高安病患者のうち、60%が妊娠前に疾患活動性を有していた
- 妊娠症例では、74%が妊娠前に寛解に入っており、61%が寛解を維持していた。
- 一方で、妊娠しなかった症例では、寛解していたのは28%のみだった。かつ、DMARDs、生物学的製剤の使用割合も妊娠した患者群よりも多かった。
- 今回の症例のうち、1/3の割合で、腎動脈狭窄、冠動脈狭窄、肺動脈狭窄、疾患活動性が高いこと、生物学的製剤を使用していることで医師から妊娠を控えるよう言われていた
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