Leffler, D. A. et al. Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 12, 561–571 (2015)
De Re V, Magris R and Cannizzaro R
(2017) New Insights into the
Pathogenesis of Celiac Disease.
Front. Med. 4:137.
導入
- セリアック病は、非熱帯スプルー、グルテン性腸症、またはセリアックスプルーとも呼ばれ、小麦や大麦、オーツ(カラス麦)に含まれるタンパク質のグルテンに対する遺伝性の不耐症である。
- 全身性免疫疾患であり、様々な臨床症状を呈する
- HLA DQ2(90-95%)DQ8(5-10%)が関連しており、グルテンに晒され続けることで疾患が慢性化する
- 1970年代、セリアック病は子供の吸収不良症候群として認識されていたが、研究が進み、年代・人種・臓器に関係なく影響を与える
本邦における頻度としては、中沢先生らが以前に報告している
- 内科疾患患者719例、健常者コントロール95例
- 血清TG IgA抗体を測定し、陽性患者を十二指腸または小腸生検により病理学的に検討
- TG IgA抗体陽性は20例(2%)で、そのうち典型的な消化器症状を来たしたセリアック病は5例(0.7%)。そのうち2例は内視鏡的にCDと確認された
- TG IgA抗体陰性例にセリアック病なし、健常者コントロールにはTG IgA抗体陽性例なし
感度は100%,特異度は97%
- セリアック病の2症例にて悪性リンパ腫を発症した
- ここ10−15年で、病態に関しては研究が進んだ
- セリアック病は、外因性抗原(食事中のグルテン)が原因で、腸管の透過性・酵素が変化し、組織中のtransgulutaminase2(TG2)という自己抗原を介してグルテンにHLA・自然免疫・獲得免疫が反応する自己免疫疾患である
- 長年、獲得免疫による疾患と考えられていたが、IL-15による急性の自然免疫反応を惹起することが報告された
- この報告では、グリアジン(グルテンの構成物質)を投与することで産生されるIL-15が腸管粘膜の障害において重要な役割を果たしていることを示された
- 自然免疫活性化の後、脱アミノ酸化されたグルテンがHLA-DQ2 or DQ8に接合し、腸間膜のT細胞が活性化される
- 活性化した細胞障害性T細胞がセリアック病における腸管障害の原因である。また、一方で、液性免疫によってTG2とグルテンを標的にした自己抗体が産生される
- 活性化されたCD4陽性T細胞によって、gut-associated homing molecule α4β7とCCR9が発現する。これらは腸管だけでなく、セリアック病における腸管外病変の組織で認める。
- すなわち、腸管外病変は、獲得免疫の波及によって生じることが示唆される
- グルテンは、腸管細胞に対して腸管細胞間のtight junctionを緩めるzonulin産生を促進させる
- これによって、グルテンや他の食事性性抗原を含む外因性の抗原が腸管細胞を通過できるようになり、IL-15を含む炎症性サイトカインが放出され、自然免疫が活性化される
- TG2は損傷された細胞から放出され、抗原提示細胞(APC)表面上のHLA DQ2 or DQ8に結合する
- APCは外因性抗原をヘルパーT細胞に提示する
- ヘルパーT細胞は、IFNγやIL-21を産生し、キラーT細胞が直接腸管細胞を攻撃するよう活性化させる。IFNγはCD4陽性T細胞をTh1サイトカインタイプに分化させ、Th2, iTregを抑制する。Th1細胞はB細胞のIgクラススイッチも刺激する
- 活性化した炎症性細胞が、局所的に腸管細胞に損傷を与え消化器症状を引き起こす and/or 腸管外に移動し腸管外症状を引き起こす
- 診断
- 小腸の生検
- 絨毛の萎縮
- 陰窩の過形成
- 血清学的検査
- TG IgA抗体
- TG2に対する抗体はセリアック病特異的ではなく、クローン病、潰瘍性大腸炎など他の炎症性疾患でも陽性になる
- endomysial(EMA) IgA抗体
- HLA検査
- 抗体検査は陽性だが生検で絨毛萎縮がなかった場合
- 生検で診断がつかないがグルテンフリーを考慮する場合
- 第一親等にセリアック病の人がいる場合
腸管外症状
- 貧血
- セリアック病の腸管外病変として頻度が高く、成人患者では〜15%で認める。
- 大規模研究の報告では、子供では稀であり、〜3%程度である。
- この報告では、再発性の腹痛があり、発達障害のある子供にスクリーニングすると診断に結びつくことが多いと報告している
- 成人の最も頻度の多い症状は下痢であり、〜40%で認め、下痢症状のある患者の多くが貧血も併存している
- 貧血の成因としては鉄欠乏が最も多く、続いて葉酸欠乏・vitB12欠乏が多い
- これらの欠乏は貧血がない場合でも存在することがある
- 大球性貧血は稀である
- 吸収不良だけでなく、〜25%では慢性的な腸管炎症も関与していることがある
- 下痢だけでなく貧血も併存している場合には、重症であることを示唆している
- これらの患者は、貧血がない患者よりも、赤沈亢進、抗TG2 IgA抗体増加、コレステロール低値、重度の腸管絨毛萎縮、骨病変を伴うことが多い
- 下痢症状の程度は、IBDと異なりセリアック病では重症度の指標に適しておらず、むしろHb値、赤沈、絨毛の萎縮の程度が指標となる
- 栄養成分の不足による貧血はセリアック病の診断に繋がることがあり、インドの報告では、栄養不足による貧血の10%がセリアック病だった。アメリカの場合は、鉄欠乏の評価で内視鏡を行った患者のうち、8.7%がセリアック病だった。特に白人に多い。
- UKとアメリカの消化器内科が作成したガイドラインでは、鉄欠乏貧血の場合、全例にセリアック病をスクリーニングするよう推奨している
- しかしながら、このガイドラインには血液内科医は関わっておらず、血液内科のみる鉄欠乏性貧血でどの程度セリアック病がいるのかは不明である
- HDL or total コレステロール低値の場合は、セリアック病の可能性が上がるかもしれない
- コレステロール低値は吸収不良によって生じるが、HDLコレステロールは小腸のapolipoprotein A1によって産生される。
- 経口での鉄剤補充に反応せず、点滴での補充によって反応する場合にはセリアック病の可能性をあげる
- 筋骨格病変
- 骨密度低下は、グルテンフリーを実践している場合を除いて、成人患者、小児患者の両者で共通している
- 重度の消化器症状を伴っていることが典型的である
- 絨毛萎縮が重度であることは、骨粗鬆症と骨折リスクと関連している
- UK・アルゼンチンのコホートではリスク関与はわずかだったが、アメリカの研究ではリスクに関与していた
- 単施設研究ではセリアック病のうち〜10%の頻度で骨密度低下を認めたが、他の報告では50%に及んだ
- 閉経後だったり、他の要因で説明できない骨粗鬆症の場合は、セリアック病のスクリーニングを行なうべきである
- セリアック病において骨密度低下をきたす機序は多数ある
- vitDやCaの吸収不足、それによる二次性副甲状腺機能亢進症、炎症性サイトカイン増加、骨リモデリングのmisbalance など
- 治療はグルテンフリーの食事と、Ca、vitD摂取である
- ゾレドロン酸に関しては、グルテンフリーに加えても有効でなかったとの報告あり
- 関節炎
- 血清反応性関節リウマチとセリアック病の関連を以前より示唆されていた
- 成人では、骨シンチにて、仙腸関節炎をセリアック病の60%に認める
- 他の研究では、200人のセリアック病患者にて、関節炎を26%の頻度で認めたと報告あり
- 関節炎は末梢性と体軸性の両者ある
- 皮膚
- 疱疹状皮膚炎
- セリアック病のよく知られた腸管外病変として知られている
- 掻痒を伴う丘疹として、関節伸側(肘・膝)や臀部・背部に認める(figure3)
- 病変は限局的 or びまん性のいずれもある
- 間欠的な場合もあり、本人や家族から以前に痒みを伴う皮疹がなかったか聴取する必要がある
- 診断は、皮膚生検にて顆粒状IgA沈着を認めること、真皮乳頭層に好中球浸潤を認めることで可能である
- 場合によっては非特異的な炎症しか認めない場合もあり、その場合には診断は困難である。
- 生検部位は、病変と思われる周囲の正常に見える皮膚で行なうことが望ましい。
- 皮膚にはTG familyであるTG3が発現しており、これが皮膚病変に関与している可能性がある
- しかしながら、TG2抗体を有する患者の中で疱疹状皮膚炎を発症する患者はわずかである。これに関しては理由は明らかでない。
- グルテンフリーの食事によって数ヶ月かけて疱疹状皮膚炎も軽快し、活動性と抗TG2 IgA抗体価としばしば相関する。
- ダプソンやスルファピリジンによって早く改善すりかもしれない
- 難治性の場合には、本当にグルテンフリーを実践できているか調べることが必要である
- 湿疹、乾癬
- 病理学的には関連がないが、セリアック病は乾癬のリスクでもある
- セリアック病が軽快すると乾癬の活動性も落ち着くことが多い
- セリアック病患者で乾癬をスクリーニングする推奨は存在しないが、難治性の乾癬の場合にはセリアック病を調べても考慮すべきである
- 神経病変
- グルテンataxia
- バランス、歩行、眼球運動、四肢の協調運動ができなくなるものであり、セリアック病の神経病変の中で〜50%をしめる
- 小脳起源性の失調であるが、ミオクローヌスも認めることがある
- 臨床経過は、緩徐発症〜急性発症まで多様である
- 感覚運動神経障害も併存することがある
- グルテンaxaxiaを有する患者の〜60%は腸管絨毛の萎縮を認めず、消化器症状と併存することは稀である
- 血管周囲に存在するTG2に対する抗体が、プルキンエ細胞に対して交差反応を示す。また、TG6が脳に発現しており、グルテンataxiaを有する患者の85%ではTG2とTG6に対する抗体が存在する。
- スクリーニング検査としては、グリアジン抗体(IgA, IgG)TG6抗体が適している
- グルテンフリーによる症状改善は遅れると個人差があるため、早期発見して損傷を最小限にする必要がある
- 自閉症
- セリアック病と自閉症に関連があるという報告があったが、より大きな研究でそれは否定された
- 統合失調症
- 統合失調症の患者に対してグルテンフリーの食事としたら、症状が改善したという報告と改善しなかったという報告の両者がある
小児患者における腸管外病変
- 発達障害
- 発達障害の最大8.3%がセリアック病という報告がある
- 機序としては、血清のIGF-1とIGF binding proteinが低下していることが関係しているかもしれない
- グルテンフリーにすると身長が伸び、食事変更して3年後には正常に追いつくことが多い
- 性線成熟の遅れ
- ホルモン、受容体、内分泌臓器に対する直接的な自己抗体や、吸収不良症候群による低栄養の関与が示唆されている
臓器特異的な腸管外病変
- 肝臓
- 活動性のセリアック病における肝炎は多い
- 10%程度で、他には説明できる原因のない肝酵素上昇がある
- 肝硬変や肝不全に進展することもある
- 機序は不明である
- セリアック病の診断がついた時点で、肝臓のスクリーニングを行なうことが必要である
- 自己免疫性肝炎やPBCの併存も多い
- グルテンフリーでよくなることが多い
- 脾臓
- セリアック病の〜30%で、脾臓低形成や無脾症がある
- 莢膜を有する菌による感染のリスクが増加するので、重症感染の既往がある場合にはワクチン接種が推奨される
- 肺
- 頻度は稀だが、致死的である
-
Lane–Hamilton syndrome という、セリアック病に特徴的な症候群があり、血痰や呼吸困難を呈するヘモジデローシスがある
- TG2抗体が肺と腸管で交差反応を生じている機序が想定されている
- グルテンフリーで軽快することがある
- 腎
- 糸球体腎炎と末期腎不全のリスクが上がることが報告されているが、頻度は稀である
- 心臓
- セリアック病患者では虚血性心疾患のリスクが下がることが報告されており、これは吸収不良によるコレステロール低下が関与していると思われる
- 膵臓
- 多様な膵臓病変と関連している
- 急性膵炎、慢性膵炎、外分泌機能低下など
- 再発性の急性膵炎を起こした報告もある
- グルテンフリーに反応する
- 十二指腸の炎症がOddi括約筋の閉塞に繋がり、引き起こされるのかもしれない
- 急性膵炎よりも慢性膵炎が多いが、病態は不明である
- 生殖機能
- TG2抗体が胎盤の機能を低下させる
- 慢性炎症と吸収不良も原因として関係しているかもしれない
- 口腔内病変
- アフタが多い(figure4)
- 7歳以下の子供では、エナメル質の欠失もある
専門的な用語があるので全部わかりませんが それでもすごいことだと思いました 100%のセリアック病でなくても その傾向を持つ人は世の中に多く存在しているのではないでしょうか 自分もその一人であると感じています
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